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青い星のトークショー

「大変です。モデルのチェリーが直前に体調不良で出演できなくなりました。」

真っ青な顔でスタッフがシティシティの二人に伝える。

今日は野外ステージで若手を集めてクイズを出す番組である。

チェリーはチェリーワールドからやってきたという設定をもつジェンダレス男子で、ルックスが良く、ハキハキと珍回答をはなつので、芸人とも違うイジリがいがあり、この番組では欠かせない存在である。

 「あいつおれへんのかい!今日のゲストだけじゃ撮れ高、心許もとないなー。」

 シティシティ小さいほう、チっと舌打ちをする。

 「おいおい、撮影伸びるとこいつ機嫌悪くなるから気いつけいや。ほんまは1時間の枠を50分で終わらせたいんやから。」

 言いながら、シティシティ大きいほうも眉をしかめる。

 メインの二人の機嫌を損ねては大変とスタッフは慌てる。

 「代役を探しているのですが、何せ直前なので。申し訳ありません。」

 頭を下げるスタッフの後ろ、観客に紛れてこちらを食い入る様に見ている緑髪の長身の男が見える。最近、どの収録現場にもよく出没して話しかけてくるが、シティシティはあまり相手にしていなかった。

 そう、その人物とは、笑いという癒しの力を持つシティシティを王国に連れ帰ろうと、会場で出待ちをしている緑の魔法使いである。

 「もう、あいつでええやん!」

 「こないだの若手芸人やな、そうしよ。」

 二人が、スタッフの後ろを指さし、決定の声をかける。

 「え?何かしら?」

 皆の視線が集中したことに慌てる緑の魔法使いだが、もう遅い。

 ギラギラした必死な目つきのスタッフに囲まれて、ピンマイクを装着されるやら、ヘアセットをされるやら。あれよあれよという間に舞台に連れて行かれる。

 

 フリップとペンが用意された席に座るように促される。

 「本番、3、2,1、(スタート)」


 たーらったらー♪ 

 『なるほど!発見!魚肉ってどんな味!?』

 掛け声とともに音楽が鳴り、観客が拍手を始めた。

 変わった番組タイトルである。そしてMCはシティシティの二人。

 「今週のゲストは、俳優の空瑠大くうるだい、今人気のアイドルグループから河合依乃かわいいのちゃん、そして初登場、……こいつの名前なんや?まいっか、若手芸人の『魔法使い』~」

 「イエーイ!」「ヨっ!」

 観客の声援や拍手が響く。訳が分からないうちに何かが始まっている。

 事前のスタッフの大まかな説明では出された問題に答えるクイズというものを行うらしい。クイズの前に軽くトークが始まる。

 「ゲストの皆さんの最近の目標をお聞きしましょう。」

 「アタシは今、筋トレをしていて腹筋を割るのが目標です。」

アイドルの女の子が、可愛らしい力こぶを作って見せ、観客に拍手されている。

 「ほな、魔法使いの目標はなんや?」

 順番が回ってきたので指名された緑の魔法使いは、端正な顔で真剣な表情で正直に答える。

 「私の目標?私がここに来たのは、シティシティの二人をストイック王国に連れて行くためよ。」

 「何言うとんねん!」

  バシッ 

 また、張り手が飛んできたが、今度はうまく杖で防御することができた。

 「お前、まだそんなこと言っとるんか。この設定どうにかならんかー。」

 「こいつ、カメラまわってない所でも、ずっーとこれ言ってくんねん。」

 会場は笑いに包まれる。

 若手芸人が滑らずにうまく絡めたことに、まわりのスタッフは安堵する。

 「それでは、本題に入ります。」

 「今日は吉村田先生にお越しいただきました。エジプトに関する問題です。」

 探検家のような先生が現れ、画面に映し出された砂におおわれた一面黄色のエジプトの風景とともに語り始める。

 「古代エジプトの歴史は猫なしには語れないと言われています。紀元前4000年~5000年頃のエジプトで初めて猫と人が一緒に暮らし始めたと言われています。」

   

 異国情緒溢れる風景に緑の魔法使いは感心しながら、映像を眺める。

(ん?猫ってなに?)

