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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第六章
94/96

147話 囚われの姫 5/●


 ──── !



 一瞬時が止まった。

 メイシアの意識が一瞬にして飛んでしまった。

 もう何も、周りの雑音は入っては来ない。


 「緑の、骸骨……? 」

 記憶が逆戻りする。


 夢の中の話だと思っていた、あまりに曖昧で記憶にも残っていなかった「はず」のあの景色。

 洞窟の奥に見つけた、巨大な扉に施された装飾に映った自分の姿。


 「なんで……なんで知っているの? 」

 うわ言のようにつぶやく。


 「耳を傾けるなメイシア!聞くんじゃない!」

 メイシアの耳元でカマディがそう叫んだが、メイシアの耳には届かない。

 

 咄嗟にメイシアが、下を向き手で顔を覆い隠す。



 「メイシア、大丈夫じゃ。いつもメイシアのままだよ。」

 

 「ククク……、本当にそうか? ほら、顔以外の肉も腐り落ちて、悪臭を放っておるぞ。」

 トイフェルが嬉しそうにはやし立て、笑う。


 「トイフェル、どうしてそんな嘘を!」


 「嘘なものか。わしにはそう見えておる。可哀想になぁ。達成の鍵の乙女でさえならなければ、かわいいままでいられたのになぁ……ヒヒヒヒィ、」

 

 「わしの声が聞えるか?メイシア。トイフェルの言う事なんぞ聞かなくていい!お前の顔は何も変わっておらんぞ? 騙されるな、」


 

 トイフェルに言われるままの状態にしびれを切らせ、ナギィが叫んだ。 

 「メイシアはずっと出会った時のメイシアのばぁよ!」


 しかし声を発するや否や、トイフェルが指を軽く弾き稲妻を飛ばし黙らせる。

 「黙ってろ、小娘、」



 だが、そんな雑音のすべてがメイシアの耳には届いていない。


 ただ、手のひらの感覚だけが鋭敏えいびんだった。

 顔を覆い隠す手のひら。


 両手は確かにあの時と同じ、固く冷たい「何か」に触れている。

 それが何なのか確かめるまでもなく、分かっている。

 鏡みに映ったそれを、確かにこの目で見たのだから。あの時。石筍せきじゅんの洞窟で。


 おぞましかった。


 緑色の骸骨に、ボロボロになった麻袋のような髪。瞳も鼻も朽ち落ち、ただ虚構に空けられた穴。

 到底、人前に晒せるような容姿では無い。


 いつからなのか。いつからそうなったのか。

 もしかして、そうなったのではなく、ずっと昔から自分が気が付かなかっただけなのではないだろうか?

 恐怖に震える。


 もう何もわからない。見えるものも人の言葉も何も信じられない。


 「メイシア!大丈夫!何も変わっちゃいないさぁ!」

 声が届かない様子のメイシアに、カマディが必至で訴えかける。そしてメイシアの手を退け、目を見ようとした。


 ──── ダメ!見られたくない!


 「いや!見ないで!」


 メイシアが体をよじり、カマディの手をすり抜けた。

 と同時に馬上にあった不安定な身体は、バランスを崩し、トイフェルの方へと傾く。

 両手が使えないメイシアに、落下をくい止める手段は無かった。



 その瞬間をトイフェルは待っていたのだ。

 トイフェルはすかさずメイシアの肩を抱き、そのまま抱え込むと、にゅるりと影の中に入ってしまった。


 一瞬の出来事だった。


 「メイシア!」

 カマディが両手からすり抜けたメイシアの体を捕まえようとしたが遅かった。

 

 同じタイミングで自分を押さえつけていた影が消え解放されたストローが、メイシアが消えた影に駆け寄ったが、そこはもう何の変哲もない地面でしかなかった。

 「クソっ! 」

 ストローが拳で地面を殴りつけた。

 何も起こらない。



 どこからともなく、不気味な声だけが聞こえてきた。

 「残念だったな、ババァ。全部、わしの思う通りよ。イーヒヒヒヒヒヒ……! 」



 暗雲の立ち込めた空に、勝ち誇ったようなトイフェルの声が響き渡った。


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