第24話 セレスの夢
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「口外無用でお願いしたいんだけれど……私の村で、この武器を所持しているの。そして、この武器は6代目勇者によって伝承されている」
セレスはそう切り出した。
「6代目勇者が!? 一体どういう……」
リツは目を丸くした。
「驚くのも無理もないよね。ただ、本当に偶然そうなったらしいの」
「偶然……とは?」
「私の村は、力も権力も何もないところなの。それで自己防衛手段を全く持っていなかったから、魔物に襲われて滅びかけていた。そんなところをたまたま通りかかった6代目勇者に救われて、自己防衛手段として銃を授けられたの。使い方だけじゃなく、作り方やメンテナンスも含めてね。ただし、この銃という武器について余所に口外するのは禁止という条件付きで……」
そこまで聞いたリツは安堵した。なぜなら、リツが懸念していた事項は今のセレスの一言で、ある程度は回避されたため。そして、リツはセレスの言葉を引き継いで、話し始めた。
「少ない魔力で強力な力が行使できるかもしれない技術。それはつまり、誰もが強力な戦闘力を持てるかもしれない技術。そして、一度争いが生じたら、これまでの比にならないくらいの殺戮が起きてしまう。だからこそ、口外禁止されている。というところでしょうか?」
『なるほど、そういうことだったのか!? そりゃあ、やべエな!』
リツの内で、ブライが感心しつつも、大声で叫んでいた。
「すごいね。リツ君は。行商人としてそこまで読み取れるなんて、才能あるよ」
リツは褒められたが、首をフルフルと横に振った。なぜなら、そのことを過去の歴史として教わってきたから、当然のことだった。
「私はこれが素晴らしい技術だと思っている。誰もが魔物に襲われても、防衛できる技術だと思う。でも、扱い方を間違えれば恐ろしいことになる」
「セレスさん。一つ、疑問なんですが、そこまでのものを使ってまで、ここで討伐している理由はなんなんですか? 俺みたいなやつにばれるかもしれませんし」
「魔物討伐でお金を稼ぐことが目的よ。魔物討伐はかなり羽振りが良いしね。そこで得たお金を村に収めているわ。あと、私の夢のためにもお金を稼いでいる」
「夢……ですか?」
「実現するためにはお金がすごく必要でね」
「一体どんな夢を……」
セレスはウェストポーチから古びた本を取り出して、口を開く。
「この本に記載の、飛行艇と呼ばれる空飛ぶ乗り物で、たくさんの人がいろんな場所に行き来できるようにする。それが私の夢なの」
「『空飛ぶ乗り物!?』」
リツとブライは二人で驚き、声もそろってしまった。
「この本は6代目勇者が村のために遺してくれた本でね。色々な技術が書いてあるけれど、その中に飛行艇の設計図が記載してあるの」
セレスはすっと、リツに本を渡した。
リツはパラパラと本をめくり、驚愕する。そこにはリツの元いた世界の技術が無数に存在していた。
「飛行艇以外にもたくさん、すごい技術があってね。この世界にもたらせればどれだけ素晴らしいものか」
セレスは空を見上げて、さらに思いを口にする。
「この世界は魔力や生まれ持った権力ですべてが決まってしまうところがある。でも、人間ってもっと平等で自由であっても良いと思っていてね。それを実現するための技術やノウハウがここに詰まっている。私はそれのどれかを実現できたらと思って……」
思いを口にしたセレスはハッとしようにリツの方を見る。その時の顔は、少し恥ずかしそうで、頬が赤く染まっていた。
「幼稚な夢……だよね?」
「そんなことはねエ」
リツから切り替わったブライが断言した。ブライは真顔でセレスの方をじっと見る。
「他人の幸せを願ってのモンなのに、幼稚なんて言葉で片づけンなよ。世の中、自分のことだけで頭一杯になってる連中がたくさんいる中で、そういう夢を持てるのは、カッコイイぜ」
さきほどまで説教していた時とは打って変わって、ブライはセレスを大絶賛した。
「でも、ちょっと無謀かなって」
セレスは視線を真横に向けながら、人差し指で頬を搔いている。
「六代目勇者ってすんげエ賢い奴が考えたもんだろ? そんな奴が考えたものがただの無謀なだけのものなのか? なあ、リツ、オマエはどう思う?」
ブライは自分の胸に視点を合わせて、問いかける。すると、リツは内側からブライへ言葉を発した。
『無謀では無いよ』
リツは断言した。なぜなら、リツはそれを間近で見ているのだから。そして、この世界にその乗り物があればと思ったことが何度もあったからこそ、はっきりと言葉にしたのだ。
(へえ、慎重なオマエがそこまで言うとはねエ)
ブライは口元を緩めながら、セレスの方に視点を戻す。口をぎゅっと結んでいたセレスの様子を見て、ブライは緊張をほぐそうとして、ニッと微笑んだ。
「慎重なリツも無謀じゃねエと言っていた。だから、きっと叶うさ。その乗り物ができることを、楽しみにしているぜ」
ブライの言葉に、セレスの胸のひっかかりが徐々にほどけていくような感触があった。
「ありがとう。私、頑張ってみる」
セレスは軽く握った拳を胸の前において、微笑んだ。
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