 魔法使いは聞きなれない言葉に首をかしげる。

 すると、澄んだ瞳に細くしなやかなフォルム、小さい姿でありながら獲物を射止めるのに十分な鋭い爪と牙を持つ生物いきものが映し出された。

(これは小型の魔獣じゃない!この世界に魔族がいるの?)

 魔族の存在を示唆しさする生物を見て、ハッと息をのむ。

 緑の魔法使いは、魔力を持つが魔族ではない。

 スパルタクス王国の周辺の聖なる森では魔力が生成され、そこで生まれ育つものは魔力を持つ。

 そのため、魔法が使えるのは魔族そして精霊での二つの種族である。

 精霊は人型を取ることができるが、魔力が弱い草木の霊は小さくなってしまう。

 そういった精霊の中で、緑の魔法使いは東の森の最も古い樹木の精霊として、王国が建国されるはるか昔から世界のうつり変わりを見てきた。

 魔族がたくさんいた数千年前には、北の森との交流も頻繁で、魔族に知り合いは多かった。今では友人だった魔族はいなくなってしまったのだが……。

 不思議に思いながらも、魔獣によく似たこの星の生物を見て、昔の記憶がよみがえり、懐かしさに目を細める。

 というのも、人間と魔族の戦いが苛烈になるよりも昔、何千年もの間に渡り、魔族同士の争いが絶えなかった。人型を保てる高位の魔族はほとんどが息絶え、唯一生き残った者が魔王になり、スパルタクス王と協定を結んだことで今の平和が保たれている。

 

 思い出にひたる魔法使いをよそに、考古学の先生の説明は続いていく。

 「古代エジプト人は猫愛が強く、神様として崇めるようになりました。それがバステト神です。」

  

 そう説明された後、特徴的なネックレスを付けたりんとした姿の黒猫の像がアップされる。

 魔法使いは目を見開き画面を凝視する。

 (バステトちゃん!?間違いない、あのネックレスは私が贈ったものよ。戦禍の中消えてしまったのは、死んでしまったんじゃなくてこの星に来ていたからなの?)

 驚きに目を見開く緑の魔法使い。

 7000千年ほど前、魔族の争いの最中にバステト王女が率いる一族が消息を絶っていたのだ。まさか、この星に来ていたとは思わなかった。

 戦死したかに思われた旧友が異国の地で、神として大切にされていたことを知り、感動する。

 

 「知っとった?どうやった?」 

 説明付きのVTRが終わるとシティシティがゲストに質問する。

 「猫ちゃんって、そんな昔からペットとして飼われてたんですね。知らなかったぁー。」

 ほのぼのとした顔でアイドルの女の子が答える。

 「で、お前、どうした?」

 「感動よ!バステトちゃん、大切にされてたのね……」

 「泣いとるやないかい!」

 魔法使いの斬新なリアクションにケラケラと周りのゲストも盛り上がる。

 「大丈夫ですかー?」

 アイドルからハンカチを受け取って涙をぬぐう魔法使い。


 ゲストが泣いても動じないシティシティは番組を続ける。

 「さ、ここから問題です。先生、続きをどうぞ。」

 「エジプトではバステト神だけではなく、ほかにも猫科の神が崇められてきました。顔がライオンで体が人間のもの、そして、その逆もあります。」


 泣いていた魔法使いも続きが気になるので、フンフンと真剣な表情で聴き入る。

(魔族が人型と獣型が混ざった状態でいるなんて、本調子ではなかったのかしら……。)

 「さあ、ここで問題です。体がライオンで頭部が人間のもの、といえばこの写真の石像です。さてこの石像の名称は何でしょう。」

  

