127話 楽園 33/33
「メイシア! ナギィさん! 」
「メイシアさん! ナギィさん! 」
「マブヤー マブヤー ウーティキミソーリ! メイシアのマブヤー ウーティキミソーリ! ナギィのマブヤー ウーティキミソーリ! 」
なんだか、とても騒がしかった。
さっきまで、あんなに凪いだ海の底で心地よかったのに。
もっと幸せな気分のまま眠っていたいのに、誰かが午睡の邪魔をする。
「おばあちゃん、もうちょっとだけ寝かせて…… 」
「ワーも…… 」
メイシアもナギィも、むにゃむにゃと聞き取れない何かを口にすると、寝返りを打った。
「寝ぼけてるさぁ…… ネーネー! メイシア! 起きろーーー! 」
呆れた森榮が二人の耳元で大喝を入れた。
「ひゃぁ! 」
「ぎゃっ! 」
二人は飛び起きた。
寝ぼけて訳が分からず、キョロキョロする。
驚きが引くと、片耳がジンジンしてきた。身体が痛い。
それもそのはず、寝ていたのは、ゴツゴツの岩が所々剥き出しの地面だったのだから。耳に違和感があるのは言わずもがな。
「ちょっと、森榮! 何てことするの! この馬鹿者! 」
「フリムンは、ネーネーやっさ! ワンらがどんだけ心配とたと…… 」
と言いかけて、森榮がプイっと、そっぽを向いてしまった。
坊主頭なので、そっぽを向いても耳が真っ赤なのは、丸わかりだった。
「……ごめん、森榮、」
チャルカが、そんな森榮の頭を撫でる。
「いい子、いい子。」
「カシマサヨ! 」
口を尖らせた森榮が、チャルカの手を払いのけた。
大人たちが、フフッと笑った。
「メイシア、戻って来て良かった…… 」
さっきまでワナワナとしていたストローが、メイシアに抱き付いた。
「ストロー……。心配かけたんだね、ごめ……うんん。ありがとう。もう大丈夫だよ。」
「ストローは、急にメイシアに対して過保護になったよなぁ。」
その様子を眺めながらウッジが漏らす。
「ウッジ、当たり前だろう? メイシアは家族なんだから! これがウッジだったとしても同じことだよ! 」
「……んーーーーーーーー、……まぁ? 確かに? オズでは同じ家に住んでいたんだから、家族だけど……? 」
と、ウッジもなぜか腕組みをしてそっぽを向いた。
「ウッジ、いい子、いい子。」
チャルカがウッジの頭を撫でに来た。
「チャルカ、うるさいっ 」
メイシアは、ふいにストローに言われた「家族」という言葉が心に落ちてきたのを感じた。
── そうか。旅の仲間だけじゃなくて、もう私たち、家族だったんだ……
「もう、これからは危険なことは、絶対にしちゃだめだからね、わかった? メイシア! 」
ストローがメイシアの目を見て念を押してきた。本気の目だ。
「……う、うん。自重する…… 」
と言いながら、確かにウッジの言う通り過保護になった気がする、とも思った。
「ところで、おばあちゃんは? 」
「あぁ、もう御嶽は開かれたねぇ。ほら、風が通ってるさぁ。」
ユウナに言われて初めて、周りの者は気が付いた。
止まっていた時が動いたかのように風が通り、海の音も木々の音も正常に鳴りだしていた。
「祝女さまのところへ行きましょう! 」
強く決意をしたような、少し強張った声で、マタラが言った。
それぞれに返事をすると、ぞろぞろと御嶽の中へと急いだ。
御嶽への巨岩のトンネルをくぐる。
いつも通りの光が満ちた空間。
鏡の力を失ってもなお、光が満ちて見えるのは、そこにカマディがいるからだろうか。
カマディの強大な力によって、保たれている光。
メイシアとナギィ、森榮は、カマディの姿を目にするや否や駆け出した。
寸前でメイシアが本当の孫二人に譲り、足を止め、孫二人がカマディに抱き付いた。
カマディは二人を抱きしめ、頭を優しく撫でながら、メイシアを見て優しい笑顔で頷いた。
そして、ゆっくりと目線をマタラに移した。
マタラはカマディと目が合わないように、下を向き、小さくなっていたが、カマディが孫たちを横に座られると、マタラの名を呼んだ。
マタラは躊躇しながらも、カマディの前に座し、目を見れないまま頭を下げた。
「マタラ、顔をあげなさい。」
マタラは無言で首を横に振った。
「……お前のせいではないよ。マタラには、超えられるはずのない過去がある。仕方がない事。そして、ワシの罪。……顔をあげておくれ、マタラ。」
マタラがおずおずと顔を上げた。
真っ赤な目でカマディを見た。まだ不安な色が拭いきれないでいる。
「……とうとう、その時が来てしまったさぁ。」
そういうとカマディは、一度目を瞑り、御嶽から見える空と海を見た。
まだ十六夜の海と空は青かった。
水面が輝き、いつもと変わらず神々しいまでに美しかった。
そしてカマディは、その場にいる面々に向き直ると、静かに話しはじめた。