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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第六章
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143話 囚われの姫 1/●

 白い砂浜。海は凪いでいた。


 空は青く、海も負けじと青い。


 風は穏やか。


 日差しは白く透き通ってキラキラと眩しく、全ての生命を輝かせるがごとくだ。

 

 ここを「楽園」だと言う人もいるだろう。


 ざぷん、ざぷんと、波が寄せては返す。



 そんなすべてに興味が無かった。


 誰かにとって「楽園」であったとしても、自分にとっても「楽園」だろうと押し付けられたとしても、そんなこと知らない。


 優しい波が飽きることなく、空しく、ざぷん、ざぷんと音を立てていた。




 少女がむくろになったさそりを手のひらで包み、拾い上げた。


 蠍がもがき苦しんだのが、ほんの数秒だった事がせめてもの救いだ。


 無理矢理、自分をなだめる。


 

 もう消えたはずの名前のない感情が、蠍に視線を落とす。


 手のひらの上の蠍は、動かない。


 「……。」


 そんな事は分かっている。

 自分に「奇跡」を起こす力はもうないのだ。

 そこには「罪」だけがある。


 

 怒り……だろうか?── 怒りとはどんな感情だっただろう。

 苦しみ……?── 苦しいとはどんな感じだっただろう。

 悲しみ……?── 悲しい時、涙がこぼれたはずだ。

 嫉妬、妬み、憎悪、嫌悪、恨み、敵意、嫌気、不快……、幻滅。


 もうどれも、通り過ぎた。忘れてしまった。

 何処かに置いてきた。




 少女は長らく使っていなかった白く細い脚で立ち上がると、ひたひたと珊瑚の砂浜を歩いた。

 そして、アダンの木の下で膝をつき、その根元に慈しみながら蠍を葬った。


 小さく、誰にも聞こえないくらい小さく、すまない、とつぶやいた。


 そして少女は海岸を去っていった。


 真っ白な砂浜に、彼女の影を残して。


 



 影はいくらか脈打つと、ニィと笑いその場から姿を消した。






  *** *** ***



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