表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7代目勇者ー勇者をクビになった俺が相棒となら、この世界を救えるのだろうか?  作者: 酒月 河須(さかづき かわす)
第1章 勇者としての始まり
21/47

第20話 切り札 

本日も投稿しました。引き続きよろしくお願いいたします。

「フーガス(氷術)!」

私が吠えると、弾丸が弾けた。弾けた弾丸の中から突如として樹氷が顕現する。そして、樹氷は氷の槍となって、猪を突き刺していった。


悲鳴をあげる猪。だが、そんなことはお構いなしに猪の体内で樹氷は成長していき、氷の枝が胴体を貫通させる。吠える猪の吐息は白く、周囲をも凍てつかせる。


渾身の一撃であり、私の切り札の1つ。これで仕留められないモンスターに私はこれまで出会った事はなかった。先の戦闘では味方が巻き添えを食らう可能性があるため、発動できなかったが、今回は一人。そのすべてをぶつけられる。


「猪の情報と私の切り札。勝機が全く無い状態で、挑んでいるわけじゃないよ。ライキさん、ガガンさん、カイ君」


私は自分に掛けていた風魔術を解除、宙に浮いた身体が再び落下運動を開始させる。私は落下途中で近くの木の枝を掴んでは、身体を翻して、大木の枝に着地する。そこから、その周囲で最も高い大木の頂上付近まで跳躍しながら、移動する。離れた標的の様子を窺うためだ。


スコープ越しに映るのは、透き通るような無数の氷の槍とそれに貫かれる猪。そして、猪から流れ出る鮮血が氷をつたって地面を赤く濡らしている。猪の方は少しずつ動きが鈍くなっており、咆哮も勢いを失っている。弱っていることは間違いない。


「どうよ」

私は銃を構えつつ、上空からゆっくりと近づいていく。その間、猪は動く素振りも見せず、弱弱しく鳴くようになっていた。


私も先ほどの一撃と、前の戦闘で魔力も体力もあまり残っていない。加えて、ライフルから射出できる弾丸は残り3発。それも、先ほどの一撃ほど強力なものは放てない。確実に仕留めるには接近して打ち込むほかない。


少し息が上がる中で、私は猪の頭上までやってきた。


(目測で20メートル前後。ここまで近ければ、今の私の弾丸の威力でも、あの硬い皮膚を貫けるかな)


無数の氷の槍に貫かれた猪を眺めつつ、私はレバーを前後して狙いを定めた。

後は引き金を引くのみ。


しっかりと狙いを定めたその時、弱っていた猪と目があった。血まみれの身体で動きも鈍い。それなのに、その目はまだ、狩る側であることを主張していたのだ。


嫌な予感がする。

私は急いで引き金を引こうとすると、猪が咆哮をあげた。


「ゴギャアアアアアア!!!」

猪は突き刺された氷の槍は関係無いと言わんばかりに暴れ出した。さらに猪の身体から血が噴き出るのだが、さらに暴れ出す。すると、身体中に刻印が浮かび上がり、全身がバチバチと電撃を帯びる。


「もうくたばって!」

私は急いで猪の眉間に向けて、弾丸を放った。だが、発砲したと同時に、目の前の大きな物体は煙のように消失し、弾丸だけがそこを通過した。


「うそ……何が……」

その光景に目を疑った。いや、理解が追いつかない。スコープから目を離し、顔を動かす。すると、背後に氷の槍が突き刺さった猪がこちらに向けて突進してきた。


鋭利で巨大な牙が私の腹部に向かってくる。私はとっさにライフルを盾にするのだが、ライフルごと、吹き飛ばされてしまった。


「がはっ」

内臓への激しい衝撃と、骨の軋む音。かなりの強度をもつ銃でガードしたにも関わらず、致命的な一撃であった。おまけに、しびれるような痛みが全身をめぐる。

ただ、運が良いのはあの牙の餌食にはならなかったことだ。もし、まともに喰らえば、即死であったのだろう。

そして、この時、自分に起きた事象を私は理解した。


(全身を雷魔法で強化……それであのとんでもスピードを生み出したのね)

それは先の戦闘では確認されなかったものだった。つまり、やつは最後の最後まで切り札をとっておいたのだ。


宙に浮いた身体は電撃で指先も動かず、銃を手放してしまった。回転する視界、意識も遠のいていく。その中で視界にちらりと映った猪は牙に雷撃を溜めている。


私へのとどめの一撃なのだろう。ああ、ここで敗れるのか。


(まだ、こんなところで終わりたくはないのに……)


歯を食いしばろうとするが、その力も沸いてこない。


(ライキさん、ガガンさん、カイ君はうまく逃げられたのかな? きっと大丈夫だよね)


猪から射出される雷撃。そのまばゆい光が全身を包み込んでいく。


「おいおい、ネーチャン。派手にやられてんな」

そんな最中、聞き覚えの無い男の人の声が聞こえてきた。


私を天へと連れていく案内人だろうか? いや、それなら、あんな粗暴な声になるだろうか?もう少し優しい声音でも良い気がする。甘くて優しい男の人であるなら、理想かも。


「死神?」

そう。その表現の方がしっくりくる。


「誰が死神だ。助けにきた人間に言うことじゃねエぞ」

男がそう言うと、目がつぶれるほどに眩しかった光が徐々に収まっていく。それに伴い、光で見えなかった景色の輪郭が徐々に鮮明になっていく。どうやら、宙に浮いた自分の身体を男の人が受け止めたようだ。


「何が……起きたの? あなたは?」

 私は目の前にいる男の人に尋ねた。徐々に鮮明になるその男の人は、たぶん、私と同い年くらい。表情は見えないし、口調も粗暴だが、敵ではない事だけは確かだった。


「疲れてンだろ? 少し寝てな。この猪はオレがケリをつける」

男はそう言ってのけた。そこには確かな自信を感じ、きっとやってくれるのだろうと思えてしまうほどに。そう感じた瞬間、私の中の緊張の糸が解けた。そして、自然と目が閉じてしまった。


お願い。声にすることはできなかったが、唇でそう必死に伝えた。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