第32話 勇者カナエの戦闘力
本日も投稿させていただきました。よろしくお願いいたします。
『ユニヴァース』と呼ばれる世界に存在する5つの大国。そのうちの一つである、『アルバス』では今、勇者の居住と訓練場を提供している。アルバスは他国と比べて面積も大きく、多種多様な地形を所持している。その多種多様な地形で勇者は訓練を積むからこそ、得られる経験もあった。また、その地形の中には過去の歴代勇者が世界の救済のために地形を変えてしまったものまで存在しており、当代の勇者達はその歴史から歴代の偉業を知ることとなる。
その一つに『ノアの渓谷』がある。
ブライ(リツ)はカナエの術によって、その峡谷に飛ばされていた。山々に挟まれた深い渓谷。何よりも、ブライの前には巨大な断崖絶壁が立ちはだかっており、人一人が米粒程度にしかならないものであった。
「すげエ場所だな。ここは……」
見上げなければ、全容が見えないほどの巨大な岩石が無数に連なっているような状態にブライは目を見張った。
『その岩石のさらに奥には、バルトス山と呼ばれるアルバスで最も高い山がそびえ立っているんだ。後ろを見て』
リツに促されて、ブライは背後を振り返った。背後にはこの巨大な渓谷と、人々が住む平地を結ぶ広大な扇状地が広がっていた。
「知らないとは言わせないわ。6代目勇者のノアが60年前、国を滅ぼしかねないバルトス山の大噴火をせき止めた。通称、ノアの台地よ」
コツコツとブーツの音を鳴らしながら、カナエはブライに声をかける。
「場所は分かったが、ネーチャンはどうしてこんなところに連れてきたンだ?」
ブライに尋ねられたカナエは周囲に顔を向ける。向けた先には、岩壁がえぐれ、砕けたと思われる巨大な岩石の破片が複数、散らばっていた。さらに、ところどころ、地面がクレーター上にくぼみ、変形している箇所も散見されている。
「ここは由緒ある場所でもあると同時に、勇者の訓練場でもあるの。激しい戦闘をするのに」
「オイ、それって……」
「決まっているでしょ? あなたの中の悪霊を成仏させるためよ」
その瞬間、カナエはまばゆい光を発した。
「待ってください! カナエさん。これには訳が!」
ブライから急いでリツに切り替わり、リツは声を上げた。だが、すでに遅かった。
「リゼオス・コルナギア(光聖の肉体活性)」
カナエの全身にまばゆい光が帯びた途端、一瞬にしてリツの懐に入った。
「レブリア(脚撃)!」
リツの顔にめがけて、カナエの茶色のブーツから放たれる、高速の回し蹴りが襲い掛かる。その威力を察知したブライは、表情を急変させる。
『変われ!』
瞬時に切り替わったブライが膝を折って、極限にまで上半身を反らした。すぐさまカナエの上段蹴りがブライの鼻先を通過する。その瞬間、蹴りの軌道を描いた扇形の光のオーラが放出された。オーラはブライでもかろうじて目で捕捉できるかどうかの初速で進撃し、衝突した岩壁は大爆発を起こしながら、雪崩を引き起こした。
(このネーチャン、やべえぞ。マジで)
反った身体で後方の様子を視認したブライは額から汗がにじみ出た。
『カナエさんの光聖魔術は、光を利用した攻撃。威力も速さも尋常じゃない。おまけに俺の知っている時よりもさらに強くなっているし。肉体再生するブライでも直撃したら、ただじゃすまないと思う』
(なんだよ、勇者ってこんなバケモンばっかりなのかよ……)
「まさか避けられるなんてね」
カナエは回避されたことに苛立ちを覚えていた。故にカナエはさらにギアをもう一度段階入れる。
「コンテピック(連撃)!」
カナエは舞い踊るかのように脚を振り回し、光のオーラをブライに向けて絶え間なく、放ち続ける。
(マジかよ)
ブライは反らした身体から両脚を蹴り上げて、後退する。元いた場所は爆散し、爆炎と灰塵が吹き荒れる。さらにそこから、複数の光のオーラが爆炎を一瞬で吹き飛ばし、ブライに向けて飛んでいく。ブライは真横に跳躍し、光のオーラの直撃を回避する。しかし、いくつかのオーラは追尾を開始、ブライを挟み込むように襲いかかる。それをブライは上空へ大きく跳躍し、回避する。足元ではオーラ同士の衝突で大爆発を起こしていた。
「ぐっ」
下から押し上げるような強力な風圧。ブライはバランスを取ろうとした時に、足元の爆炎に紛れて、光のオーラが迫ってきていた。
「剣戟・武来冠!」
ブライは剣の柄を強く握りしめて、頭上から剣を強く振り下ろした。振り下ろされた時の鈍い風切り音とともに、オーラの光を二等分に分断した。割れた切片は上空へとどこまでも飛んでいき、見えなくなる。
「忠告しておくけど、素直に降参した方がいいわよ」
カナエは左手に所持していたレイピアの切っ先を落下するブライに狙いを合わせつつ、ブライに進言した。
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