第27話 お願い
本日も投稿しました。よろしくお願いいたします。
「おまちしておりました。ガシス殿。本日も武器の調達、お疲れ様です」
扉を開けた先に出迎えてくれたのは、カリオスという神父。リツがこの世界にやってきた時にも挨拶してくれた物腰の柔らかい老父である。
「ああ。今日は弟子のレイにも来てもらっている。武器持ちで来てもらっているが、良いよな?」
レイとはリツの別名。さすがにリッツではばれる可能性が非常に高い。
「もちろんです。レイ殿も武器の調達に手伝っていただき、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀するカリオスに、無言でリツも小さく頭を下げた。カリオスの様子からばれている様子はなさそうだとリツは理解する。少しだけこわばった身体がほぐれていくのを感じた。
「そんじゃあ、これらの武器はいつも通り、倉庫においておけば良いか?」
ブライがいつも通りの様子でカリオスに尋ねている。年の功なのか、肝の据わり方がそもそも違うのか、リツという爆弾を抱えていても平常であった。
「ええ、それで問題ありません。レイ殿。倉庫まで案内しますので、そちらに武器の運搬をお願いします」
そこから先については、カリオスの誘導で倉庫まで案内される。途中の通路はリツも良く知っているものだが、始めて案内されたかのように、少しだけ視線を右往左往させた。
歩いて2分ほどで倉庫に到着し、カリオスの指示の元で武器を丁寧に置いていく。すべてを置いた時にカリオスはリツに声をかけた。
「こちらで納品を確認します。レイ殿はガシス殿とともに待合室でお待ちいただきたいと思います」
レイ(リツ)はコクリと頷き、待合室のガシスのところに合流する。
「終わったようだな」
戻ってきたレイを見たガシスが、声をかける。ガシスは納品に関する事務処理の手続きをしていた。
リツは首肯し、ガシスの隣に着席する。目の前の机には、紅茶の入った、ティーカップが置いてある。
「お前のぶんだ」
ガシスに言われて、リツはカップに口を付ける。ゆらりと立ち上る蒸気に、茶葉の香りが鼻腔をくすぐる。
(あのころはそこまで気にも留めなかったけど……美味かったんだな。いや、仕事終わりの一杯だから、格別なのかな。一先ず、完了して良かった)
リツが達成感と幸福感に包まれていた。やればできるものだし、ただの杞憂だったのと思い知る。だが、そんなひと時を許さぬものがその場に一人。否、律の中に存在していた。
『何、終わった気になってるンだよ! もう一つ、あンだろ! 最も大事な仕事がよ!!』
脳内でブライは大声で叫んだ。リツは耳に爆竹を詰め込まれたような衝撃で、歯を食いしばる。
変装の一件に、ドアノブの挑発行為。リツはブライの呼びかけを完全に無視している最中だった。ブライも無視され続けた結果、口を閉ざしていたが、重要な仕事に手を付けないリツにしびれを切らしていたのだ。
(そんな大声を出さないで。分かってるから)
ギャーギャー騒ぐブライにだんまりを決めこんでいたリツもしびれを切らして、答える。
『もしやこれまでのやり返しか? それは悪かったと思う。だから、頼むからよォ』
ブライの珍しい謝罪に、リツも少しだけ機嫌を直す。あとはブライの猫なで声で頼む姿がリツにとって目障りでもあったため、話を進めるしかないのだと感じていた。
(分かってるよ。ただ、そのタイミングが来てないだけで……)
『本当だな? ちゃんと俺を人間に戻してくれる人間に会わせてくれるんだよな?』
(人間に戻してくれるかは確約できないけれど、解呪に詳しい人がここにはいる。あんたのそれが呪いによるものなら……)
リツは、手元の剣を眺めながら念じて答える。
『呪いだかなんだか知らねエが、まずはそいつに会わなければ始まらねエ。たしか、アマネっていう神官だっけか? どうやって会うんだ?』
(いちおう、ブライさんには話を通しているけど……ちょっと待って。カリオスさんが戻ってきた)
「ガシス殿、レイ殿。納品の品物は無事にすべてございました。今回もありがとうございます」
「それなら、良かった。こちらこそ取引いただき、感謝している……ところで、実はお願いがあるんだが……」
ガシスは隣のリツをチラリと見ながら、カリオスに話を持ちかける。
「ガシスさんのお願いであれば、私どもとして無碍にはできませんね。可能な範囲で答えますが……」
「実は、レイが所持している剣が妖刀のような気がしてな。そちらのアマネさんが解呪や神聖術に詳しいし、ちょいと調べて頂けねえかなと」
「アマネにですか。ちょうど、この館にいますし……ちょっと聞いて来ます」
カリオスはそう言って、部屋を出ていく。
『おおっ! さすがガシスのダンナだな!』
カリオスが出ていったあと、リツの脳内にブライは声をかけた。
(ここまではね。だけれど、過剰な期待はしないでよ。アマネさんができると確定しているわけじゃないんだから)
リツは、浮かれているブライに何かあっても揉めないように戒めの言葉を口にした。
『分かってるぜ。おっと、早速、ジイサンが来たようだな』
そんなリツの言葉はどこ吹く風か。依然としてブライの声音は弾んでいた。
一方のカリオスはあまり浮かない表情であり、リツは嫌な予感を抱いた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。