123話 楽園 29/33
「チビラーサン! チムドンドンねぇ! ほんと、ネーネーたちには驚かされてばかりやっさぁ! 」
ユウナが目を真ん丸にした。
何が起こったのか、一番混乱しているのはストローだった。
アレハンドラから、初めてトーラを渡されたあの時も、実際には使い方も知らないままで、そして、自分でも何が起こったのか理解できないまま使用していた。今、目の当たりにした、何もない場所から簡単には取りに行けない場所にあるはずのトーラが出現するなんて現象。言い換えれば「奇跡」だ。
ストローは、トーラが生み出す奇跡を目の当たりにしたのは、初めてといってもいい。
なんだかんだと、みんながトーラには不思議な力が宿ると言ってはいたが、信じ切れていない部分も多少はあったのだ。
<大切にすべき本>くらいのカテゴライズだったことは、否めない。
ストローはソーラの言葉を思い出していた。
『肯定的な出来事に対して否定的な感情を持っておると、奇跡は起こらなくなるぞ。』
都合のいいところで、都合よく起こり、都合よく幕引きをする「奇跡」を眉唾物だと思っていた節がどこかにあって、それをきっと見透かされての言葉だった。
しかし今「奇跡」を体験し、ソーラの言葉の温度を感じ取れたような気がした。
(今まで、メリーや、ローニーさんの戦車や、死神や、太陽の神の光の柱だって、ウッジの力だって、メイシアの達成の鍵だって、全部奇跡だったのに、オラは何を見ていたんだろう…… )
「ストロー、すごい! どうやってトーラを呼び寄せたの……? って今は、それはいいわ。早くペンタクルのあの時みたいに、本を開いて何か道具を出してよ! 」
メイシアが、トーラを見ながら物思いにふけるストローの腕を掴んでゆすった。
「あ、ああ、うん。やってみる。」
今、ストローは何かがわかりかけていた。
世界の道理のようなもの。
今なら、何かできそうな気がすると、ストローは思った。
あの時、ペンタクルの神殿の上でトーラを使った時。あの時、どうやって使っただろう? と思い出す。
「……あれ? これってどうやって使うんだっけ? 」
「もー! しっかりしろよ、ストロー! 」
ウッジが不満げにつっこむが、仕方がないのだ。
なんたって、あの時は、ストローの意識して起こした奇跡ではないのだから。
無意識だったのだ。記憶すらない。
ウッジとストローが口げんかになったのを、メイシアが止めに入った時に、達成の鍵が光った。そして、その光がストローを無意識にさせたのだ。
しかしそんな事、誰も、本人すらきちんと覚えてはいない。
「ストロー、とりあえず、パラパラーっとトーラをめくってみたら? この前は、その本が開いて、中から弓と矢が出てきたんだから…… 」
メイシアが、握りこぶしを作って必死に助言をする。
「そ、そうだね、」
ストローが言われとおり、パラパラとトーラをめくってみる。
「………。」
何も起こらない。
本がめくれる乾いた音が、あたりに小さく響くだけだった。
「なんで? なんで、何も起こってくれないの? 」
ストローは焦った。
今、ここにいる全員が、これしか方法はないと思っているのだ。
希望はこれだけだと、期待されているのに、何も起こらない。
「なんで? もしかしたオラが正しい心の持ち主じゃないから? ねぇ、お願いだから、何か出してよ! カマディさんを助けたいんだよ! 」
ストローがたまたま開いていたページに向かって、悲痛に訴えた。
その時。
その開いていたページがふわっと光った。
「ぅわっ! 」
驚いたストローが、トーラを落としそうになった。
ストローの手からバランスを崩したトーラだったが、なんとか落下させることなく手の中にとどまった。
しかし、何かが地面に落ちた。
──コト
軽い、地面との接地音。
地面には柔らかい草が生えていて、音がほとんど鳴らない。
「高サンネーネー、ウトゥシムン。」
森榮がそれを拾い、ストローに渡した。
手のひらにすっぽりと入る大きさのものだ。
細長い形状をしている。
「あ、ありがと。」
ストローが握った手のひらを開いた。
「ストロー見せて。」
メイシアを初め、その場にいた面々が、ストローの手のひらを覗き込んだ。
「……? 」
「なんだ、コレ。」
覗き込んだ面々が首をひねった。
チビラーサン / びっくりした 素晴らしい
チムドンドン / 胸がどきどき
ウトゥシムン / 落とし物




