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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
73/96

126話 楽園 32/33

ナギィは、深海にいた。


(何これ! 水の中? ……息が出来ない……! )

「うぐ! 」

咄嗟に息を止める。


深海だと思ったのは、薄暗いからだ。

ナギィは十六夜いざよいの海を知っていた。

色とりどりの魚やサンゴや海藻に、イソギンチャク。ヒトデなんかも彩を添えていた。

十六夜の海は、にぎやかなのだ。

しかし、今いるこの海は、深い青一色。

ずっと上の水面らしきところから、時折、木漏れ日のような揺らいだ光がうっすらと差し込む程度だ。


(メイシアは? メイシアは何処? )

周りを見渡す。

(もしかして、息が出来なくて、気を失っているんじゃ…… )

そう思うと焦りからか、どんどん息苦しくなってくる。


素潜りの極意は、精神が凪いでいる事。

分かっているはずなのに、どうしようもなく、心がざわざわと……


「ナギィ、どうしたの? 」

「え? 」


驚きのあまり、ナギィが口を開けた。

ボコボコと、口からあぶくが飛び出し、大小のそれはユラユラと水面めざして上昇を始めた。

(もうだめだ…… 気が遠くな…… )


「だから、ナギィってば。そんな苦しそうな顔をしてどうしたのって? 」

「何って、息が出来ないからでしょ……って、何これ。なんで喋れるの? 」

「ん? 変なナギィ。ねぇ、早く行こう、おばあちゃん探さなきゃ。」



メイシアが、ナギィの手を引いて泳ぎ出した。

さながら空でも飛ぶかのように。

「メイシア、待ってよ、なんで息が出来るの? 」

「やっぱりナギィ、変だよ? いつもと何も変わらないよ、何言っているの? 」

「はぁ? ……まぁ、いっか。」

ナギィは、あまりにメイシアが、何を言っているの訳が分からない、といったような空気を出しているので、とりあえずはこの話は脇に置いておくことにした。


そのように受け入れてみると、なんとなく、息も楽にできるような気がした。


「ナギィ、見て! 」

メイシアが指さした方向に目を凝らす。

集中して目を凝らさなければいけないほどに、濃い青が視界を遮っているのだ。

ナギィは泳ぎながら集中した。


「あ! 」

目線の先に、ついさっき別れたばかりなのに、もう懐かしいように思うシルエットが浮かんだのだ。

「……ナギィ、急ごう! 」

「うん! 」


ナギィは泳ぎながら、不思議に思っていた。どうしてここには、御嶽うたきの入り口を塞いでいたような栓も、ましてや御嶽のあの大きな、互いにもたれ掛かった巨岩も無いのかと。

ただあるのは水。

いや、本当に水なのかも定かでは無い。


一面青く、淡い光が時折揺らぐ世界。

ただそれだけ。


そんな事を考えているうちに、もう目的のあの人が、鎮座し祈っている姿がはっきりしてきた。


鼓動が早まる。

どんなに、拒まれても連れて帰ろう。ナギィはそう思った。

メイシアと一緒なら、それが出来る。なぜか、そう思えたのだ。



「オバア! 」

「おばあちゃん! 」


二人は、大きな声でその人を呼んだ。

その人は驚いた様子も無く、静かに目を開けると、二人が近づいてくるのただじっと待っていた。


そして、二人が自分のところまでやってくと、両手を広げて二人を抱きとめた。


「二人が来たのを感じていたよ。無茶をするンマガやさ。来てはいけないと言っていたのに…… 」

カマディは、二人をぎゅっと抱きしめた。


「おばあちゃん、迎えに来たよ! 」

「オバア、帰ろう! 」


「……どこに? どこに帰るさぁ? 」

「それは……、わかんないけど、とにかく、オバアこそ無茶ばかりし過ぎだよ! 」


カマディの目が困っていた。

「はぁ……。本当にナギィはフンデーやっさぁ。ワシの役目がある。ここを退くわけにはいかないのさ。」


「おばあちゃん、私なんだってする! 私にできる事、何でも言って! だから御嶽うたきから出て来てよ、お願い。」

「はぁ…… 」

またため息をつくと、カマディはメイシアの顔をじっと見つめた。


「何てことをしてしまったんだろうねぇ。ウンジュをあやつから隠す為に、こうしていたというのに……。でもまぁ、これが運命ってやつだねぇ。」

「? 」

カマディが、メイシアの頭を撫でた。そして、ナギィの頭も。


「仕方ないねぇ。ワシがメイシアのオバアを名乗り出て、次こそはウンジュを守ると決めたのだから。……わかったよ。ここから出よう。」


「ほんと?! 」

「やった! 」


「確か、ユウナが来ているね? あと、一人、とても力の強い子がいるはずやさ。」

「うん。……ウッジの事かな? 」

「ウッジさんというんだね。後、神の力を授かっている子も一人いるようだね。」

「すごい! おばあちゃん、何でもわかるんだね! そうだよ。チャルカは太陽の神さまの力があるよ。」


「え! あのおチビちゃん、そんな力があるの? 」

ナギィの驚きに引きつった笑顔しか出てこないが、あんな風だけど本当の事なのだ。

「……うん。色々あってね。さっきもペンタクルの太陽の神さまが家に来ていたんだよ…… 」

「うそ! わぁ! 神さま、見たかった! 残念過ぎる~! 」


「そうかい。わかった。」


「ん? 何が分かったの? 」

「それは、御嶽から出てから話すよ、メイシア。」


そういうと、カマディはもう一度二人を抱きしめた。

「あぁ、神さまはなんて運命を与え給うたのだろう。……カナサ。カナサンよー。」


深い深い青色が、揺らいだ。

浮遊感。そして確かな繋がっている感覚。

メイシアとナギィは、気持ちの良い何かに包まれていた。

それはカマディの愛だったのかもしれない。

そのまま、二人は意識が遠くなった。






一方、十六夜いざよいの空を行くものがいた。

蒼穹そうきゅうを爛れた闇に染めながら、ゆっくりと、ゆっくりと進む者。

もうどれだけ時間をかけようが、問題ないのだ。

砦が壊された今、全てが手中に落ちるのは約束されたことなのだから。


喜びをかみしめるように、闇は深く深く、もう何人たりとも塗り替える事が出来ないように、入念に染めながら前進し続ける。


突然、闇の主が痛快に笑った。

「フフフ……ハハハハハハハハ! これはいい。」


砦が崩れただけでも慶賀の至り。それに加え、渇求の何かを見つけたようだった。

「珍しいのがおるなぁ……。シュテフィよ、やっと、ワシらは『楽園』を手に入れられるぞ…… アハハハハ! 」


闇の主は被っていた王冠を手にとり、ニヤリとした。

王冠にはめられた赤い宝石に、闇の主のいびつに歪んだ口元が映し出されていた。

フンデー / わがままな赤ちゃん

ウンジュ / あなた

カナサ / 愛

カナサン / 愛おしい

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