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再会(3)

 二人はブランコに座っていた。みなもは無邪気に揺られている。前に後ろに、みなもがゆれる度に黒い美しい髪がなびいている。


「みなもは、どうだった?」


 何か言いたいけど、話題がなく、でも話たい気持ちが前に出て実菜穂は言葉をかけた。


「儂か?儂は相変わらずのんびりじゃ。お主が去って、寂しかったがな。のんびりじゃ。想像つこう」


 確かに想像はつく。実菜穂が知っていた頃のみなもなら想像がつく光景だった。道端の猫や華に話しかけている不思議でのんびりとした姿。でも、今のみなもは違う。


「みなも、すごく綺麗だよ。さっき見たときちょっと分からなかった」

「そうかのう。儂は、あのときのままだと思とるが」

「全然、違うよ。ほんと、綺麗だな。良家のお嬢様のような……ううん、もっと高貴な感じ」

「お主にそう言われると、照れるのう……でも嬉しいぞ」


 みなもは、恥ずかしそうに顔を下げた。


「お主は?」

「私は……」


 今度は実菜穂が(うつむ)いた。


(私はどうだろう……何もない……苦しいだけ)


 言葉が出ないまま実菜穂は深くうなだれると、その頭を優しく撫でるものがあった。


「お主、頑張っておるのう。一生懸命だったのう。本当に一人で必死じゃったのう」


 みなもの手が優しく頭を撫でていた。疲れが、緊張が、不安が薄れていく。そして、また涙が溢れてきた。もう、泣かないと思っていたのに涙が止まらない、止められない。


「必死だったんじゃのう」


 みなもの言葉に実菜穂は頷いた。顔を上げるとそこには、みなもが外灯を背にして立っており、大きな瞳で実菜穂を見つめていた。


「お主は悪うない。偉いのう」


 実菜穂を優しく包み込むように抱きしめた。


「だめだよ。みなも、着物が汚れるよ」

「そんなことはよい。儂はそんなお主が愛おしいぞ」


 実菜穂はこらえきれない涙を思いっきり流した。桜が舞散るなか、実菜穂は泣き尽くした。

 

 実菜穂の家の前に二人は立っていた。門の石壁には【田口】の表札が目に入り、門灯に照らされ、泣き尽くした実菜穂の目と鼻は真っ赤になっているのも分かった。

 

「ここがお主の家か。優美じゃのう」


 みなもは、家を眺めて感激して言った。


「みなも、おかしなこと言うなあ。普通の家だよ」


 実菜穂は笑うと、みなも笑みを返した。


「みなもは、どうするの?ここに用事があったの」


「ああ、儂は行くところがあってな。まだ、間がある。それで、しばらくこの辺りにおる馴染みの者のところで世話になっとるでな」

「じゃあ、明日も会えるかな?」

「明日はちと行くところある。明後日でいいかのう。さっき会ったくらいの時間でいいかのう?」

「もちろん。ここ、分かる?」


 みなもは笑って頷いた。

 突然、玄関が開いた。心配していた実菜穂のお母さんが飛び出してきたのだ。


「声がしたから、心配になって。どうしたの?目が真っ赤じゃない」

「友達と話してたの」


 実菜穂はみなもがいた方を見たが、そこにみなもの姿はなかった。


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