釣り
さて、ルアーを作ってもらった私は釣りに挑戦する。
久しぶりなのでうまくできるだろうか。
スプーンで重みの付いた針を反動をかけて、遠くに投げ飛ばす。
ぽちゃん。
ひとまず、遠くに飛ばすことに成功した。
今度は生きた魚を演じるようにクイックイッと引きながら、ゆらゆらさせてみる。
透明な水面の下、スプーンは光を受けてキラキラ輝く。
ここまでは、狙った通りである。あとは魚が隠れていそうなところ、深みのある岩の前を狙って、引っ掛からないよう通していく。
岩の前を通過するが、手ごたえはない、仕方ないとあきらめてリールを巻いてスプーンを回収しようと手を速めたとき、ググググッ!
「よし、食った!」
思わず叫んでしまった。童心に帰り、興奮して震えてくる。このまま、外さずになんとか引き上げたい!
「わぁ!すごい!」
リリックさんもはしゃいでいる。
「よいしょー!」
水しぶきとともに反り返る様に体をくねらせた25センチくらいの銀色の川魚が陸に上がった。
「おお、これはイワナウバーだね。美味しい魚だよ。すごいすごい!」
イワナバウワー……ネーミングに戸惑うが、川岸でびちびちと背を反らして跳ね回る魚は美味しいようで一安心である。
二人とも喜びと感心を交えて褒めてくれる。
私も大物を釣り上げた興奮も喜びも久しぶりで、頬が好調してくる。
釣りってこんなに楽しかったんだ。社会人になってほとんど海や川に行かなくなってしまっていたことに今更ながらに気づいた。
このあとも、ルアーを使って、何匹か魚を釣り上げた。
横ではしゃいいでいる二人にも釣り方を教えてみたのだが、十何回目かの遠投で木に引っ掛かり、取れなくなったので、あえなく終了となった。
皆で手分けして、簡単に捌いて内臓やエラをとり、綺麗な川の水で洗い持ち帰る。軽くピクニックのつもりが、もう夕方になっていた。
程よい疲労と美味しいお土産を手に家に帰る。
「今日は楽しかったです。本当にありがとうございました。」
「いやいや、お礼を言うのは私たちだよ。美味しい食材も手に入ったし、とても楽しく過ごせたなぁ。また行こう。」
お風呂に入って、夕飯を作り置きシチューで済ませると、もう瞼が重くなってくる。
眠れなかった日々が噓のようで、眠くて眠くてしかたない。
ベッドに入るとうつらうつらしてくる。
まどろみの中で、ゆらゆら揺れる魚の形のルアーが人の形に変化していく夢を見る。
ブリキの操り人形のようにも見える。変な夢だなーと寝落ちした。
朝、夢を思い出せた私に感謝した。
そう、魚がないなら魚に似せたルアーを作ればいい、劇団の人員が足りないなら、作ればいいと!
バンッ!
「エリックさん、足りない分の劇団員は作りましょう!」
朝、ドアを開けるなり第一声で言い切った私にエリックさんは驚く。
「お、おはよう。どうしたんだね?劇団員を作る?」
「すみません。思いついて忘れないうちに話して置かないといけないと気持ちが焦ってしまいました。」
「うんうん、晴れやかな顔をしているから、良いことを思いついたんだね。」
気がせいてしまった私も優しく受け入れてくれる。
「朝食を食べながら話そうか。」
ドアの前に立ったままの私に席に着くよう促してくれる。
「それで、劇団員をどう作ったらいいのかな。」
「足りない人員は、女性のヒロイン役、そして、戦闘シーンの兵隊ですね」
「まぁ、そうだね…男性の主役をデュカ君、敵役をキアン君がやるなら、それ以外全部足りないからね。私も脇役なら出ても良いけれど、セリフは無理だよ。」
「ええ、エリックさんが手伝ってくれるならありがたいです。セリフはなくても大丈夫なので、兵隊の役をお願いできますか?。」
「しかし、兵隊が私一人じゃあ迫力がね……。」
「大丈夫です。残りの兵隊とヒロイン作りましょう。」
「??」
目を丸くしたエリックさんに、作ってほしいのは大まかには操り人形の一種だと説明する。人間が動かすことで人のような動作を演じることができる。
最初は不思議そうに聞いていたエリックさんも、だんだん目が輝いてきた。
「こりゃあ、面白そうだ。」
「作れそうですか?」
「任せておきな!」
胸を軽く叩いて、楽し気に頷いてくれた。