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アニオタが異世界転生しようとして普通に死んだ件  作者: オタックスF2型
第1章 Avant-title
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第9話 源

第9話 源


「私がアンタの前に現れたのは、NPC化プログラムの異常に起因する副次的な問題を解決する為よ」


「…日本語でOK…」


「…つまり、どういうことだ?…」


彼女は面倒くさがる様子は見せず、淀みなく説明を続ける。


「何度も言う様に、NウイルスによるNPCの拡大は人間をこの世界から駆逐し、世界の消滅を招くと言われている」


「だけど、それはあくまでも人間がこのまま何も策を打たずに、手を拱いていた場合の話」


「もちろん、実際は違う」


「世界の終焉という来たる日を認識しながら、それを傍観していられるほど、人間というものは慎ましくない」


「人間は、己が命の可愛さ故に、強欲に世界終焉の未来を阻止しようとするでしょう」


「異世界管理委員会、通称PUMC (Parallel Universe Manegement Committee)」


「現にそう言った組織が、起源世界で誕生している」


「…起源世界(オリジンワールド)?…」


「ルビを振って勝手に厨二病臭くするのやめてくれる?」


「ラノベの読み過ぎ」


まさにラノベみたいな話をしている君には言われたくない。


「この宇宙には様々な異世界が存在していることは、もう理解した?」


「…もちろん…」


アニオタ的にはむしろ、異世界が存在しない方がおかしいぐらいだ。


「でも、それらの世界は元々一つだったの」


「とある人物…『創造主』が現れるまではね」


「彼によって無数の異世界が生み出された」


「…創造主(ザ・クリエイター)だって?…」


「『ザ・クリエイター』とは言ってないんだけど、まぁいいわ」


「創造主は、この時代から観測される未来におる」


「その創造主は自らを取り巻く状況に対して、大いに不満があってね」


「世界を変える為、アンドロイドを過去に送り込み、それを使役することで過去改変を試みたってわけ」


「…それ間違い無く猫型のアンドロイドだよね?…」


「かもね」


「…そこは否定しないと著作権的な問題が…」


「世界が不安定化する今、夢と現実、或いは二次元と三次元の区別が曖昧になってしまうのは仕方ないの」


四次元的な言い訳に僕も黙るしかなかった。


「そして、過去に送り込まれたアンドロイドは、自らの使命を果たす為に様々な工作活動を行った」


「その過程で、元々一つだった起源世界は幾通りにも分岐し、それぞれが別の世界として存在するようになった」


「それがいわゆる並行世界、『異世界』の正体」


「…じゃあ、異世界の正体は、その創造主の自分勝手な振る舞いで生じた起源世界のパラレルワールドってことだよね…」


「…ということは、この世に存在する異世界は全て起源世界がベースになっているから、どれも似たり寄ったりで、大差はないということ?…」


「…もし、そうだとすれば…」


「…魔法使い美少女とか、超絶美エルフが住む異世界は存在し得ないと言うことかあああああああああ!!?…」


「キンキンするから興奮して脳に語りかけないでって言っただろ!死ぬ?」


イッ、痛ッデェえええええええええええええええええ!!!!!


その瞬間、僕の身体には10万ボルトの電撃をくらったかの様な痛みが走った。


「…ねぇ、今ちょっとだけ時を動かしたよね!?本当に殺そうとしたよね?おじさんそういうの良くないと思うなぁ。どうした?時間停止能力の限界か?お前の集中力はその程度か?人間は「ひんし」になったらセンターに連れて行っても回復しないんだぞ!…」


