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マジックショー

 今夜は、夕食後にレストランでマジックショーがある。

 体調も良いので、喜劇場としての営業の場を見学させてもらえることになった。

 出演者はなんと、エリックさん。

 魔法の存在する異世界でのショー、とても楽しみでワクワクする。


 夜9時を過ぎるとレストランの食事客は食事を終えて帰宅する人が多い。

 ここからが喜劇場としての始動時間である。お客さんはそんなに多くは無いが、近所の馴染みの人が多い。


 レストランにある大きな仕掛け時計から鳥が飛び出し、9時を告げる。

 これもエリックさんの発明した時計らしい。ユーモアがあってとても器用な人である。


 円筒形でつばの広い帽子をかぶり、長袖の黒い上着を羽織ったエリックさんが客席の間を横切ると舞台に上がっていく。

 修理店でガサゴソと作っていた新作の発表の場でもあるらしい。

 舞台の真ん中にたったエリックさんは少し緊張した笑顔で、話し始める。


「さぁ、エリックのマジックショーの時間です。皆さんに摩訶不思議なマジックをご覧にいれましょう。」

 客は飲み物のグラスとおつまみを片手に、舞台に注目する。


「さて、ここには中に何も…入っていない箱があります。」

 電子レンジくらいのサイズの黒い木箱で、黄色の染料でなにか不思議な模様が描かれている。木箱のふたを開けて中が見えるように観客にかざす。 

 赤く塗装された内部が見えるが、確かに何も入っていない。


一度をふたを閉めて手をかざす。  

「アブラカタビラ……」

と何かを唱え、再び開いて中身を見せる。


すると中には……

灰色の小さな丸いものが見える。


「え?…何?よく見えない…」

まったくインパクトのない何かが出てきて、客はざわついている。


「ジャジャーン!何もなかったところに、カタツムリです!」

マジックが成功して自信満々に説明する笑顔のエリックさん。

予想外の地味な生き物の登場に、まばらな拍手。

客の期待が薄まるのを感じる。

まずい、これはなんかまずい気がする……。


「さて、続いてはこちらのカードをご覧ください」

手にしたカードを並べながら説明を始めたものの、エリックさんの目線は時折頭上にちらちら。

 カードの絵は数字と生き物の組み合わせになっている。

1は白い鳥、2はカタツムリ、3は長細い何かが描かれたもの…と6枚置かれた。

「サイコロの目と同じ数字のものをここに出して見せましょう。」と言ってサイコロを振る。

 しかし、観客は皆サイコロの目よりも、頭上が気になって仕方がない。

 マジックの定番と言えば白い鳥?……弧を描いて机の上で転がったサイコロは『3』で止まった。

 

 全員の視線がエリックさんの頭に集中したそのとき、


 ボロボロボロッ…

 

 ミミズが帽子の中から零れ落ちた。

 

 キャー!歓声!ではなく悲鳴がとどろく客席。

 前方の女性が白目をむいて倒れた。慌てた周りの客が女性を担いで運び出す…。手品どころではない事態になり、幕が下り本日の出し物は中止となった。


 客が帰ってガランとした劇場の舞台近くに二つの人影。最前列の客席の椅子に、エリックさんと私は1対1で座っている。

 あの後、騒然となった喜劇場はをリリックさんの親衛隊のお客さんが指揮を執って鎮静化してくれた。

 私も片づけを手伝い、ひと段落着いたところである。

 さて、どこからツッコミを入れていいものか……。


「なんでカタツムリとミミズを出したんですか?」

 ため息交じりに質問する。


「だって、狭くて暗いところに入れるから、そういうところが大丈夫な生き物にしたんだよ。他の生き物だと可哀そうかなって」

 しゅんとした表情で首をすくめてみせる。



 この国では動物および魔物の愛護に関する法律略して動魔愛護法が厳しく定められている。動物や魔物を違法飼育や虐待に非常に厳しい。小さい鳥は魔物に属するようで、10年前から飼育が禁じられている。

 魔法のある世界なのに古典的な仕掛けマジック、これもまた、不思議だったので尋ねたところ、魔法が使えるのは、魔族と魔法使いだけで、さらに混乱を防ぐために王国の領地内での魔法の使用は全面的に禁止されているという。

 

「……コンプライアンス的には問題ない考え方です。ただ、エンターテイメントとしてはインパクトに欠けるカタツムリと、逆に引くぐらいのインパクトのミミズでは対極過ぎますね。それと、エリックさんの場合、視線で次のネタがばれてしまうんですよね……。」


 そもそも、正直者で隠し事が苦手なのにマジックがやりたいなんて、エリックさんとマジックも対極過ぎる組み合わせではあるのだが……。

 それでも、エリックさんの希望は叶えてあげたいし、成功させてあげたい。


「対策を考えるので、マジックの構成とネタの中身を教えてください。」

 紙とインクと羽ペンを借りた私は頭を抱えつつも申し出る。

 おずおずと話し始めたエリックさんの言葉を紙に書き出し、赤ペン(赤羽ペン?)をいれていく。ここで気がついたのだが、言葉だけでなく文字も自動翻訳されているようで読み書きも問題ない。反省会は深夜まで続いた。


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