144話 囚われの姫 2/●
トイフェルは未だかつてないほどの焦燥を感じていた。
もうスイ側には自分に対抗する手段は無いと結論していた。
だと言うのに、ここに来て予想外の強い力が動いているのを感じたからだ。
ありえない。
確実に何かが確信を持って動いている。
神降やスイに移動しているものの力……。
自分が知る中で、力の強い能力者はカマディくらいだと思っていた。
それが数年前に戦った経験からも確定だった。
あの忌々しい結界が無くなった今、自分に歯向かう力などないと思っていたのだ。
もう一つ気になることがある。
スイに向かっている集団から感じる花の香。あれが全ての因子なのか?
神降まで行けば手に入ると思っていた花の香が遠のいていく。
あの花の香……
あの花の香は「そういう事」なのだ。
違えようがない。
知っている香りだからだ。
いつからどうして知っているのかは、わからないが欲しくて欲しくてたまらない。
そしてその花の香を、呪われた不死にぶつければ、きっと忌々しい赤塊を破壊できる。
本能がそう教えて来る。
まさにそのチャンスが目の前にぶら下がっているのだ。
逃すわけにはいかない。
ギリッと、歯をかみしめた。
悠長に最悪へのカウントダウンと戯れている場合ではない。
お楽しみの時間は終わってしまった。
気分を害されてしまったことへの怒りよりも、早急に事を運ばねばいけないという焦燥。
事は一刻を争う。
もうキジムナーに余興をさせている猶予もないと、奔流の勢いで船を甘い蜜の香へと走らせた。
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