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33 私の好きな大怪獣

 しっぽは頭よりも上の位置にあったろうか。ゴジラに似て真っ黒な瞳が、ふりかえってしまった春菜はるなの瞳を確かに見た。

 悲しげな黒い瞳。

 春菜は動けなくなった。遠い先祖が、爬虫類に食べられていた記憶が、春菜を動けなくしていた。

 怖かった。全身の毛が逆立ち、食われないために生き延びるために逃げろと春菜に命じた。

 その時、目の前が真っ暗になった。

「見るな春菜!」

古語こがたりの手が春菜の目を覆ったのだ。

「あの人はこの宇宙で最高の人類と言われる人種の出身だ。どの星の人間にも自分の姿を恥じることなんかありえないんだ。それが、君に姿を見られることを苦しんでる。君に怖がられること、気味悪がられることをあんなに苦しんで痛みに耐えてたんだ。このまま、見ないで離れてくれ!」

「・・・それはいいけど、千佳ちかさんをどこにやったの?」

「・・・あれ?」

今来た道を走って行く足音が聞こえる。

「島村せんせーっ!」

「いかん!」

古語も手をはなして走り出した。春菜もまた。が、二、三歩走ってたちまち倒れてしまった。 精神力にも限界がある。

「春菜!」

古語が戻ってきて抱き起こす。

「古語君! 浜に戻って! 連れてって!」

「しかし・・・!」

「わからないの! 千佳さんは『あの怪獣』から島村先生を助けようとしてるの! 島村先生も気づかずに千佳さんをふみつぶしてしまうかも!」

「 ――――――――――― !」

古語はすばやく春菜を抱き上げ、走り出した。しかし、古語の体力も限界近い。千佳に追いつくことはできなかった。

 松林を抜けた二人は、そこに千佳の姿を発見して立ちすくんだ。

 千佳は、島村の、巨大な爬虫類の左足にしがみついていた。両手をおもいきりひろげて、せいいっぱいしっかりとしがみついている。

「なにやってんだ?」

古語があっけにとられてつぶやいた。

「戦っているつもりなのか?」

そうじゃない、ことが、春菜にはわかった。自分の考えが間違っていたことが。

「いいえ。・・・抱きしめているんです。せいいっぱい両手を広げて抱きしめてるんです。どうして、千佳さんにはこれが島村先生だってちゃんとわかったんだろう」

 島村は動かずにじっとしていた。身じろぎでもすれば千佳がふり落ちてしまうから。

「どういうことだ?」

春菜を抱いたまま古語がぼうぜんとつぶやいた。

「わたしのことは化け物だの鳥人間だの言ったくせに」

「古語君は化け物だから」

古語はギョッとした。

「春菜! おまえ・・・」

「千佳さんには古語君は化け物なの。だけどそれが島村先生だったら、ゴジラだろうがヒドラだろうが猫だろうがなめくじだろうがべとべとさんだろうが大好きなの」

「べとべとさん?」

妖怪の一種。宮崎によく出る。

 島村は、そっと千佳をつまみあげると、春菜のそばに置いた。

「やだっ! せんせーっ!」

千佳はまた島村の方に駆け寄ろうとした。しかし、島村は背を向けた。海に向かう。島村の一歩に、千佳は追いつけない。

「せんせーっ! せんせーっ!」

島村の左足が波を踏みつけた。白い飛沫があがる。ざっぱん、ざっぱん、遠浅の海に、大怪獣が進んでゆく。

「せんせーっ!」

千佳は追いかけた。砂に転んでも転んでも、追いかけた。春菜はその後を追った。島村先生のために、千佳を捕まえなくては。

 島村先生の姿は消えていこうとしていた。千佳は海の中にざばざばと進んだ。春菜は砂浜に転んで倒れた。立ち上がろうとした。立ち上がれない。千佳の姿を探す。もう見えない。何も見えない。 

 ああ・・・。古語君。

 口の中に砂が入る。あたりが急速に暗くなった。


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