116話 楽園 22/33
その様子を、ユウナ、マタラ、チルー、そしてソーラとサンは、ほっとした様子で眺めていたが、事は何も変わることなく事態は一分一秒を争うのだ。
こうしている間にも、山原から黒い何かがスイを侵食しているし、カマディの身柄もどうなっているのかわからない。
「おい、娘たちよ。再会が嬉しいのはわかるが、そうもしていられない状況ではないのか? 」
優しい大人三人が、声をかけづらそうにしているにしているので、気を利かせたソーラが声をかけた。
「そ、そうなんです! 早く祝女さまを助けに行かないと……! 」
「山原から、トイフェルの黒い雲もやってきているのです、どうにか手を打たねば…… 」
マタラとチルーが関を切ったように口々に訴えた。
「え?! マタラさん、おばあちゃんがどうかしたの? 」
メイシアの表情が一瞬にして不安の色に変わった。
「メイシアさん、祝女さまが牢に入れられてしまうのです……もうどうしたらいいのか……、」
「どういう事? なんで? なんでおばあちゃんが捕まえられないといけないの? 何があったの? 」
メイシアが、マタラのもとに駆け寄った。
「それは……、」
マタラがじっと見つめるまっすぐな瞳に耐えられずに、目線をそらしてしまった。心中は複雑なのだ。
ユウナが立ち上がった。
「やることは決まってるばぁよ。」
全員の視線がユウナに集中する。
「まず、メイシア嬢はマタラがムチュン、ニジリーメーと魚汁をカムン事。アンサーニ、ウヌ後から皆でカマディをタシキーン行チュンデー! 」
「……え? 」
メイシアの頭の上にハテナが並んだ。ユウナが自分の名前を言ったことは聞き取れたが、それ以外は全く何を言っているのかわからなかった。
「そうですね。メイシアさん、とにかくこれを食べてくださいっ! 命薬です。 これで、あなたのマブイに、力をつけてもらって体から離れないようにしてもらいましょう! 」
ずいっとマタラが、メイシアの前に小さな一口サイズのおにぎり七個と魚とアーサの入った味噌汁が乗った膳を出してきた。
「……う、うん。じゃぁ、」
マタラの勢いに押され、理解はしていないが素直なメイシアは、とりあえず箸を握りおにぎりを頬張った。
「では、妾たちもそろそろ戻らねばな。」
ソーラはメイシアの様子が安定したことを確認したので、とりあえず役目は達成されたのだ。
「えー、ソーラ。ボク、もうちょっとここに居たいよー。だって、全然みんなとおしゃべりできていないだもん。」
「何を言っている。この柱が消えぬうちに帰らねばならんことは、サンも知っている事だぞ。」
と、光の柱を指さした。
誰も気にする余裕なんて無かったが、そう言われれば、柱は二人が来た時よりも明らかに細くなっていた。
柱の中から、アレハンドラの声が聞こえた。
「そうですよ、サンさま。もう時間切れです。これでもかなりの時間、保ったのですから、諦めてください。」
「えーーー、でもぉ…… 」
サンがどうしようもないことが分かりつつ、食い下がる。
サンは自由奔放な感情に従うのが役目なのだから仕方がない。とりあえず、押し殺すという事は出来ない。頭でわかっていても心に落ちていないというやつだ。
「サンちゃん、またあそぼ。そっちに行ったら、また秘密基地に連れてってね! 」(※)
見かねたのか、はたまた、ただのあいさつか。チャルカがサンの手を取りながらにっこりとした。
「……し、仕方ないなぁ、あそこは誰にも秘密だから、チャルカだけだぞ。また、絶対に遊びに来いよな! 」
「うんっ。」
「ソーラさま……時間があれば色々聞きたい事だらけなのですが……、」
「ストローは、そうじゃろうな。……妾も話してやりたい事は山ほどあるが……言えない事の方が多いのじゃ。すまんな。」
「……そうですか、では仕方ないですね。今回は助かりました。ありがとうございました。……お元気で。」
「ソーラさま、ウチからも……。本当にありがとうございました。」
「ウッジは、もうすぐ妾たちのところに来るからな。前祝みたいなものじゃ。」
「……え! そ、そんな約束は……! 」
いきなり青ざめてオロオロするウッジを見て、ソーラがニヤリとした。
「いひひひ、冗談じゃ。」
「もー! ソーラさま! 」
「ウッジよ、聞こえますか?」
光の柱から、アレハンドラがウッジを呼んだ。
ペンタクルでは色々あり、精神的に上司と部下……いや、先生と生徒?のような関係が染みついてしまったウッジは、アレハンドラの呼びかけに背筋が自然と伸びる。
「はい!」
「そちらの様子は、おぼろげにですが、把握しています。……もし、わたくしの力が必要な場合は呼びなさい。」
「え? 呼ぶと言ってもウチ、呼び方なんて…… 」
「そこは夜の国といえども、太陽が昇る。太陽のあるうちは、ソーラさまとサンさまのお力が少しは届くという事。死神を追い払った時の事を覚えていますか? 」
「……はい……なんとなく……、いや、あの時は必死だったので…… 」
「それを太陽に向かってするのです。いいですか、太陽が隠れてしまっては、わたくしたちはどうすることも出来ません。手遅れになる前に、行動を起こすのですよ。」
と言っている間にも、光の柱は、徐々に細くなっている。
「いけない。サンさま、ソーラさま、お急ぎください。」
その言葉を合図に、ソーラとサンが光の柱へと足を踏み入れた。
光の粒が滝を流れる一滴の様に、ソーラやサンの体に触れると跳ね返り、美しい光景を作り出していた。
「それではな。皆が、健やかでいる事を祈っておるぞ。」
「じゃーねー! また遊びに来てねー、絶対だよ! 」
「ソーラさま、サン、ありがとうございました! 」
一際、メイシアが大きな声で、礼を言った。
うんうんと、ソーラが頷いたが、何かを思い出したように口を開いた。
「そうじゃ! そちらには何故だか、加護がついておるな、サブリ…… 」
と話の途中だったが間に合わず、昼の国からの来訪者は、消えてしまった。
「サブリ……? 」
「寒いって言ったんじゃない? 」
「なんで、急に寒いなんて言うんだよ…… 」
と、ストローとウッジが何でかそこそこと話す。
そこへ、ユウナが気合の入った声で、全員に告げる。
「さぁ、急いで御嶽へ向かうさぁ! 何事もカマディがいないと始まらないばぁよ! 」
ムチュン / 持つ
ニジリーメー / おにぎり
カムン / 食べる
アンサーニ / そして
ウヌ / その
タシキーン / 助けに
イチュンデー / 行くよ
※スピンオフ短編 「セノーテの約束」を参照




