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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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134話 師弟 7/15

メイシアは馬に揺られながら、カマディの話を思い出していた。

あの時だ。あの時のカマディの独白。


カマディはあの時、やっとメイシアたちが御嶽ウタキへ入ることができたあの時、こう話し始めたのだ。


「まだワシには話せぬことがある。それは、この国を天加那志てぃんぢゃなしにより任された身である故。……それは、許してほしい。」

そういうとカマディは、その場にいる者に深々と頭を下げた。

そして頭を上げたカマディは、長い間自分の心にとめていた事を話し始めたのだった。


「もう、その時が来てしまったのだな。この五年間、ワシがこの国の者に隠してきたことやっさぁ。ただ一人を除いてな。」

メイシア、ストロー、ウッジ、チャルカ、ナギィ、森榮しんえい、マタラ、ユウナ、チルーの九人は、じっとカマディの言葉を聞いていた。


「……マタラは、ワシとキジムナーが密会しているのを見たのだったね。」

マタラが、黙って頷いた。


「いつもは島の木々が道を塞いで隠してくれていたのに。メイシアがこの島に来て、何かが、運命と呼ぶべき何かの廻りが、狂ったのかもしれないさぁ。」


「おばあちゃん、私が何かを狂わせてしまったの……? 」

メイシアの心がチクリと痛んだ。

「気に病むことは無いよ。言っただろ? ただ『そう』だっただけ。それは運命。運命の輪がただそのように動いただけやさ。」

メイシアはカマディの言葉を聞いて、あの不思議な夢の世界で見た、誰もいない部屋にあった大きなオブジェを思い出していた。

誰に見られているわけでもないのに、ただ静かに動き続けていた球体と輪っか。


「ワシはね、メイシア。こうなった事を感謝しているのだよ。」

「感謝だなんて…… 」

「これも運命。受け入れると、次にするべきことが見つかるというものだよ。」

カマディが、メイシアにほほ笑んだ。


「すまなかった、マタラ。苦しい思いをさせて。実はワシとキジムナーは旧知の仲でな。あれは、ワシの友朋ゆうほうなんやさ。」

その場にいた十六夜の者は、少なからず驚いた。ただ一人を除いて。


「どうして……? キジムナーは……、」

マタラがあからさまに動揺していた。マタラにとって、キジムナーは人の心を持たない悪魔の手先でしかないのだ。

そんな者が尊敬するカマディと友達だと言われたところで、すんなり受け入れられるものではない。


「そうさぁ。キジムナーは、トイフェルのしもべ。ワシらの敵。」

「では、どうして、そんな者と、」

「もともと、キジムナーはこの島の精霊。ちょっといたずらが過ぎる悪餓鬼ヤナワラバーやっさぁ。まだワシがそうさねぇ、マタラぐらいの歳だったかやぁー、その頃にとっ捕まえて、叱ったことがある。何度も何度も、悪戯を見つけては捕まえて叱り、それを繰り返しているうちに気心が知れる友になったんやさ。友になってしまえば、気の良い寂しがり屋のイタズラ坊主。本当にただのヤナワラバー。」


聞いているうちに、マタラがカタカタと震え出した。

あの日のキジムナーの、命を何とも思っていない笑い声や、キジムナーが叩いているであろう太鼓の音が、脳内にフラッシュバックして、カマディーが話すキジムナーの話が受け入れられない。


「マタラ、大丈夫やっさぁ? 」

ユウナがマタラの横に座り、肩をさすった。

「ワッサイビーン、マタラ。ジチェー、ワーも知っていたんやさぁ。」

「ユウナだけは、キジムナーとワシの仲は知っていたんだよ。ユウナとは付き合いが長いからねぇ。」


「え……、」

「黙っていて、申し訳ない。マタラがキジムナーの事を憎んでいるのは、ワカユン。ヤシガ、キジムナーも不器用ブクーなのに、よくやっているさぁ。」


「…… ワシが全部悪いんだよ、マタラ。ワシが、キジムナーたちに頼んでしまったんだ。このスイ、いては御主加那志ウシュガナシ…… いや、ユイ加那志ガナシの事をトイフェル側について、内密に守るようにと……。」

「そんな、」

「ヤサヤー。アッターは不器用な守り方しか出来ないヤシガ、ちゃんと今の今まで、カマディとの友情を守っているんやさ。」


「しかし、あの時、私はキジムナーに追い立てられて、食物庫から…… 御殿から追い出されたのです! 」


カマディの表情が後悔の色で曇った。

「怖い思いをさせてしまったね……。キジムナーの代わりに謝るよ。すまなかったね、マタラ。この通りだ。でもわかってやっておくれ。あれはキジムナーなりの、守り方だったんだよ。あの時、そうでもしないとみんな御殿の敷地内で焼かれてしまっていた。御殿で働くものは、最後まで御殿を守る気持ちでいる。お前も、そうであったように、御殿から離れそうとはなかなかしなかった。だからキジムナーが、御殿から遠く離れるようにあんな行動をとったんだよ。」


「……そんな、」

マタラの顔から血の気が引いた。

あの夜の恐怖がよみがえる。

キジムナーの甲高い声。御殿が焼けるのを喜んでいるような笑い声。ドンドンと休みなく叩かれる太鼓の音。

でも、そこでハタと気が付いた。

その事実を聞いてから記憶を手繰ると、キジムナーたちは「もうこっちは火の海やっさぁ! 」「御殿が丸焼けになるさぁ! 」「次はここだからよー! 」と笑いながら、確かに脱出を促していた。太鼓を鳴らしながら、それより奥にはいかないように、早く御殿を出るように急き立てていたのだ。


「……私は、何を今まで、、」

この事実が悲しいわけではない。悔しいわけでもない。絶望したわけでもない。どれも近いが違う。マタラは、この感情の名前を探した。

ただただ、涙がこぼれた。


頭は冷静な状態なのに、涙だけ止めどなく流れた。

この感情に名前を付けるなら「苦しい」。


誰が悪いわけでもない。そして、自分は生きている。

あの日がどうであれ、あの日から生きて、今ここに居て、この事実を聞いたのだ。

その全てを言葉にするなら「苦しい」。

それが一番近い言葉だ、マタラは思った。

ジチェー/ 実は

ワカユン / わかる

アッター / あいつら

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