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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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135話 師弟 8/15

カマディは続ける。

「心に傷を負わせた御殿の者たちにも、憎まれ役をさせてしまったキジムナーにも、本当に悪い事をしてしまった。だがそのおかげで、トイフェルを信用させることができたのも事実。あの子たちは、今も遠くからユイ加那志ガナシを守ってくれているんだよ。」


祝女ノロさま……、私はこれからどうしたらよいのでしょうか……、」

マタラが、小さな声でつぶやいた。

マタラは真実を知ってなお、カマディを慕っている。その事はカマディ本人も痛いほど、わかっている事だった。


「まだ祝女と呼んでくれるのか……。マタラ、お前の好きにしなさい。人は皆、楽をしては楽しく生きられない。もうそれが分かっているお前は、自分で歩く力を持っているさぁ。」


マタラには、二つ道がある。

力のあるユタ……清明シーミーは稀有な存在であることは明らかだ。だから人は、今まで通りスイの清明としてのマタラを望むのだろう。

しかし、もうそんなことは知らないと、やめてしまう選択も無いわけはない。


自分を苦しめ続けたあのトラウマの元凶が、悪意では無かったとは言え、事もあろうに尊敬するカマディであったことは、拭い去れない記憶として脳に書き込まれてしまった。

同じ清明として生きていく辛さが、この先どのように変貌するかわからない。

しかしこれまでの間、清明としての立場を使命だと受け入れ誇りにも思ってきた。ここで投げ出す事もまた苦なのだ。


どちらが楽しく生きられる【苦】なのか。


「……承知しました。私がやるべきことを……、楽しく過ごせるように、やるべきことを探します。」

それ以上の答えをマタラは口にしなかった。

しかし、マタラの体から消えた震えはすべてを物語っていた。


そしてすぐにその時はやって来た。

マタラの答えは【自分のするべきこと】を成すことで示されたのだ。

だから、マタラはチャルカと共に神降かみうりに旅立っていった。



メイシアは考える。

自分がするべきこととは…… と。

それはカップ村をあの日のまま、復活させること。


旅立ちの日、欲しい物は虹の国にさえ行くことができれば、ロードにさえ会う事ができれば、全ては叶うと思っていた。

そこにさえ到達できれば手に入ると、誰に保証されたわけでもないのに信じていたのだ。

まだその答えは保留だ。しかし、どうしてそう揺るぎなく信じていたのだろうと、今は思う。


浜で泣いた夜。カマディに、自分たちがオズ会ったのは、ロードではないと聞かされた。

あの時は、とてもショックだったが、同時に心のどこかでホッとしていた。

そのことに、後になって気が付いたのだ。

「まだ私は、【そこ】へは辿り着いていない。」と。


何かはわからない、正体不明の【何か】がメイシアの中で芽生え始めていたことは確かなのだが、メイシアには、その【何か】を捕まえることができない。


ただ今は、するべきことを成すために、一度【そこ】へ行ってみないと始まらない。そんな気持ちだった。



メイシアは、ハッとした。

(そういえば、まだ、あのオズの宮殿で会った方がロードさまじゃないって、ストローたちは知らないんだよね……。話しても大丈夫かな? )



ふと、馬を走らせているストローを見た。

ストローは、いつもいろんな事に気が付き、考え、知恵を絞ってくれる。

あの時本当に出会えてよかったと、メイシアは心から思っている。

もしストローと出会えていなかったのなら、ロードに会いに行く、なんて事は口をついて出なかっただろう。

そして、もし一人で旅を始めたとしても、きっと途中で挫折をしていただろう。

勿論、途中で加わったウッジもチャルカも。そして、メリーにも会えてよかったと思っている。


カマディに【あの人】はロードではないと聞かされた時、とてつもなくショックだった。

しかし御嶽ウタキでストローに言われた「家族」という言葉。

その言葉でショックにより開いた心の穴が、埋められていくように思うのだ。

皆がいたらきっと何とかなる、と思える。


視線に気が付き、ストローがメイシアを見た。

ストローが何かあった? と言わんばかりの、目くばせをした。

メイシアは、にっこり笑って首を横に振った。


「メイシア、まだまだ遠いけど、体は大丈夫? 」

自分も馬を走らせることに必至なのに、ストローが何とか近寄り声をかけてきた。

「うん、大丈夫。頑張ろうね。」

「ウッジとチャルカも頑張っているもんね。」


四頭の馬は速度を緩めることに無く、街道を走り続けた。

スイの御殿までは、まだしばらくはかかりそうだ。

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