113話 楽園 19/33
「ソーラさま、メイシアは達成の鍵の乙女です。達成の鍵に探させればよろしいのではないでしょうか? 」
光の柱から、姿の見えないアレハンドラが助言をした。
「おぉ、それは名案だ、アレハンドラ。」
ソーラがポンと手を打った。
「サン。こちらへ。」
ソーラに呼ばれて、サンがソーラに並んだ。
「ちょっと狭いが、仕方あるまい。」
「あぁ…… 許し給り。ここに神が顕現されると分かっておれば…… 」
一対で一柱である神の背後は、きれいに掃除がされているとはいえ、手洗い。なんなら、そこはとても狭いので、サンは手洗い場に片足を突っ込んでいるような状況だ。
その状況を目の当たりにして、心苦しいユウナから、謝罪の言葉が漏れた。
「よい。気にするな。便所の神を呼ぶのが、十六夜では習わしなのじゃろ? それくらいは心得ておる。まぁ、今回は一つ位の高い家守りが受けたようじゃがな。……これが上手くいったら、家守りの神に礼をするのじゃぞ。」
ユウナとマタラが、三つ指をついて深々と頭を下げた。
「では、狭いが始めるか。」
「うん。」
二人は、自分の杖を出現させた。
杖の先端には、それぞれ似て非なる飾りがついている。それを二つ合わせることで太陽を模した形になるのだ。
杖をメイシアの胸元で重ね、狭いのでとてもせせこましいが、杖を逆V字に構えた。
すると、メイシアと太陽の飾りの間に、赤い光の球体が姿を現した。
ウッジ達がいる側からだと、光の滝が邪魔をして、全体を見ることができないのだが、その場にいた全員が、少しでも見える位置取りをして、その赤い強い光に見入った。光の柱がくすむほどの明るい光だった。
ソーラとサンは合図を取り合う事もなく、光が最高潮に達したその時、太陽の部分を重ねたまま杖を、逆V字からV字へと持ち上げた。赤い光の玉は、その杖に引っ張られ放り出されるように、天井をすり抜け、外に飛び出していった。
「す、すごい…… 」
その一部始終を特等席で見守っていた、ウッジから漏れ出た。
ウッジだけではなく、その場にいた者たちは、目の前の奇跡のような神の御業に釘づけだった。
そして、それはすぐに結果が分かった。
赤い球体が戻って来たのだ。
戻ってきた球体は、まるで二人の使い魔の様に、神の前で止まり浮遊した。
「……なんて事……、」
「ソーラ……、どうしよう…… 」
赤い球体に何かを伝えられたソーラとサンに、あからさまな困惑が見えた。
「ソーラさま、どうしたんですか?! 」
ストローが耐え兼ねて、メイシアの傍まで飛び出してきた。
ウッジの周りが、より窮屈になる。
「……寄りにもよって……。メイシアは見つかった。」
「メイシアどこにいたんですか? 」
「メイシアは…… まだ足を踏み入れてはいけない場所に、呼び出されておる…… 」
ソーラには珍しく、奥歯に衣を着せるような口ぶりだ。
「だ、誰に……? それは何処なんですか? ソーラさまや、サンさまが連れ出せる場所なんですか? 」
「とにかく、やってみるしか無かろう……。」
ソーラがサンを見た。
「……そうだね。ボクたちを救ってくれた人たちだからね。」
これまた、サンには珍しく強く決意を固めたような力強さがあった。
二人は手を繋いだ。
「これより、メイシアのもとに行く。しばし待て。もし、メイシアの魂が戻って来た時は、」
「ワカヤビタン! ワーがこのサンで、メイシア嬢の体にマブイグミしてみせます……! 」
と、ユウナがススキを束ねた【サン】を握りしめた。
「わぁ、おばちゃん、それねサンちゃんっていうんだね、この子もサンちゃんだよ! 」
空気を読まないチャルカが、ユウナに言った。
「もぅ、チャルカ、ちょっとこっち来て黙って座ってて。」
ウッジが慌てて、立ちっぱなしだったチャルカの手を引っ張り、自分の膝の上に座らせた。
「ちぇー。」と言いながら、チャルカが、こっそり、ユウナが持っている【サン】をフサフサ触った。。
「では、十六夜のまじない師よ。頼んだぞ。」
その言葉を残し、太陽の神は目を瞑り、赤い球体に吸い込まれた。
ワカヤビタン / わかりました