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東の森

 王の使者がやってきたのは、王国の最も東にある深い森。森の奥の小屋には召喚魔法を使える緑の魔法使いが一人住んでいる。

 魔法使いは都会に住むことを嫌い、辺鄙な森の奥で魔術の研究に明け暮れている。魔法使いに会った者はほとんどおらず、どのような人物なのかわからない。

 唯一魔法使いのことを知っている王ですら、ほとんど接触しない人物なのだ。

 使者は指令受けた際、直属上司からは『くれぐれも相手のペースに巻き込まれぬように。必要な褒賞と引き換えにこちらの頼みを伝えること。』と王からの助言を伝えてくれた。

 人と交流持たずにこんな辺鄙なところに籠って研究しているなんて、厳格で頑固な老魔法使いに違いない。こじんまりとした木の扉の前に立った使者は、ごくりとつばを飲み込み恐る恐るノックする。

コンコン……

「どうぞ~♪」

 意外にも明るい返事が中から聞こえる。

 扉を開けるとそこには素朴な外観とは似つかぬ水色やピンクのパステルカラーの壁紙で内装された可愛くてメルヘンな空間が広がる。

 驚いて目を彷徨わせた使者の前に、緑色の長髪の整った顔がぬっと現れ、面白がる様子で笑みを浮かべながら覗き込む。

「どしたの?」

 胸元がザックリ開いたラベンダー色のふわりとしたシャツに、スラリと伸びた足のフォルムがはっきりわかるピタッとした真っ赤なパンツスタイルの長身の若い男性である。

 いろいろと予想外な状況に驚きつつ、使者は慌てて身を正し、王の使者である旨を伝える。

「ふ~ん。聖なる癒しの力を持った者を異世界から召喚ねー。なーんだ、久しぶりにスパちゃんから連絡があったと思って喜んだのに、無理難題じゃない。」

 頬を膨らませながら拗ねたように言う仕草はとても中性的で、長身なので男性かと思ったが性別がよくわからなってきた。

「やーよ。私には今取り掛かってる美容液の開発があるの。ちょっとみてよこれ!カタツムリの粘液を加えてみたけれど、浸透性は上がったけど保湿が落ちちゃうのよー!もう、困っちゃう。ちょっとあなたの肌で実験させてもらえる?」

「お、お止めください」

 使者が止める間もなく顔にぐいぐい液体を塗りたくられる。

 会話を挟む間もなく、あれやこれや一通り試され使者がぐったりしたところで、ようやく報奨の話を切り出せた。

「承諾していただければ国外より取り寄せたスベスベ草とモッチリの木の樹液をそれぞれ10樽、北の森でとれた希少な魔蚕の糸を麻袋10袋分を差し上げると伝言がございます。召喚に成功した暁にはさらに3色魔石も褒賞としてお渡しくださるそうです。」

「まぁ!スベスベ草とモッチリの木の樹液があれば、美容液の改良に取り掛かれるわ!魔蚕の糸を魔石で染めれば新しいお洋服にチャレンジできるわね…。魅力的な褒賞、しっかり用意してるじゃない。」

「でもねぇ。司祭の神託はアバウトで簡単にできるけど、こっち(召喚)は簡単にはいかないんだから。魔法陣描いて呪文唱えればドーン!って召喚できると思ってるんでしょ?」

「そ、それは…」

使者は言いよどむ。

「どこの世界から召喚するかリサーチ重要なのよ。異世界人ってつるんとしたのもいれば足がたくさんあってヌルンとしたのもいるんだから。生活習慣が似てないと、連れてきてもお互い困るだけなのよ。しかも、私が行って、選んでこっちに転送するんだからね。召喚っていうか転移魔法よ、そこのところ、どう考えているのかしら。」

じっとりとした目で使者を見る。

「わ、わかりました。召喚の難易度が高い場合は褒賞をしっかり出すようにに王から承っております。前払いの褒賞として南の森のスイートベリー、黄金果、スターフルーツ、赤龍卵果も馬車10台分お付けします!」

 交渉のキモはここだとばかりに使者は必死に叫んだ。

「フルーツは美容に最適!わかってるじゃない!それなら、まず、召喚先の情報をさぐってみるわ。」

 交渉成立とばかりに、にっこり満面の笑みを浮かべて右手を上に掲げる。すると、何もない空間から林檎サイズの水晶が現れる。

 透明に淡く光る水晶を右手に乗せると、何か呪文を唱えて始めた。

 使者は驚きの中、それを見つめるしかない。水晶に浮かぶ青いものを見つめる。映像がだんだん大きくなっていく。

「癒しの力が高いのはこの青い星ね…。水が豊富で大陸がいくつかあるようだわ。こちらより先端技術があるみたいね。薄い平板に画像を映す技術があるのね。ここから情報を得ているようだわ。あら!服のバリエーションがすごいわね。わぁお!これは美容液の宣伝かしら!これは行く価値がある!!」

バッと、水晶を持った手を下げると、

「行くわ!」

 緑の魔法使いはキラキラした瞳で高らかに宣言した。

 使者は何か目的が変わってるかもしれないと危惧しながらも、王命の依頼に承諾を得られたことにほっと息を吐いたのであった…。


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