112話 楽園 18/33
メイシアの魂がこの世に無いとは一体どういう事なのだろうか。
この世とは……?
そんな疑問が頭を駆け巡って、言葉が出てこない。
「確かに神の力があれば、このイナグングヮのマブイを連れ戻すことも可能かもしれぬ。」
「……え?本当ですか! で、では、セジウナイさま、お願いします! どうかメイシアの魂を探してきたください……! 」
ウッジは縋るような思いだった。しかし、懇願は受け入れられない。
「……すまない。力あるイナグよ。ワーは神として祭られておるので、十六夜では力はあるのじゃが、もともとは精霊。そこまでの力はないのだ。」
「……じゃぁ、もうメイシアは………… 」
「……肩を落とすな、力あるイナグ。今、申したようにワーは、この夜の国だと声が届く。しかし、ペンタクルは昼の国。精霊であるワーの声が届くのかどうか、やってみないとわからない。」
肩を落としたまま、顔もあげることなく、うなだれているウッジにセジウナイは続けた。
「……やってみよう。十六夜の者たちは、イチャリバチョーデーと言うのだったな。ワーとウンジュは同じ世界の者ではないが、これも何かの縁じゃ。」
「セジウナイさま…… 」
「期待はしないで待っておれよ。」
そういうと、美しい薄紫の余韻を残してセジウナイが消えた。
「ユウナさん、どうしよう……! 」
「しっ、ただ黙って待つさぁ。」
「……はい。……でも、どれくらい待てば……、」
今まで、セジウナイに集中していたので、感じていなかったが、セジウナイがいなくなると後ろからの視線を感じる。
清明であるマタラは今の話が聞こえていたのかもしれないが、ストロー、チャルカ、チルーは聞こえていないだろう。
どうやって今の事を、説明したらいいのか。
「ヤンヤー……、トイフェルの事もあるからよ、長時間待てないねぇ…… 」
「そういえば、ウチ、トイフェルって名前になんか聞き覚えがあって……」
ウッジはずっと、トイフェルの話を聞いた時から、心に引っかかるものがあった。
名前を聞くたびに、頭に白いイメージが浮かぶのだ。
── サァァァァ
いきなり、目の前に金色に光輝く柱が現れた。
「わぁぁぁぁ! 」
「……これは! 」
ウッジとユウナが驚いて、見上げた。
「サンちゃん! 」
この柱は、チャルカやストローにも見えているようで、いち早くチャルカが叫んだ。
チャルカにはこの柱に見覚えがあったのだ。
そう。ペンタクルからオズへ渡るとき、サンとソーラが用意してくれた道だった。
その光の柱とサンが紐づけされているチャルカが思うが早いか、ウッジを押しのけて、光の柱まで駆け寄ってきた。
「ちょっと、チャルカ! これは、遊びじゃないんだからね! 」
ウッジの苦言を聞こえないふりをしているのか、それとも目の前の事に必死なのか、全く意に介さず光の柱に手を伸ばした。
あの時と同じように、光の柱は滝の様に触れると、光の水しぶきが跳ねる。
とても美しく見惚れて仕舞うような奇跡なのだが、チャルカには関係ない。
ズボッと滝の中に手を突っ込むと、何かを掴んで引っ張り出した。
チャルカに掴まれて、にょきっと、子供の腕が滝から現れた。
「ちょっと、チャルカ、早いって! 一応神さまなんだが、ちゃんと登場させてよっ 」
と、男の子が顔を出した。
「サンちゃん! 」
滝から顔を出したサンが、周りの視線を感じて「あはは…… 」と愛想笑いをした。
「サンさま……、また威厳が無くなっていますよ。」
滝の中から声がしたのは、アレハンドラの声だった。
姿は見えないが、まだ声は続く。
「あの。もうしわけありませんが、少し光の前に場所を開けていただけますか? 」
慌てて、ビンシーを後ろに下げ、ユウナとウッジも少し下がった。ユウナたちの後ろでスタンバイしていたマタラも、廊下ではなくストローたちがいた隣の部屋に退避して、廊下側を覗き込んだ。
手洗い、メイシア、柱、ビンシー……の順番で手洗い前は大渋滞だ。
何とか少しの場所が確保されると、滝の中から腕をチャルカに掴まれたままサンが、引っ張り出され、続いてソーラが出てきた。
二人は神モードなので、髪が金色に輝き、こんな状況のサンもそれなりに威厳がある…… ことにする。
「おお。ここが夜の国、十六夜か。……チャルカ、ウッジ、ストロー、久しいな。変わりないか? 」
「ちょっと、ソーラばっかり、ずるいよ。ボクだってそれ言いたいっ! 」
サンに何を言われても、ソーラの表情はピクリとも変わらない。
「ソーラさまも、サンさまもお久しぶりです。そっちこそ、元気にしてましたか? 」
急に姿を現した神らしき二人に、気軽に話しかけるストローを目の当たりにし、マタラが驚きを隠せず質問をする。
「ストローさん、あのかわいい童が神さまなのですか? 」
「確かに、童ですね…… 」
チルーも興味津々で見ていた。
「……う、うん。まぁ。ちゃんと神さまだよ。なんていうか、サンさまはただの子供みたいだけど、一対で一柱の太陽の神さま。」
「……はぁ。世界は広いんですね、」
「オラも、そう思う。」
そう言いながら、この二人と柱から声が聞こえたアレハンドラには色々言いたいことや聞きたいこと、確かめたい事が山積みだったが、今はそんな時間は無いと、ぐっと我慢をした。
「チャルカ、わかったから。ボクたち、あんまり時間無いから、遊ぶのはまた今度っ」
「ぶーーーー、つまんないのー。」
「妾たちを呼んだのは、ウッジか? 知っておるだろうが、虹が瞬く間しかこの柱は使えない。時間が無いのだ。端的に用件を説明しろ。」
「はい。あのーー、何から話せばいいか…… 」
「……そういえばメイシアはどこに行ったの? 」
のん気なサンが割って入ってきた。サンにしてみれば、メイシアには叱られたり、その目が気になる存在なのだ。
のん気なサンの無意識のアシストで、ウッジが一気にたたみかける。
「そう! サンさま、そうなんです! メイシアの魂がどこかに行ってしまって……。その魂を探し出して、連れて来てほしいのです! 」
チャルカがサンを、こっち、と柱の後ろを指さして、目を覚まさないメイシアを見せた。
「わ! 大変だよ、ソーラ! どうしよう! メイシアがこんなところで寝ているよ! ねぇ、ソーラ! 」
サンが気が動転して大声をあげる。
「ソーラちゃん、メイシアを助けてー! 」
チャルカも大声。
騒がしい事この上ない。
「サン、チャルカ、わかった。だから落ち着け。……妾たちで、どうにかなるものかわからんが…… 」
ソーラには珍しく、困り顔でメイシアの顔を覗き込んだ。
「セジウナイさまが、メイシアの魂はこの世には無いっておっしゃっていたのです。神さまだったら、呼び戻せるかもしれないって…… 」
「童の神よ、せめて、このネーネーの魂が彷徨っている場所だけでもわからないさぁ? 」
次々に責任重大な無理難題を押し付けられ、ソーラが思案し、目を瞑った。
「うーーーん…… 」
ヤンヤー / そうだね
ウンナゲー / そんなに長い時間