ピラミッドを背に両手を前に並べ鎮座する大きな石像の写真が映し出される。

 「考古学の先生呼んどいて、問題これかい!」

 あきれたようにツッコむシティシティ。

 やり取りを横目に見ながら、やっぱり!バステトちゃんと一緒なら旦那さんもここに来てたのね。良かったわーと魔法使い安堵の笑みを浮かべる。

 しかし、小型のはずの獣が大型となり、しかも人型と獣型が混ざった違和感のある姿のままである。この像を残されるのは少し恥ずかしかったに違いない。

 数千年前の彼らのおかれた状況に想いをせる。

 先ほどの解説を聞いていると、バステト王女率いる魔族は戦禍せんかを逃れ、この星に住み着いたのだろう。しかし、北の森を離れた魔族は魔力が徐々に失われ、魔力の制御ができず、獣型と人型の変化へんげが上手く出来なくなっていたと推察される。

 おそらく小型化もできなかったのだろう。バステトの夫と思われる像は魔力が圧縮されない解放状態の大きさのままである。

 あそこまで大きい魔力なら、彼で間違いないわね。

 「さあ、フィリップにお書きください。」

 軽快な音楽と共に、回答を書くようにうながされる。

 「え?フルネームですか?」

 天然気味のアイドルの子が質問する。

 「フルネームもくそもあるかぁぁ!」

 回答時間も軽快なやりとりが繰り広げられる。

 ふむふむ、旦那さんの正式名を書けばいいのね?さらさらとペンを走らせる。

 「それでは、一斉にフィリップをお出しください!」

 回答席左から、「スフィンクス」「すふぃんくす」「〇×△◆◇」

 最後の回答にシティシティがツッコむ。

 「象形文字やないかい!」

 ボフッ!フィリップで頭をたたかれる。

 会場は笑いに包まれる。

 「…え?だって正式名って言うから。」

 キョトンとした魔法使いの表情がコミカルに映る。

 「待ってください!」

 ちょび髭の吉村田先生が驚いたように叫び、ストップをかける。

 「どうしました?」

 「そのヒエログリフ!発見されたばかりです。」

 「どういうことですか?」

 「そして、実はスフィンクスという名前はのちに発見したギリシャ人が付けたもので、建設当時になんという名前で呼ばれていたか、はっきりわかっていません。併設された未完成の神殿にも一切の記録が残されていないんです。しかし、最新の調査で地下にそのヒエログリフが描かれていることが分かったんです。もしそのヒエログリフが名前だというなら……」


 オオオォォォー!

 観客がどよめき、会場は盛り上がる。

 魔法使いは魔族の文字で名前を書いただけである。

 (……まだ名前知られてなかったのね。マズかったかしら。)

 「エ、エジプトに興味があって最新情報を調べてたのよー。」

しどろもどろに誤魔化しておく。

 博識な新人の登場に、会場の期待が高まる中クイズは次の問題へと続いていった。


 その後の魔法使いの成績はというと……エジプト以外の問題では散々(さんざん)な結果を残して番組を終える。

 しかし、番組スタッフ的には手応ごたえがあったのだろう。

 「魔法使いさん、次の収録も出てくれませんか?お願いします!!」

 頭を下げて頼みこまれる。

 「ええー、私が?でも私はシティシティを連れて王国に帰りたいだけなのよ。」

 「その話はもういいですから!あ、ギャラが問題ですか?」

 「ギャラって何?」

 み合わない会話を、遠くで訊いていたシティシティがやってくる。

 「ええよ、ほな、番組にお前が出た時に視聴率〇%いったら、なんとか王国行ったるわ!ガッハッハッ」

 設定だと思い込んでいるシティシティは高めの視聴率を提示して誘いをかける。

 「来てくれるの?なら、出るわ。ところで、視聴率って何?」

 こうして、魔法使いはスタッフからレギュラーとして番組に出る説明を受けることになった。


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