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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
74/96

127話 楽園 33/33

「メイシア! ナギィさん! 」

「メイシアさん! ナギィさん! 」

「マブヤー マブヤー ウーティキミソーリ! メイシアのマブヤー ウーティキミソーリ! ナギィのマブヤー ウーティキミソーリ! 」

なんだか、とても騒がしかった。

さっきまで、あんなに凪いだ海の底で心地よかったのに。

もっと幸せな気分のまま眠っていたいのに、誰かが午睡の邪魔をする。


「おばあちゃん、もうちょっとだけ寝かせて…… 」

「ワーも…… 」

メイシアもナギィも、むにゃむにゃと聞き取れない何かを口にすると、寝返りを打った。


「寝ぼけてるさぁ…… ネーネー! メイシア! 起きろーーー! 」

呆れた森榮しんえいが二人の耳元で大喝を入れた。


「ひゃぁ! 」

「ぎゃっ! 」


二人は飛び起きた。

寝ぼけて訳が分からず、キョロキョロする。

驚きが引くと、片耳がジンジンしてきた。身体が痛い。

それもそのはず、寝ていたのは、ゴツゴツの岩が所々剥き出しの地面だったのだから。耳に違和感があるのは言わずもがな。


「ちょっと、森榮! 何てことするの! この馬鹿者フリムン! 」

「フリムンは、ネーネーやっさ! ワンらがどんだけ心配とたと…… 」

と言いかけて、森榮がプイっと、そっぽを向いてしまった。

坊主頭なので、そっぽを向いても耳が真っ赤なのは、丸わかりだった。

「……ごめん、森榮、」


チャルカが、そんな森榮の頭を撫でる。

「いい子、いい子。」

「カシマサヨ! 」

口を尖らせた森榮が、チャルカの手を払いのけた。


大人たちが、フフッと笑った。


「メイシア、戻って来て良かった…… 」

さっきまでワナワナとしていたストローが、メイシアに抱き付いた。

「ストロー……。心配かけたんだね、ごめ……うんん。ありがとう。もう大丈夫だよ。」


「ストローは、急にメイシアに対して過保護になったよなぁ。」

その様子を眺めながらウッジが漏らす。

「ウッジ、当たり前だろう? メイシアは家族なんだから! これがウッジだったとしても同じことだよ! 」

「……んーーーーーーーー、……まぁ? 確かに? オズでは同じ家に住んでいたんだから、家族だけど……? 」

と、ウッジもなぜか腕組みをしてそっぽを向いた。


「ウッジ、いい子、いい子。」

チャルカがウッジの頭を撫でに来た。

「チャルカ、うるさいっ 」


メイシアは、ふいにストローに言われた「家族」という言葉が心に落ちてきたのを感じた。


── そうか。旅の仲間だけじゃなくて、もう私たち、家族だったんだ……


「もう、これからは危険なことは、絶対にしちゃだめだからね、わかった? メイシア! 」

ストローがメイシアの目を見て念を押してきた。本気の目だ。

「……う、うん。自重する…… 」

と言いながら、確かにウッジの言う通り過保護になった気がする、とも思った。




「ところで、おばあちゃんは? 」

「あぁ、もう御嶽うたきは開かれたねぇ。ほら、カジが通ってるさぁ。」


ユウナに言われて初めて、周りの者は気が付いた。

止まっていた時が動いたかのように風が通り、海の音も木々の音も正常に鳴りだしていた。


祝女ノロさまのところへ行きましょう! 」

強く決意をしたような、少し強張った声で、マタラが言った。

それぞれに返事をすると、ぞろぞろと御嶽の中へと急いだ。





御嶽への巨岩のトンネルをくぐる。

いつも通りの光が満ちた空間。

鏡の力を失ってもなお、光が満ちて見えるのは、そこにカマディがいるからだろうか。

カマディの強大な力によって、保たれている光。


メイシアとナギィ、森榮は、カマディの姿を目にするや否や駆け出した。

寸前でメイシアが本当の孫二人に譲り、足を止め、孫二人がカマディに抱き付いた。

カマディは二人を抱きしめ、頭を優しく撫でながら、メイシアを見て優しい笑顔で頷いた。


そして、ゆっくりと目線をマタラに移した。

マタラはカマディと目が合わないように、下を向き、小さくなっていたが、カマディが孫たちを横に座られると、マタラの名を呼んだ。

マタラは躊躇しながらも、カマディの前に座し、目を見れないまま頭を下げた。


「マタラ、顔をあげなさい。」

マタラは無言で首を横に振った。

「……お前のせいではないよ。マタラには、超えられるはずのない過去がある。仕方がない事。そして、ワシの罪。……顔をあげておくれ、マタラ。」


マタラがおずおずと顔を上げた。

真っ赤な目でカマディを見た。まだ不安な色が拭いきれないでいる。


「……とうとう、その時が来てしまったさぁ。」


そういうとカマディは、一度目を瞑り、御嶽から見える空と海を見た。

まだ十六夜の海と空は青かった。

水面が輝き、いつもと変わらず神々しいまでに美しかった。



そしてカマディは、その場にいる面々に向き直ると、静かに話しはじめた。

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