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アニオタが異世界転生しようとして普通に死んだ件  作者: オタックスF2型
第1章 Avant-title
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第3話 静

第3話 静


死因は駅のホームから列車に飛び込んだことによる自殺。


激しい衝突音とともに、僕の体は軟体動物の如く電車にへばり付いた。


車体の運動エネルギーを全身がグチャグチャになる程吸収すると、その反作用で一気に吹っ飛んだ。


僕の四肢肉体は勢いよくはち切れ、肉片が混じった鮮血の雨となって周囲に降り注ぐ。


側から観れば、その光景はまるで、スペインのトマト祭りのワンシーンを彷彿とさせるものであろう。


なんだ…。


やっぱり僕はモブキャラだったんだ…。


もし僕がこの世界の主人公だったのなら、僕は死んだりはしないはず。


でも、僕は普通に死んだのだ。


逆説的に僕はこの世界の主人公ではないことになる。


つまり僕は、この世界の物語においてほとんど何の意味もなさないモブキャラ的存在だったんだ。


………。


「…チクショウ」


「…チギショウ!」


最期まで僕の期待を裏切らず、僕の期待を踏みにじり続ける世界だった。


邪悪なる悪の組織が、僕の人生を妨害する為に、裏でこの世界の難易度を操作しているに違いない。


若しくは、僕の前世が大罪人で、その罰として僕はこの世界に投獄されたのだろう。


さて、次に生まれ変わるとしたら何処や。


きっと、閻魔様は僕の人生、そして、その最期を厳正に審査し、地獄への審判を突き付けるだろう。


地獄と比べれば、今までの不満たらたらな人生だって、きっと天国みたいな人生だったに違いない。


でも、それは結局のところ、この世界の相対的な評価が向上したに過ぎず、絶対的な評価は何一つ変わっていない。


あくまでも、地獄よりはマシな世界だったというだけに過ぎない。


やっぱり僕はこの世界が嫌いだ。


ま、あれこれ考えても仕方ない。


僕は死んで、これから地獄へ向かうのだ。


これまでの世界について思いを馳せたところで後の祭り。


因みに、僕は文化祭の後の祭り、すなわち後夜祭が嫌いだった。


後夜祭は文化祭のアンコールみたいなもので、有志参加のイベントである。


文化祭での疲れが癒えぬうちに、そのようなイベントへわざわざ参加しようとするのはリア充ぐらいのものだ。


僕はリア充じゃないし、彼らリア充が嫌いだ。


したがって、僕は後夜祭が嫌いであり、後夜祭には参加しない。


Q.E.D.証明終了。


うっ…。

後夜祭に集うリア充供を思い浮かべたせいだろう、強い頭痛がする。


心を抉られたような感じさえする。


気分が悪い。

吐き気がする。


どうやら僕は深刻なPTSDを患っているらしい。


海馬に格納された忌々しい記憶、強烈な青春のトラウマがストレスとなって僕を襲う。


このままでは地縛霊の猫、もとい豚になってしまいそうだったので、そろそろ成仏することにする。


僕は頭の中でハレルヤをかけながら、その時を待つ。


尤も、ハレルヤをかけたところで、僕が次に乗る列車は地獄行きなのだが。


あっ、地獄って死役所で転入届を書かないといけないのかな。


だとしたら、あの世へ行く前に転出届を出さないとな。


そんなくだらないことを考えながら、僕はその時を待った。







………









ちょ、チョ待てよ?


なんだこの時間?


僕は死んだことがないから、死んでから成仏するまでのプロセスは分からないが、こんなに時間が掛かるものなのだろうか。


やっぱり、死役所で僕の転入手続きに問題が見つかって受理されないのだろうか。


まさか、そんな事はないだろう。


地獄へ行くような人間たちが行政手続きを律儀に守るとは思えない。


そんな面倒くさいことなどせずとも、地獄は門戸を広くして罪人を迎え入れるに違いない。


それにしても遅い、閻魔様の裁判が紛糾しているのだろうか。


なんて妄想してみたが、それもよく考えればあり得ないことだろう。


僕は人に咎められることをした覚えはあれど、人に褒められるようなことをした覚えはない。


僕が閻魔様なら1秒で審理が終わるほどに、僕の人生は世界に対する憎悪と嫌悪とで満ちており、いかにも罪人のそれだった。


では何故、何も起こらない。


そういえば昔、格闘技系のアニメで、


「ボクサーはゾーンに入ると1秒が数十秒にも感じられ、世界が止まっているように見える」


と言っていた。


死闘を繰り広げるボクサーと同様のことが、まさに今、死にゆく僕に起きているということだろうか。


世界に静寂が訪れ、万物は静止し、僕も動けない。


しかし、そんな世界にあっても僕の脳は未だに動いている。


確かにこうして思考している。


これが考える葦ってやつか。

なんて梳かしたことを考える余裕もある。




それから更に1時間は経過した。


時が止まった世界の中で1時間というのは少し変だが、とにかくそれぐらいの時間が経過したように感じられた。


それにしても長い。


もしかしてこの状態が一生続くのではなかろうか。


まあ、一生も何も、もう死んでいるので、正しくは一死とでも表現すれば良いのだろうか?


たぶん、普通の人間ならこの状況に戸惑い、絶望さえすることだろう。


でも残念ながら僕は普通の人間ではない。


僕はアニメオタクだ。


この状況も、もちろんアニメで履修済み。


静止した世界には理由がある。

それを生み出すきっかけとなった事象が存在する筈だ。


つまり、この世界には「能力者」がいる。


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