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勇者見参!

「たのもー」


 入り口から威勢のいい声が会館内に響き渡る。早朝から居合わせた冒険者の誰もが視線を一点に集中させた。


 彼の声色が高いせいなのか、彼が思っていた以上に会館内に響き渡った声のせいで、多数の人の視線の的となった。


 恥ずかしそうに片手で鼻先を擦ると

近くにいる冒険者に、「ギルドの受付はどこですか」と聞いているのが見て取れる。


 館内に居合わせた冒険者たちは、誰もが思った。少年が初めてギルドの門をくぐったのだと。


 村の子供たちは、12歳を迎えると職業選択の自由が国から与えられる。実家の農家を継ぐもの、村の自警団に入って衛兵になるもの、学園に入り魔法を研究するもの、そしてギルドの門をくぐり冒険者になるもの。

 

 彼は、冒険者になることを選んだようだ。新調したであろう革鎧と真新しい剣を腰に据える。


 そんな初々しい姿は、かつて自分達が通った過去の面影を投影しているように見えた。


 それを嘲笑う者もいれば、思い拭けるものもいた。そんな視線を気にも留めず、こちらへカツカツと歩いてくる。


「あら、新人さんいらっしゃい!サルエール村、ギルド会館にようこそ♪今日は、ギルドへの新規加入手続きでいいかしら?」


 インク付きの羽ペンと申請書を引き出しから出し、ベロニカは横に立っていた自分に退くように手信号を送った。


 受付窓口から横に退き、柱に背を預けて少年と彼女のやり取りを伺った。


「あなたは何て呼べばいいかしら?」


「俺の名前は、シュウ。」


ーー少年の名は(シュウ)というらしく、黒髪の逆立った髪型で整った顔立ちに、スラリとした逞しい容姿から彼が裕福な家の出であることが見て取れる。手に豆ができていないのを見ると貴族の出なのかと思えた。


 ベロニカが差し出した申請用紙をシュウは、手にすると恥ずかしそうに彼女を見返して言った。


「あの、どこに名前等書けばいいですか?」


「えっ、あぁごめんなさい。気にしなくていいわ。こことここに名前と出身地を...。」


 受付では、申請書を書くのに四苦八苦している様だ。どうやら、字の読み書きができないらしい。


 冒険者の大半は、平民の出であるため、字の読み書きができないものも中にはいる。彼もそうであったようだ。人は見た目によらないとはこのことだと思った。


 しばらくして、ギルドの概要と冒険者の在り方、依頼の受け方と報酬のやり取り等の大方の説明が終わると彼に青金の首飾りが手渡された。


ーー等級は5等級存在し、新米冒険者は青金。黒金までを低級、赤金から白金を中級、そして黄金が上級といった感じだ。自分は今度の昇級機会で晴れて赤金になり、中級冒険者の仲間入りを果たす。


「その首飾りが、貴方の身分の証明になるから無くさないようにね」


 彼女の話が終わると少年はすぐに依頼掲示板から貼り紙を取って戻ってきた。


 持ってきた依頼書は、

[砂漠のサンドワームの討伐]


 とても新米冒険者が依頼をこなせる様な代物ではなかった。


 これには、ベロニカも苦笑いを浮かべた。先程の彼女の話を半分も聞いていなかったらしい。


「あの先程もお話したとは思うのだけど、冒険者には等級があって認定された等級に応じて受けられる依頼が...。」


 彼女の話を遮る様にシュウは、言葉を吐き捨てた。


「いや、大丈夫!俺なら依頼を達成できる!」


 シクラは、どこからくる自信なんだと思うと、一部始終を見ていた周りの冒険者たちが吹き出した。


「ガハハハッ坊主っ!威勢はいいが今日入ったばっかの新米だろう?言うことは聞いたほうがいいぞ?」


「サンドワーム何て低級冒険者が束になっても勝てね。奴らの餌として食われるだけだぞ!」


 他の冒険者たちが少年を小馬鹿にするものいいに対して少年も食って掛かる。


「俺は、この世の中を救うためにやってきたんだ!四天王だって倒してやる!」


 再びドッと笑いが巻き起こると騒ぎを聞きつけたのか2階からドスドスと巨体が階段から降りてきて、その姿を現した。


「何を朝っぱらから騒いでおるのだ?祭りごとには、まだ早いぞ!」


 巨体から織りなすドスの利いた声の持ち主は、何を隠そうサルエール村のギルド(オレガノ)だ。


 オレガノは、かつて黄金等級に届く白金等級の冒険者として名を轟かせた。しかし数年前、サルエール村から北方にあるチトニア山脈に巣食う黒い大鬼との死闘の末、深い手傷を負わせたものの利き腕を失って引き分け、冒険者を引退した。かつての功績を称え、国王よりサルエール村のギルドマスターとして役職についた経緯がある。


 オレガノは、ベロニカからことの顛末を聞くと少年に向き直り説得した。


「尚更、等級を上げなければならぬ。等級というのは、即ちそのものに対しての信用そのものなのだ。見知ったものならいざ知らず、其方の腕が立つかどうかなど、どう証明できる?」


 そう言われると少年は、渋々サンドワームの依頼書を戻すとベロニカに依頼を斡旋してもらったのか、薬草採取の依頼書を片手にギルド会館から出て行った。


 騒ぎが収まり、オレガノは集まっていた冒険者達に軽くお灸を据えると2階に上がっていった。


 その場に居合わせた冒険者達もそれぞれの依頼こなしに会館を去ってゆく。


 自分は、報告が終わったので宿に帰ろうとするとベロニカに呼び止められた。


「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


 彼女が何を言うのか大体検討がついた。

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