133話 師弟 6/15
まさかの、ダークホース・マタラ登場。
斯くして、チャルカとメリーの初めてのお使い with マタラ。という事に相成った。
賛成しきらないウッジをごり押しで首を縦に振らせ、火急でこれからの予定を相談をした。
結果、一行はひとまず残った清明たちに御嶽を任せ、朝清の船のある浜へ急いだ。
浜に着くと船は何も変わらず浜に打ち上げられており、惨状さながら疲れ果て、体で息をしながら倒れ込んでいるメリーと朝清が転がっていた。
どんなに力をこめたり、体当たりしたところで、船は揺れる程度で、絶望から虚脱状態になっているのだ。
仕方がない。水分を十分に吸った木材は非常に重いのだから。
見かねたユウナが、起き上がる力も残されていないほど疲労困憊しているメリーと朝清を、清明の力で回復をさせた。
そして、人の力では簡単に動かすことは不可能である重い船を、カマディの力によってどうにか、海にかえすことに成功した。
その方法とは、カマディが海水に呼びかけ、海面がもっと陸側まで来るように頼んでくれたのだ。
みるみるうちに、満ち潮時よりも海面が上がり穏やかな波が浜へと押し寄せ、少しの浮力を得た船を何とか全員の力で沖へと押し、安全な辺りまで移動させる事に成功した。
そして全員が汗だくになって浮かべた船を一旦、朝清が船着き場へと移した。
メリーには、先ほどメリー抜きで決定されたあれやこれやの事情と任務を話し、船を海に戻すという任務は遂行できなかったが、神降までチャルカとマタラを無事に届けたら、ゴーヤとノニは無しにするという取引を何とか飲み込ませ、働きたがらない聖獣を言いくるめた。
そうこうしているうちに、ウッジとチャルカのお別れはすぐに来てしまった。
チャルカは泣き叫ぶかと思われたものの、別れ際に「自分で決めた事でしょ」とウッジに一蹴されると、ぐっと涙をこらえた。
予想外だったのか、逆にウッジがシュン、となっていた。
幸運だったのは、チャルカと一緒に神降に行くと言ったマタラは、ストロベリーフィールズで懐いていたシダーに雰囲気が似ていたのだ。
チャルカはマタラの優しい人柄を嗅ぎ取ると、すぐに懐いてしまった。
そして二人と一頭を見送り、チャルカが見えなくなると、グズグスと泣き出してしまったウッジをユウナに預け、メイシアたちは朝清が待っている船着き場から、海へと漕ぎ出したのだった。
海風が船上を休みなく通り過ぎてゆく。
メイシアは、ぐんぐんと遠くなる魚釣島から赤星島へと視線を移した。
「あれ?メイシアの髪、そんなに黒かったっけ? 」
ナギィが、メイシアに声をかけた。
「? 」
「本当だ。メイシアの髪は栗色だったと思うんだけど。」
ストローも話に加わった。
メイシアは、何を言っているんだろう?と、風でなびく髪を一つかみ手に取り見てみた。
確かに、黒いような気がする。
だが、髪色が変わるなんてこと、ありえないから光の加減か何かなのかな?と思った。
「そう? 私にはいつもと同じに見えるけど……? 」
「んーー、気のせいかな。なんか、変な事言ってごめんね。あはは。」
ナギィがいつもの明るい声で、笑った。
カマディが、それを黙ってじっと見ていた。
風に乗ったサバニは早い。
なんたって、祝女が乗っているのだ。良い風が吹く。
あっという間に、赤星島の船着き場へと到着してしまった。
船から降りながら、メイシアがストローに聞いた。
「ストロー、ここからは何でスイまで移動するの? 歩き? 」
「そんなわけないよ。オラたちが乗ってきた馬があるからそれで…… と思ったけど、馬は全部で三頭だなぁ。……どうしよう。」
「そうですね……、二人ずつ乗るなら何とか行けそうですが、馬の疲労を考えるとあまり好ましくはないですね…… 」
チルーも頭を悩ませた。
「大丈夫さぁ。ワシらの家の馬がある。海榮の馬を宿に貸し出しているから、それを使うさぁ。」
「それは都合がいいですね! 私たちの馬も宿に預けてあるのです。」
「そうかい。では、急ぎましょうねぇ。」
桟橋で朝清とは別れた。
朝清はこれから、村中にトイフェルの力がここへ及ぶ前に、家に籠る準備をし雨戸を閉めるように触れ回るそうだ。
そうなるまでにメイシアたちが伝令となり、御殿まで戻り都の軍隊を派遣できればいいのだが…… 現実的には、そこまで早く事を運べないだろう。
御殿がこの事態を何らかの方法で気が付いてくれていれば、動きはあるだろうが、御嶽が壊れたという事実を把握するのは難しい。それも望み薄だ。
今一番の希望は、チャルカがいち早く神降に到着し、結界が復活する事。
それが叶うと信じているものの、最悪の事態の為に、行動をしなくてはいけない。
カマディは、御嶽でその場にいる皆に話した。
結界の内側へ侵入できたトイフェルは必ず御殿を奪いに来ると。
人には遠い距離だが、トイフェルがその気になれば一瞬なのだ。
目の前にぶら下がった勝利に油断している今、その時間を突くしかない。
メイシアたちも宿へと急いだ。
宿に着くと女将に事情を話した。
あわただしく馬を引き取ると、カマディ・森榮、チルー・メイシア、ストロー、ナギィに分かれ、四頭で出発をした。
メイシアと森榮は乗馬ができないので、相乗りである。途中、相乗りをする馬を交代させることでゴールまで突っ走る事になった。
六人はスイを目指して、成る丈の速さで走り出した。
シダー : 「メイシア1 第一章 はじまり 4話~6話 ラズベリーフィールズ」参照