140話 師弟 13/15
魚釣島班は、こちらはこちらで作業分担をして防衛をしていた。
まず防衛の要はもちろんウッジだ。
そのほかに数名の能力自慢の清明がサポートについていた。
そして、こちらでもいち早く香炉に気が付き、香炉の修復に力を注いでいた。
もちろん長期戦を視野に入れ、ここで防衛が続けられるように軽作業をする班も作った。
その総指揮がユウナだ。
まず魚釣島の御嶽の香炉は、大小合わせ十五個ある。
そのうち、大きく亀裂が入ったり破損しているものが六個。
これは、もし使える状態までの持って行けたとしても、清明の力の負荷に耐え切れず、割れてしまうだろう。
しかし、その他の九個は、浄化をすれば使える状態まで回復させることができるかもしれない。
ただ、それも確実ではない。
香炉はとても繊細なもので、一度穢れてしまえば輝きを取り戻すことは難しいのかもしれない。誰もやってみたことが無いので、可能かどうかわからないのだ。
だが今は、それに賭けるしかなかった。
そうでなければ、当面の大きな戦力になるのはウッジだけになってしまう。
たとえ、疲労した体力をある程度回復させることができるユウナが護衛についていたとしても、それをずっと続けられるものではない。
長期戦になってしまったなら、もうそれは詰んでしまったと言ってもいい状態になってしまう。
目指すは一時をしのぐことと同時に、この先もある程度の能力者によって維持できる状態にする事なのだ。
とりあえずは、ウッジは防御。それ以外の清明は香炉の浄化という配置だ。
ウッジは、ユウナのレクチャーを受け、御嶽で祈り始めた。
今は神降からの祈りが無いため、出来るだけ遠くまで力が届くように。
一刻も早く、そして出来るだけ広範囲で、トイフェルの進路を妨げないといけない。
しかしレクチャーを受けたものの、ユウナとは力の種類が違う。なので詳しい力の使い方を教えてもらえたわけではない。
手探りではあったのだが、とりあえずやってみますと、祈り始めると、ウッジから薄いオレンジ色の光が立ち上り、一気に御嶽の中がその光で満たされた。
それを見た清明たちが、驚きの声を上げた。
見たことのない景色。
普段、奇跡の光を自らも発生させ、見慣れているはずの清明たちでも、素直に見惚れてしまうような温かい光。
口々に「チューバーさぁ、」「チュラサン……」と呟いた。
またそれが、その場にいた清明たちの希望にもなったのだ。
これだったら、どうにかなるかもしれないと。
士気の高まった魚釣チームはユウナ指揮のもと、動き始めた。
ウッジ本人はというと、泣きそうだった。
なんたって集中し、力を神降まで飛ばしてと言われたところで、やったこともないし、神降の場所も知らないのだ。
しかし、スイまで移動中のカマディーも、神降まで移動中のアレハンドラも今は何もできない状態であることは確実。
他に頼れるものは誰もいない。ウッジだけが現状での唯一の防衛出来る【壁】なのだ。
そのプレッシャーを考えると、いつもの自分なら怖くて気を失ってしまう状況なのだが、その責任もリミッターを超えると「やるしかない」に変わってしまうようだ。
心の中で、辞めたい、怖い、私にできるはずがないという気持ちと、アレハンドラの期待に答えたいという気持ちと、やるしかないという気持ちとで、葛藤が続いている。
どれもが全て本当の気持ち。同時に共存する本心だった。
みんなの期待をどーんと受け止められるほど、急に成長できているわけではない。
なので、綻びもある。
心の落としどころが徐々に「ぐちぐち文句を言いながら、なんとなく出来る範囲をやればいいか……」とこの極限の状態にあってもなお、心はそこへ寄って行ってしまうのだ。
それでもいい、と。
逆にそう思っていても、やるしかない!と自分で自分の尻を叩く。
葛藤に次ぐ葛藤。
とにかく出来る事を、目の前の事をやるしかないと、目を閉じ集中し海の上に意識を飛ばしてみる。
不思議に遠くから徐々に禍々しい何かがやってくるのは感じる。
そしてそれとは別に、光が猛スピードで遠くの清らかな方へ移動しているのも感じた。
「あれ、チャルカたちか…… 」
と理解したのがスイッチの様に、スッと周りから聞こえる音が変わった。
【音】というよりも、自分がいる場所が変わった。
何処からかクスクスとおしゃべりが聞こえる。
『また珍しいのがいるな。』
『ほんとだ。この前の変なのとはまた違う。でも、これも懐かしい感じだな。』
なんだか遠巻きに、あからさま自分の事を噂をされているような。
ウッジは「この手の状況」がとても苦手だ。
ずっとストロベリーフィールズでもこの感覚に苦しんできた。
「……やだなぁ、面と向かって言われるのも辛いけど、コソコソ言われるのも傷つくんだよね、」
と思ったのがどうやら口に出てしまっていたようで、そこそこ大きな声量になって響いた。
「え?やだ、どうしよう……、」聞かれたかも!と思って口を塞ぐが、もう手遅れ。
『聞こえてるみたい』
『どうする?』
『……おーい!』
『おーい!』
と遠巻きの声が、意見が一致したかのように、ウッジに声をかけながら近寄ってきた。
オロオロしていると、耳元で【ソレ】が声をかけてきた。
『なんで目を瞑ってる?』
『こっち見ろ』
ビクッとしてして心臓が飛び出しそう。
「……え?なんでって、」
ウッジは確かに目を瞑っているが、それは集中して遠くの状況を感じる為だ。
しかも、トイフェルとかいう奴の事も感じることは出来ているし、チャルカたちの事も感じられているのだから、これで問題ないのだ。
『ほら、目を開けてこっち見ろ。お前の目の色が見てみたい。』
『早く見ろっ』
「意味が分からない……」
『目を開けるだけなのに?』
『目が無い?』
「……そう言われると、簡単だけど、」
思ったことが声になって出てしまう。
耳元でソレは急き立てる。
『な、そうだろ?ほら、早くー!』
『はーやくっ』
「……そういうなら、」
ウッジは言われるまま、おそるおそる目を開いた。
「眩しいっ!」
目に飛び込んできたのは、眩むほど光り輝く海と空。
ウッジはその上空を漂っていたのだ。
「うぇぇぇぇぇーーーーーー!な、なんで?」
自分は今まで御嶽で座って集中していたはずだから、落ちる!と言わんばかりにじたばた手足を動かした。
本日から連載を再開しました。
再開一話目なので、少し長めにしました。
これからもよろしくお願いします。




