卒根の過去
私は物心つく頃には父はいなかった。
母から聞いた話だが、父は酷く酒狂いだったらしく、私が大きくなった時、私にも危害が向かうと思い、すぐ別れたらしい。
母はその後シングルマザーとして家事と仕事を懸命に行っていたが、無理がかかり過労死してしまった。
私は今は国からの支援をもらって、1人で暮らしている。
寂しいと思ったことは無い。
家の方がまだマシだ。
今日も苦痛を背負って学校に向かう。
私の中学生活は地獄のようだった。
「あら神木さん、おはよう。」
彼女は学校のカーストの最上にいて、グループで行動している。
彼女は死ぬほど卑屈な顔を浮かべ、汚いゴミでも見るように私を見た。
私はその挨拶には答えなかった。
彼女達の機嫌が悪くなったのを感じた。
グループの1人が私を突き飛ばし、背中を踏んだ。
彼女達はクスクス笑った。
これで何度目だろう。
私は荷物を整えて教室に向かった。
何度も自殺しようかと考えた。
昼休み屋上に行って、片足を縁に乗せる。
風が吹いて、心拍数が急激に上がる。
ここを飛べば、私は続く苦しみから解放される。
されるはずなのに。
恐怖は私を楽にしようとはしない。
生き続けるしかないのだ。
・・・・・・
ある昼休みのことだった。
私は同級生の男の子に話しかけられた。
「・・・君、1人?僕と一緒にお弁当食べる?」
私は何も答えなかった。答えられなかった。
彼は無言で私の隣に来、食事を始めた。
私は素直に嬉しかった。
いつものコンビニ弁当より、美味しく感じられた。
彼とはすぐ仲良くなれた。
彼と初めて遊園地に遊びに行った。
充実した時間だった。
私は初めて幸せを感じた。
そして夕方。
私は裏切られた。
彼に全財産を持っていた財布を盗られた。
私は家に帰って泣いた。
初めて泣いた。
絶望に明け暮れた。
その時私は心を閉ざした。
・・・・・・
私は高校に入って紬という友達が出来た。
彼女は優しく、裏切られることもなかった。
しかし私は相変わらず他の人とは話さなかった。
高校で、私の絶望の人生は終わった。
彼の存在がそうさせた。
青力疾啓という存在が。