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赤くて優しい  作者: 梟
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出会い

1ページ目

 今日も疲れた。仕事を終え、帰りのスーパーで半額の鯖弁当を買う。5分ほど夜道を歩いてアパートに着き、真っ暗な部屋で電気のスイッチを入れると、朝散らかしたままの部屋が目に入り溜息がでる。レジ袋からだしたお弁当は中身が偏り、鯖にポテトサラダがべったりついていた。味わって食べる気になれなくて、胃袋に押し込むようにあまり噛まずに食べた。食べている途中、交際中の彼からLINEの通知が届いた。通知に少し表示される本文には「俺に言うべきことがあるんじゃないの?」と書かれていて、先週末彼と揉めて以来、不仲が続いていることを思い出した。

 動きたくないと主張する身体を引きずり風呂に入る。湯船にお湯はためず、いつも通りシャワーのみで済ませる。化粧水と乳液を顔に塗って、しばらく洗面台の鏡で自分の顔を見ていると、いくつかのことに気付く。目の下のしわが深くなっていること、口角がさがっていること、そしてーー右顎にニキビができていること。

 少し大きめのニキビで、赤く腫れあがったそれは白い肌の上で目立っていた。本来ニキビは触っていけないことを知っているが、悩む間もなく潰すことに決めた。やり場のない薄暗い感情を、ニキビを潰すことで少しでも発散したかったのかもしれない。鏡にニキビが映るように顎を上げて位置を調整する。左手の人差し指と右手の中指で赤く膨らんだニキビを挟み、その中心に向ってギュッと力をいれた。

 もちろん痛い。痛いが、それ以上に指に挟まれ押しつぶされたニキビの先端から、白く濁り、どろっとしたものが、ぶちゅっ、と飛び出す快感を期待した。にも関わらず、押せども押せどもニキビは赤みをますばかりで、白いものが出る気配はない。痛みで目に涙がにじむが、あきらめたくなかった。指の位置を少し変え、今までで一番力をこめた、その時、

 「イテテテテテテ!! やめろアホ!」

 自分のものではない声が間近で聞こえて、文字通り飛び上がった。驚いた衝撃で頭が真っ白になり、心臓がバクバクして動けない。深呼吸をして意を決し、息をひそめ、恐る恐る鏡ごしに背後を確認するが誰もいない。音を立てずにそろそろと廊下にでて、玄関を確認すると鍵もチェーンもかかっている。気のせいだったのかと、もう一度洗面台にたつと、ニキビと目があった。正確には、顎の赤く腫れたニキビの先端に小さな目玉があって、それと鏡越しに目が合った。

 「ハッーー」

 驚きすぎて声がでない。「は」の音を出す口の形に開いたまま、ニキビの目と鏡ごしに見つめあう。ニキビの目は何度か瞬きをして、怒りを滲ませた眼差しでこちらを見つめ、

 「俺をつぶそうとするとはなんて奴だ! もっと大事にしろ!」

 と、先ほど聞いたものと同じ声で怒鳴った。十代前半の声変わり前の少年のような、少し高めの男の子の声だった。

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