148話 囚われの姫 6/●
ナギィが馬から飛び降り、ストローと同じくメイシアの消えた地面をまさぐった。
しかし、どんなに触っても叩いたも何の変哲もない地面だ。いつもと変わらない乾いた地面。
「オバア!」
馬上のカマディを見上げ、問いかける。
ナギィの声が聞こえているのか、聞こえていないのか。カマディは目を瞑り、怒りなのか小刻みに震えていた。
「カマディさま、どういたしましょう……、」
ずっと邪魔をしてはいけないと気配を消していたチルーが沈黙をやぶって、不安な声を上げた。
「…………、」
先に反応したのはストローだった。
「決まってる!メイシアを助ける!」
立ち上がると、言うが早いか即座に馬に飛び乗った。
「カマディさん、このままスイを目指そう。メイシアはそこに連れていかれたんですよね? 」
カマディは、ゆっくりと目を開けた。手からはまだ怒りが消えていない。
「……そうじゃ。きっとトイフェルはスイへ行く。もう勝ち誇った気分で、十六夜の王になるつもりでな。」
「だったら話は早い。トイフェルを倒して、メイシアを奪還する!さ、行こう!」
ストローには珍しく憤怒し、声からは焦りも感じられた。
勢いづくストローとは正反対に、チルーが口を挟む。
「しかし、あのような化け物からどのようにして、メイシアさまをお救いしたら……」
「それは……、」
ストローが、少し目線を落とした。
確かにそうなのだ。
今、自分たちは目にしてしまった。
影を自由に移動をする力や、操る力。稲妻までも自由に操っていた。
もしかしたら、それだけでは無いかもしれない。まだ力を隠しているのかもしれない。
計り知れない事に恐怖を覚える。
ストローの中に過ってしまう。
もしこのままスイまで猛進したとして、全員を引きつれて行ったがために、この人たちまで傷付けてしまうかもしれない未来。
躊躇いが数秒の沈黙を作ってしまう。
「いや、行こう。だってスイにはスーが……父さんがいる!きっと大丈夫。ストローさん、オバア!メイシアを助けに行こう!」
ナギィは立ち上がり、カマディを見上げた。
力強いが、どことなく歪さの残るナギィの声。
よく見ると、声の強さとは裏腹に、脚が震えている。怒りなのか恐怖なのか。
その理由もカマディにはお見通しだった。
カマディーはしばしナギィの顔を眺め、頭を撫でた。
小さな息を吐くと、ナギィから手を放した。
「……いや、ワシ一人で行く。メイシアはワシが助ける。すまないが、みんなは今から魚釣島に戻ってくれ。」
突き放したような、そんな声だった。
「ダメだよ、オバア!ワーも行く!」
ナギィが食い下がるが、カマディは首を横に振った。
「ダメじゃ。」
「でも、オバアを一人になんて、ワーには出来ない!」
「ダメじゃ。足手まといになるだけじゃ。」
カマディの想いは頑ななようだった。
「オラは行くよ。」
ストローが口を挟む。
「メイシアと合流するために来たんだから、そこは譲れない。」
発する声に揺るぎがない。
カマディは何も言わずに、ストローに視線をむけた。
「……。」
「ちょっと待って!ストローさんが良くてワーがダメなんてことは絶対に無い!だってオバアは、ワーのこと、次の時代の祝女だって言ったさぁ? なら、ワーも役に立つはずやっさぁ!」
「ナギィ。まだ良いとは言っていないさぁ。……ただこのお方には使命がある。義務と言ってもいいかもしれない。ワシがどうこう言える立場ではない。それだけだ。」
ストローは何か引っかかった。
確かに、メイシアと合流するためにここまで来た。
そして今や家族でもあるメイシアを助けるのは、当たり前の行動だ。
しかし、義務とまで課されないといけない事なのだろうか。
心に従っているから、そうしているだけの事。一体誰に対しての果たさないといけない事なのだ。
そう考えると、少し前にも同じような引っかかる言葉を聞いたけれど、スルーしてしまったような……
ストローは少し悪い癖が出てしまって、深く考え込んでしまう。
そんな事はお構いなしで、ナギィはまだ食い下がる。ここまで来て自分たちを除け者にするのは腑に落ちない。
それに、ナギィにはやらねばならないと心に決めていることもある。
さっきの不甲斐ない自分を思い浮かべて、自身を思いっきり殴りたい気持ちだ。
必死に言葉を探す。
「ヤシガ……、ワーも絶対行く。メイシアの事もあるけど、オバアの事もあるけど……この国の事、放ってはおけないさぁ!ダメって言われてもついてく!」
ナギィの目はまっすぐにカマディに向けられている。
カマディがため息をついた。
「でも、ナギィ。良いのかい?お前の母親を屠ったのは……。それでも、戦えるのかい?さっき、雷を投げられ、何もできなかっただろう?あれはただ、ただ、運が良かった。」
「……、」
「次は、ああは行かない。間違いなく命を奪われる。」
ズキっと刺さる一言だった。
そうなのだ。トイフェルは、母親を殺している。きっとなんの罪悪感も持たずに。
さっきだって、自分があの時殺した女の娘だと聞いていたら、後悔や謝罪の言葉もないまま自分を殺していたかも知れない。
いや、母の命を奪ったことすら、覚えていないのかもしれない。
そんな奴を相手にしに行くのだ。
念を押されると、揺らがないはずがない。
「……そうだろ?全てワシに任せて、魚釣に帰りなさい。」
「(ヤシガ……、)」
ここまで出そうだったが、声が出なかった。
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