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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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111話 楽園 17/33

ユウナのビシビシと伝わる張りつめた空気に、それぞれがコクリと頷いた。


「本当は、この御願ウガンは必ず夕方にするヤシガ。……気合、入れるさぁ……!」

ユウナが、頭にカマディのような白い幅広のハチマキをキュッと絞めた。

それを合図に集中が深まる。大きく息を吸い、静かに吐ききると、手を合わせ拝みだした。


場所自体が廊下なので、広さ的に余裕がない。

なので、廊下から少しそれた部屋で、見守る事になったストローたちには、ユウナが何か呪文のような事を呟いているのだが、島の言葉なのと、声が小さいのとで、聞き取ることはできなかった。


黙って、畳に腰を下ろし、拳を握りしめて見守った。

ユウナは夕方にする儀式だと言った。

ユウナの事は昨晩のウッジ事もあり、その力は信じてはいるが、まるで別人のようにピリピリとしたオーラを出して、拝んでいるのを見ると、大変難しい事をしているのだろうという結論に達し、成功するのか、不安を拭い去ることは出来なかった。



ウッジの目には青い光が映っていた。

ユウナの周りから、透明な青い光が霧のように立ち昇っていた。

それを、じっと見つめる。


と、ふいに風が吹き込んだ。


ほとんど壁が無い造りの屋敷なので、風が吹くのは当たり前。

だが、その風は様子が違った。何か外の風とは違う気配がする。

確かに、風が吹いたのは事実の様だった。風が吹いた瞬間、線香から立ち昇る煙が激しく揺らいだのだ。


その後の線香の煙が不思議な昇り方をウッジは、我を忘れて観察していた。

ある程度の高さまでスッと一筆書きの様に昇るのに、ある高さになると、掻き消されるように縦横無尽に散らばり消えてしまう。


「ウッジさま、」

「ウッジ! 」

「ウッジー! 」

「ウッジさんっ 」


呼ばれる声に我に返ると、全員が、ウッジを凝視していた。


「は、はい! 」

慌て、上ずった声で返事をする。


「ウッジ、何ぼーっとしているの? ユウナさんが呼んでいるよっ 」

ストローが小声で耳打ちした。


「へ? ウチ? ……な、なんで? 」

「知らないけど、とりあえず、早く! 」

ストローがウッジの背中を押した。


「わっ! もぅ、ばか力…… 」

若干立とうとしていたところを押されたものだから、前のめりになってしまい、こけそうになった。

しかし、ここでケンカもしていられないので、急いで、ユウナの横に移動して座った。



「……はい、呼ばれましたか? 」

恐る恐る、ユウナの顔を横から覗く。

「ネーネーなら、このお方……セジウナイが見えるさぁ。」

そういうと、人を紹介するように手のひらで前方の空中に指した。


ウッジは何が何だかわからない状態で、頭が空っぽになったが、空っぽだからこそ、何も考えずウッジの目はユウナの手を追ってその先を映した。

さっきまで、煙が急に乱れて不思議だと思っていた謎の答えがあった。


そこに女性が立っていたのだ。

薄紫の美しい着物を着た、涼やかな目をした女性だった。


「……ウンジュが、ウカミと話したいというイナグであるか。」

その女性が言葉を発すると、言葉の振動なのか、何か物質的な力が働いているのか、煙が散っているのだった。

しゃべっていない時は、散らないので、息ではないようだ。

女性は、涼やかな目線をウッジに向け、ウッジの言葉を待った。


「か……、神さま?! 」

驚いたウッジの声が裏返った。

「しっ、ネーネーは騒がしいねぇ。……ちゃんと見えて、お言葉も聞いたばぁ? 」


ウッジは、神さまらしい女性にビビり倒して、無言でコクコクと頷いた。

「ヤサ。……とりあえず、深呼吸して落ち着いて。しっかりするやっさぁ。ネーネーも神は初めてじゃないさぁ? 」

ユウナの言葉に、とりあえず、三回ほど深呼吸……のはずが深とまでは行かない浅い呼吸を、深呼吸のつもりでした。

そして、もう一度、薄紫の着物の女性を見上げた。


「……そんなに、ウトゥルサンヤー? 」

ウッジは何を言われているかわからないが、とりあえず首を横に振った。

「ワーは、この家に祭られているウカミ、セジウナイじゃ。清明シーミー御願ウガミを聞き、姿を現した。ウンジュのニゲーを言え。」


舞い上がって、口をアプアプしているウッジに、ユウナが「メイシアグワァを助けるやさぁ? 」と耳打ちをした。

すると、舞い上がっていた余分な血の気が引いて、一度大きな深呼吸ができた。

「……し、失礼いたしました。セジウナイさま、どうかペンタクルにおす太陽の神、ソーラとサンにお取次ぎをお願いできませんか? 」


「……。なるほど。神と面識があるというのは嘘ではないようじゃな。」

「はい! 嘘なんてついていません。二人には…… 違うな、神さまだから、二柱にはペンタクルの町で厄介ごと…… じゃなくて、お世話になりました! 」

「うふふ。ウンジュはなかなかの正直者のようじゃの。面白い。」

セジウナイの表情が柔らかくなった。


「では、お取次ぎを……! 」

ウッジ素直なので、その運気が上向いたかもしれない状況に声が少し明るくなる。


「……そうじゃの……、そのマブイが抜けたイナグングヮを救いたい気持ちもわかる。この十六夜にマブイがあるのなら、なんとかワーが探してやらぬこともない。」

「え! 本当ですか? 」

「しかしじゃ。ワーの見立てでは、そのイナグングヮのマブイはこの世にはいない。」


「え…… 」

セジウナイの躊躇の無い言葉を一瞬、聞き流しそうだった。

時が一瞬止まり、一秒も立たない次の瞬間、心臓が捻じれたかと思うほど脈打った。

あまりの衝撃に、ウッジは心臓が止まりそうだった。


ヤシガ / しかし、だけども

ウンジュ / あなた

ウトゥルサン / 怖い

イナグングヮ / 女の子

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