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7代目勇者ー勇者をクビになった俺が相棒となら、この世界を救えるのだろうか?  作者: 酒月 河須(さかづき かわす)
第1章 勇者としての始まり
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第31話 ガシスとリツ

本日も投稿させていただきました。よろしくお願いいたします。

勇者の関係者たちが慌ただしく廊下を駆け巡る中を、ガシスはかいくぐって、その日に納品する武器をカリオスに届けた。


「一体、何があった?」

ガシスがカリオスに尋ねると、カリオスは青ざめた表情で口を開く。


「リツ殿の部隊が……魔物の討伐に失敗して、致命傷を……」


「なっ……大丈夫なのか!? 」


「リツ殿は大怪我をしたのですが、命に係わるものでは無いとのことです。ただ、彼を庇った部隊の人達が致命傷を負って必死の治療をしているとのことで……」


その話を聞いたガシスは愕然とした。今すぐにでも会って話がしたいと思った。だが、いくら武器を納品する業者のガシスでも、勇者に易々とは会えない。ましてや非常事態となれば、なおさらだった。


ただ彼の無事を祈るだけ。ガシスはそう思いつつ、数日が過ぎた頃。

ガシスは自身の調達した武器のせいで、リツが負傷したのではないかというこじつけをカリオスに進言したことで、何とかリツと対面することに成功した。


「ガシスさんが、責任を感じることなんて何もないのに……わざわざそこまでのことをしなくても」

カリオスにそう言われたが、ガシスは強い意思で彼と面会することとなる。


リツの療養している部屋にガシスは入ると、ベッドから起き上がり、窓の外を呆然と眺めている青年のリツの姿があった。


「お前さんが勇者のリツか?」

ガシスが尋ねると、リツは虚ろな左目でガシスの方を振り向いた。振り向いた彼の頭と右目には包帯がグルグルと巻かれており、とても痛々しい。


「なんでしょう? 俺を責めに来たのですか?」

悲壮あふれるその声に、ガシスの胸が締め付けられる。


「俺はガシス。お前さんを含めた勇者の武器を調達している元鍛冶師の行商人だ。言っておくが、お前さんを責めになんか来ていない。今日はお前さんと話がしたくてここに来た」


「話……ですか?」

リツはガシスから視線を外し、負傷してギブスを巻いた自身の左腕を見やる。


「経緯は聞いている。お前さんのこと、そして、味方の連中のことも」

ガシスがそう言うと、リツは左目から一筋の涙を流した。


「そうです。俺の力がないばかりに取返しの付かないことを……」

リツがそう呟くと、ガシスは激しく首を横に振った。


「取返しは付いている。お前さんを庇った連中も、意識を取り戻したと聞いている。治療には時間がかかるようだが、ちゃんと普通の生活に戻れると聞いている。だから、自分を責め……」


「もう限界なんです!! 自分が何もできないことに!」

突如として、リツは吠えた。


「俺はこの世界に来る前も何もできちゃいなかった。この世界に来て、勇者として扱われて、やっと俺は何かを成し遂げられるかと思った。でも……違った! ただ無力な自分をさらし続けるだけ。それでも、まだ自分には何か可能性が残っているとそう思い込むだけで何とか耐えられた。でも……」

リツは喉を詰まらせるように泣きはじめる。すると、リツの右目に巻かれていた包帯が、リツの涙で滲み始めていた。


「自分の無力さで他人が傷つくのは、耐えられない。俺のちっぽけな可能性なんかのために、こんな事態になって……もう」


その瞬間、ガシスは静かにリツの身体を抱き寄せた。

ガシスもまた、涙を目に浮かべつつ、何一つ言葉を口にすることはない。


まだ頑張れるなんて言葉は野暮であり、ただ彼の思いを受け止めることこそ、今は大事なのだとガシスは思う。


むせび泣くリツの感触が、ガシスの懐を占めていく。徐々に占めていくその感覚の中で、ガシスの胸を締め付けられていく。だが、そんなガシスにリツは更なる言葉で突き刺しにかかった。


「限界なんです。勇者として何もできない、他人の足を引っ張る存在なんてもうこの世界でもいらない。だから、俺は……」


ガシスは即座に自身の胸の位置にあったリツの顔を自分の顔近くに引き寄せた。リツが口にしようとしている、その先の言葉を遮るため。いや、遮らなければならないと感じたためだ。予想してなかった展開にに口を噤んでしまったリツにガシスは言葉をかける。それは普段、感情を表に出さないガシスがその時だけ、感情が高まり、自身でも想像だにしない言葉を口にしてしまったのだ。


「勇者としてダメだからって、何なんだ? お前さんの人生はそれ以外の選択肢だってある。だから、早まるな! お前さんが何かを選ぶ取るその日まで、俺がお前さんの側にいてやる! 今はそのタイミングじゃないだけだ。これからきっとそういう瞬間がある」

気難しそうな高齢の白髪の男が急に熱をもって、自分に話しかけてきたことに、リツは戸惑い、うろたえた。


「でも……俺は勇者じゃなければ……この世界で生きていく方法なんて」


「だから、俺が面倒を見る。今日からはお前さんは勇者のリツじゃない。行商人の俺の弟子である、リッツだ! 分かったか! 悪いが、これは決定事項だ。上の連中のことなんて関係ねえ」

それから、ガシスは勇者の関係者に許可なく、リツを連れ出して自身の弟子とした。厳重な館でそれを可能にすることは容易ではない。だからこそ、ガシスは自身の伝手でとある権力者にお願いをした。


その権力者の力もあって、勇者の館や公では勇者リツが失踪扱いとなる。


そして、リツとガシスが2人で生活を始めてひと月が経つ頃、リツと会話ができる剣のブライと出会うのであった。


それが事の顛末であり、ガシスがカリオスに向けて正直に説明した内容であった。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。

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