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トークショー

「いやー、昨日のマジックショーはすごかったですね!エリックさん、俺尊敬しましたよ!」

薄いブルーの瞳にふわふわ猫毛の金髪を左右に揺らしながら、興奮気味に感想を伝えてきたのは、レストランの従業員のデュカ君。

「僕も本当に凄いと思いました。あの構成は良いですね。」

その横で、黒髪に切れ長の目をした眼鏡の若者が、冷静にうなずいている。

こちらも従業員のキアン君で幼馴染の二人は静と動の対極な性格のようだが、仲は良いようである。

「俺たちもあんな風に観客を喜ばせたいなぁー、なぁ、キアン!」

「……ああ。そうだな。」

キアン君は感情の読めない無表情で返事を返す。

この世界に来てから、ドタバタ続きだったので、ようやくゆっくり話す時間ができたので、全員勢ぞろいでお茶をしているところである。

「昨日は朱里のおかげで、あんなに上手くいったんだよ。あんなにお客さんが楽しんでくれたショーは久しぶりで嬉しかったよ。ありがとう、朱里。」

そう言ってエリックさんはニコニコ笑う。」

「あなたが自信をもってマジックやってる姿、カッコよかったわ。アドバイスもらえて本当に良かった。次も楽しみにしているわね。」

焼きたてのアップルパイを皆に切り分けながら、リリックさんもほほ笑む。

「お世話になった二人に喜んでもらえて、私も嬉しかったです。またお手伝いさせてくださいね。」

ずっとタダでお世話になっているなんてできないし、私にできることがあればやろうと気力が満ちてくる。

「ありがとう、少しずつで良いからね。」

まだ、王都の病にかかっている(と思われている)私には甘い二人は優しく微笑む。

「二人はどんなショーをやっているんですか?観てみたいです。」

ルックスのよい青年二人のショーは人気なんだろうなと、期待をしながら訊いてみる。

「僕たちがやっているのは話術をメインとした演劇です。」

 二人で演劇。斬新だなぁ。漫才みたいな感じだろうか。

「小さいころに観た演劇に憧れて、始めたんだけど、優秀な演者は皆王都に行ってしまったから今は二人になっちゃったんだ。」

 困ったように肩をすくめるデュカ君。

 「僕たちの出番は明日の夜です。良かったら観に来てください。」淡々と話すキアン君。

 子犬のように表情のクルクル変わるデュカ君の演技は想像つくけれどクールなキアン君がどんな劇をするのか、非常に興味が湧いてきた。

 「ええ、是非。観に行きますね。」

 従業員の二人とも親睦が深められて良かったし、明日がまた楽しみになる。

 

 翌日はお昼前に食堂の仕込みのお手伝いをし、開店後はキアン君やデュカ君に教えてもらいながら、配膳などをこなすとあっという間に日が暮れた。充実していると時間があっというまに過ぎる。

賄いを食べ終えてカウンターでまったりしていると、仕掛け時計が飛び出し、九時を知らせる。

 前回のマジックショーとは客層が違い、客席には若い女性が何人も来ている。

 クール&可愛いが揃った青年コンビはここではアイドルのような存在なんだろう。

 

 時計が鳴りやむと、二人が舞台袖から真ん中へ元気よく走ってきた。

 「皆さん、どーもー!俺はデュカ」

 「僕はキアン」

 「二人合わせて~、デュカと」

 「キアンです。」

 (……当たり前の自己紹介……いや逆にクセが強い系なのか??)

 

 「昨日、面白いことがあったんだ。聞いてくれよ。外を歩いていたらさ。下にバナナが落ちててさ、気づかなくて滑ってしまったんだよー。」

 「ふむ、清掃法第5条違反だな。」

 「いや、気になって欲しいのはそっちじゃなくて。」

 「で、どうしたんだ?」

 「滑って、腰を打ったから、整体師のデュークさんのところへ駆け込んだんだ。」 

 「バナナは拾ったのか?」

 「いや。整体師のデュークさんの話をさせてくれよ。」

 「拾ったのか?」

 「……拾ってない。」

 「遺失物法2条違反だな。」

 「いや、届け出る必要ある?バナナは皮だけだよ??」

 「じゃあ、ゴミに気づいて清掃しなかった。清掃法6条違反だな。」

 「いや、これ台本に書いたシチュエーションだから、実際には違反してないよ。」

 「なら、最初からそう言え。」

 「ややこしいなぁ、本題にたどり着けないよ。」

  ……

 

 結局、進むたびに条例に引っ掛かり、本題の演劇にたどり着けないまま時間になった。

 ショーとしてはいまいちの内容だが、若い女性ファンは満足そうな笑みを浮かべて帰って行った。

 そして、なぜか子供連れの親子も笑顔で帰って行った。

   

 「あのー台本の読み合わせとか練習したんですか?」

 「んー、あまり台本を見せると結局全部細かくチェック入って、先に進まないから大まかな内容しか合わせてないんだよね。」

  つまり行き当たりばったりなのか。それで逐一ツッコミがはいるスタイルができたわけだ。

 「……どういう演劇をやりたいのかと演劇に関する法律のことを教えてもらっていいですか?」


 デュカ君からはやりたい演劇の内容、キアン君からは法律について、演劇で禁止されることから一般的な禁止事項などを教えてもらう。


 必要そうなところをピックアップするとこうだ。


 演劇に関する法律(抜粋)

 ・男女が公の場で過度にお互いに触れることを禁じる。(違反例 腰に手を回す、手を握る、接吻等)

 ・観客を危険にさらす行為を禁じる。(火気、爆発物、危険物の使用等)

 ・違法な行為を誘発することを禁じる。(暴力、窃盗、不法投棄等)


 違法な行為に該当しないための基本法令:刑法、清掃法、遺失物法、衛生法、動物魔族愛護法、医療薬事魔術法…

 教えてもらえばもらうほど、法治国家なので安全で清潔で暮らしやすい国だということが分かった。安心感はあるものの…法律多すぎる!演劇や娯楽をやるにあたって、これだけ規制が多いと面白いものができなくなるのもわかる。日本のバラエティーも規制が多くて面白味がなくなることがあると言われているが、ここまでくるとつらいな。


デュカ君のやりたいこと

・感動の恋愛ストーリー

・迫力ある戦闘シーン

・観客を涙が出るまで笑わせること


 なるほど、デュカ君の希望の恋愛ストーリーをやろうとすると、男女の触れ合いの法律に引っ掛かり、かっこいい戦闘ものは暴力行為の誘発に該当する……。だから、台本を書くたびキアン君が法律的に引っ掛かるものを指摘する、あのスタイルのショーになっているのか……。これは、対策が大変そうだ。目を閉じて思案する。


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