凛奈は不敵な笑みを浮かべながら僕に問うた。


「まだ減らず口が叩けるぐらいには元気みたいね。もう一回やる?」


「…すみませんでした、マイロード。仰せのままに。…」


「よろしい。」


「とにかく、創造主は時間を操り、過去を変えることで、そうしたいくつもの分岐した世界、すなわちパラレルワールドをポンポコ作った」


「その中にはもちろん、アンタのいるこの世界も含まれてるわ」


「…ありがとう、ザ・クリエイター…」


僕は自殺をするぐらいだから、この世界がそれなりに憎いけど、それでもアニメという素晴らしい文化を育んでくれたこの世界には、少なからず感謝をしている。


「だけど創造主が行ったことは、本来褒められるべき行為ではないの」


「寧ろ過去を変えるという行為は条約に違反した不当な行為」


「世界に重大な危機をもたらす行為として硬く禁じられている為、それを試みただけでも無条件で極刑が宣告されるほど」


「…無条件で、極刑!?…」


「…そこまで咎められる様なことか?…」


未来はもっと人権に対して進んだ価値観を持っていると思っていたが、どうやらそう穏やかではないらしい。


「そう」


「どんなに小さなことでも、過去を変えることはバタフライエフェクトを生じさせる」


「それに、過去を変えることによって、自分の都合のいいように世界を作り替え、世界の支配者になることだってできてしまう」


「人の生死に関わる問題でもあるし、倫理的側面からも過去を変えることはタブーとされているの」


タイムマシンがあればやりたい放題、思いのままにこの世界を支配できるということだ。


あんな事いいな出来たらいいな、が実際にできてしまうのである。


まるで、どんな願いでも叶えてくれる万能の願望機じゃないか。


「…それは扱いに注意しないといけないね。倫理観がガンジーレベルに高い僕がそのタイムマシンを適切に管理しよう。タイムマシンは何処にある?…」


「アンタに渡したらロクなことに使われないのが目に見えてるわ。教えるわけないでしょ」


「よろしい。ならば聖杯戦争だ。」


「ガンジーもビンタする程の見下げた倫理観ね…」


人間というものは自らの欲望を満たすためならば、どこまでも果てしなく堕ちてしまうものなのだろう。


人間とは強欲で罪深い存在なのだ。


「…でも、その禁忌を犯したのが創造主なんでしょ?…」


「そう」


「結果、パラレルワールドが次々に生まれ、それらは互いに干渉し合うことで、案の定、すべての世界は非常に不安定な状況に陥ってしまった」


「…さっきから世界が不安定だと言ってるけど、それってどういうことなんだ?…」


そういえば、NPCが急増した理由も、この世界が不安定になるのを抑える為だと凛奈は説明したが、そもそも世界が不安定化とはどういう状況を指すのだろうか。


「『復元引力』により異世界が起源世界に戻ろうとしている、その状態を世界の不安定化と呼んでる」


「…もう少し、豚でも分かる様に頼むよ…」


「一つの世界から派生した各異世界には元の世界に戻ろうとする力である、『復元引力』を微弱ながらに有してる」


「それは、起源世界の残り香のようなもので、少ないうちは直ちに世界へ影響を及ぼすものでは無い」


「けど異世界が増えるにつれて、全ての異世界における復元引力の総量は相当なものになっていく」


「やがて復元引力が共鳴し、その総量が閾値を超えたとき、最後には、すべての世界が強制的に一つになろうと互いを引きつけ合い…」


「…どうなる?…」


「潰れる」


「…全ての世界が潰れる?…」


「厳密には、どうなるかは知らないわ」


「ただ、数多の異世界にはそれぞれの宇宙があり、それら宇宙が一点に集まるのは事実」


「その質量・エネルギーはまさに天文学的スケール」


「何が起きても不思議ではないわね」


「一説にはビッグバンが起きるとも言われているほどだし」


「…宇宙が終わって、また別の宇宙が始まるなんて皮肉だね…」


そうやってこの宇宙は何度も誕生と終焉を繰り返しているのかも知れない。


そしたら、僕は何度も同じ夏休みを繰り返していて、今回が15531回目の8月8日という可能性だってあり得る。


「社畜の時点でアンタに夏休みなんてないけどね」


「…やっぱり僕の思考を読んでるだろ!…」


「だから、私にはそんな力無いってば」


「何れにせよ、ほっといたらこの世界は、考えるだけで目眩がするほどの規模で潰れるの」


なんだか強引に話を逸らされた気がする。


「ま、安心せい!」


「まだ、復元引力の総量が閾値を超えるまでには時間があるから」


「…それなら安心…」


化石燃料や天然資源だってあと50年で底をつくと50年間言い続けているぐらいだ。


何とかなるだろう。


「でも、復元引力は時間と共に着実に異世界間で共鳴を強め、その力を増幅させている」


「…僕には何も変わっていないように見えるけど…」


「復元引力は三次元空間において、直接的な影響を及ぼすものではない」


「だけど、四次元空間においては、今もなお、その影響力を強め続けている」


「だから世界の不安定化は物理的な事象として直接眼には見えないけれど、確実に進んでいる」


「夢や現実の区別が曖昧になっているのもそのせいや」


「私がアンタの夢に現れたり、夢の私が現実に現れたりとね」


「しかも、世界不安定化の影響はそれだけじゃない」


「その復元引力による世界の不安定化の進行と同時に、すべての世界で急激に人間のNPC化事例が増えた」


「さっき言ったように、NPCには同質性と秩序を保ち、世界を安定化させるという役割がある」


「だから、不安定化する世界が秩序を取り戻そうと起こした反応がNPCの急増」


「そして、それこそがNPC化プログラムの暴走、パンデミック発生の原因というわけ」


ややこしい…。


だが、この世界自体がバグを帯びている感じなのか?


まず、「世界」というオープンワールドゲームに、「創造主」という名のプレイヤーがいた。


ある日、彼はゲームに不満を覚え、「タイムマシン」というチートを使うようになった。


だが、彼のチートプログラムは「復元引力」という名のシステム存亡に関わる致命的なバグをゲーム内に生じさせ、そのせいでゲームシステム自体が不安定になった。


そして、それを落ち着かせるために運営は「NPC比率増」というパッチを当てた。


ところがどっこい、それはゲームシステムのバグを根本的に解消するものでは無く、剰えユーザー(人間)の減少によりサービスは終了の危機というわけだ。


運営無能かよ。詫び石はよ。


とにかく、


世界の不安定化を放置すれば、そのうち復元引力で世界は潰れて終わり。


世界の不安定化を抑える為にNPCが増え続けても、人間が駆逐されて世界は終わり。


つまりは、そう言うことらしい。

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