138話 師弟 11/15
「わぁ♪ 」
そんな楽しそうな声と共に、チャルカが降ってきた。
そしてペタンっとうつぶせの状態で、首を前に倒して水平気味になったメリーの首筋に着地。
その途端に、それが楽しかったのか、きゃっきゃと笑い出した。
「メリーちゃんすごーーーい! 」
「ぴろろろろーーー! 」
「もう一回! もう一回っ! 」
「ぐぅ! ぐぅーう! 」
「えーーーー! もう一回っ! 」
メリーの首にしがみついて、おねだりをするチャルカに、マタラが抱き付いた。
今度は、メリーの首ごとチャルカをサンドイッチ状態なので、安定している。
「ひゃぁ! マーちゃんどうしたの? 」
「チャルカちゃんが、落ちてしまったのかと思って、心臓が止まりそうでした、」
「きゃりっ! きゃりっ! 」
メリーも、そうだそうだと言わんばかりの声を上げた。
そして、いつの間にか姿を消していた、アレハンドラの光がまた姿を現した。
『チャルカさま、マタラさま…… ご無事で…… 』
ほっとしたようなアレハンドラの声が聞こえてきた。
「アーちゃん、どうしたの? 」
『どうしたのこうしたもありません。チャルカさまの精神状態が平穏でなければ、私はそちらと繋がれないのですよ! 今のは、チャルカさまが悪いです。メリーさんの上で飛び跳ねるような行動をするから、このような事態になったのですよ! 』
「いえ、アレハンドラさま、私が悪いのです。チャルカちゃんを叱らないで上げ下さい。」
『そんな事を言われましても…… マタラさんも、怖い目に遭われたでしょう? 』
「……はぃ、まぁ……。しかし、私は、誰も命を落としたり怪我をすることは無かったので、それで十分です。」
『そうですか……? では、チャルカさま、カミウリまではもうしばらくかかるでしょうから、それまでお利口にしていてください。分かりましたね? 』
「チャーはいつもお利口だもん。」
ペンタクルでアレハンドラが、どんな顔をして小さなため息をついたか、想像するに容易だ。
「メリーさん、ありがとうございます。」
「ぴゅぅいっ 」
マタラの言葉に、メリーが返事をした。「どういたしまして」だか「おやすい御用だ」だか、そんなところだろうか、とマタラは思った。
そこまでは何とか、マタラにも読み取ることが出来る内容だった。
「ぴろろろ、きゃりっ 」
「え? 何ですか? 」
「あ!ほんとだ。忘れてた! 」
何かを聞き取ったチャルカがメリーの首をごそごそと、手で探り出した。
「チャルカちゃん、どうしたの? 」
「んーーとねー、あった! 」
チャルカが、メリーの首に巻き着いている、短い手綱のようなものを手にしていた。
「それは? 」
「んとね、ノーニーさんに作ってもらったやつだよ。」
「ノーニーさん……? ノニ……? 」
チャルカは全く話を聞いていない。
「メリーちゃんがね、これを持っていたら良いってっ! 」
それは、チャリオット領でローニーに作ってもらった革製の首輪だった。
本当は、チャルカがメリーにプレゼントしたカメオを首から吊るすために作ったものなのだが、こんな時に役に立つとは。
そんな事を知らないマタラも、それがあれば安心とばかりに、ありがたく首輪を掴んだ。
二人は先ほどより前方に詰める形で、チャルカ、マタラの順で座り、マタラがメリーの首輪を掴み、その腕で挟み込む形でチャルカをカバーした。
マタラからしてみれば、前寄りに座ったことで、それだけで足が翼の上にある状態になり、ブラブラしないだけ体が安定として恐怖心が薄らいだ。
『……チャルカさま、そんなにいいものがあるのでしたら、もっと早く思い出し下さいよ、』
「えへへ、」
「でも、これで、私もちょっと、安心しました! もう大丈夫そうです! 」
『急ぎましょう、太陽が沈まないうちに、どうにか手を打たねばなりません。』
「急ぐのは、その通りなのですが…… アレハンドラさま。」
『どうかしましたか? 』
一呼吸おいて、少し躊躇い気味にマタラが話し出した。
 




