表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
83/96

136話 師弟 9/15

北の空では、あの禍々しい黒い影が、不穏な空気を感じ取っていた。


あの時に感じていた芳しい花の香。それが、どんどんと遠ざかってしまう。

あの気配。もう手に入る日は無いと思っていた、霊薬の気配。あの気配が遠のいていくのだ。

長年求めて、やっと手に届きそうなところに感じる蜜の匂いなのだ。逃すわけにはいかない。



もしや勘付いた……?

いや、そんなはずはない。

たとえ勘付いていたとしても、このスイの国はもうワシの手中も同じこと。


…… 待て。

これは御殿に向かっているのではないか……

何て都合がいい事か。



影はそう自分に言い聞かせるが、気持ちは焦る。

焦がれた物が手に入る喜びと、説明のしようのない焦燥感。

隠しようのない苛立ちを稲妻に代え、地上に漆黒の剣を落としまくった。


影が通るまでは青く凪いでいた海も、うねり千切れ、まるで真っ黒の指のような波が蠢く嵐の海になり果てた。

山原ヤンバルは黒い炎に焼かれ、追われた動物たちが逃げ惑う。


「トイフェルさま……! 止め(ヤミ)クィミソーレー! 海も山原ヤンバル動物イチムシヒトゥもトイフェルさまのものヤイビーン! 全部ムルトイフェルさまの財産ウェーキやっさぁ……! 」

ブルブル震えるコロニーから、毛玉が一人立ち上がり、勇気を出して声を上げた。


「……お前、ワシに意見するのか。」

凍るような冷たい声。

影が、髪の隙間から声の主に視線を放つ。

「ヒィ! 」

勇気ある毛玉は震え上がり、コロニーの奥深くに隠れようと潜りだした。


「無能で惰弱…… まぁ、良い。お前らは雷が苦手なのだったな。」

呆れたようにトイフェルがそういうと、雷がぴたりと止んだ。


雷が止んだことを認識すると、毛玉たちはコロニーを解き、トイフェルの元に集まってきた。

本当のところ、この人型の影のようなものがトイフェルの本体なのか、はたまた帆船がそうなのか、もしかして、この海面に映る帆船の影が本体なのか、誰にも分らない。


「フン、胡乱うろんな。」

髪の隙間からトイフェルの白い口元が不快に歪んだ。


「……おい、今ワシにたて付いたお前。」

トイフェルが、先ほどの毛玉、もとい、キジムナーを指さした。

「ひぃぃぃ、ワッサイビーン! 許してクィミソーレー……! 」

そういうと、目をつけられたキジムナーが一目散に、帆船から逃げて飛び出そうとした。

「逃げるな。……ハハハハ! お前、ちょうどいい。」


「へ? 」

「お前、先に御殿へ行き、達成の鍵の乙女を捕えてこい。それで先ほどの事は水に流してやろう。」

「……達成の鍵の乙女ヤイビーガ? 」

キジムナーは、聞き覚えが無い言葉に首を傾げた。


「聞こえたなら、さっさと行け! 」

トイフェルは指をそのキジムナーに向け、小さな稲妻を飛ばした。

「ヒィィィィィ! 」

びっくりした毛玉は飛び上がると、そのまま一目散で御殿へと飛んで行った。


「おい、お前らも、何をぐずぐすしている! 稲妻は止んだのだ。早く民家に行き、家畜や食料を集めてこい! 」

そういうと、適当に毛玉めがけて、何発か稲妻を飛ばした。


キジムナーたちは小さな悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らしたように船から飛び立っていった。





  *** *** ***


クィミソーレー / ください

ヤイビン / ~です

ですか / ヤイビーガ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