110話 楽園 16/33
「待って待って! マブイグミって何なんですか? オラたちにも教えてくださいっ 」
ストローが慌てて、会話に割って入った。
「あぁ、ごめんなさい。異国には無い儀式ですものね。マブイグミというのは、体から落ちたり離れたりしてしまった魂を元に戻す儀式なんです。転んだり、びっくりしたり、時にはくしゃみをした時にも、魂は落ちてしまう事があるので、マブイグミをするのですが、それは基本的には親族とか、誰でも出来るんですけど…… 」
「ヤサ。このネーネーは、魂が抜けて時間が経っているし、魂がかなり遠くまで行ってしまっているばぁよ。ワーたち清明がいて本当に良かったさぁ。」
ユウナが、メイシアの頭を撫でた。
「じゃ、そのマブイグミをしたらメイシアの魂は戻るんですね? 」
ウッジが、目を輝かせた。
しかし、ユウナの返事はの色は少し暗かった。
「出来るだけの事はやってみるばぁよ。ヤシガ、ネーネーの意識もないし、どこで落としたかも、今どこにいるのかもわからないからよ、そんじょそこらのやり方ではダメやっさぁ。」
「そんなぁ……。でも、オラも手伝います! 」
「ウチも! 」
「チャーもお手伝い、する! 」
「ちょっと、準備に時間がかかるかもしれないヤシガ、仕方ないねぇ…… 」
「え、時間がかかるって…… 急がないと、トイフェルとかいう悪魔も、こっちへやってきているんでしょ? 」
「そー。お空真っ黒だった! 」
「そっちも、どうにかしたいし、カマディさんを助けにもいかないと…… 」
ストローが不安のトドメをさす。問題はメイシアの事だけではないのだ。
厄介な問題が山積で、どうしたら全部を解決できるのか、いや、果たして、解決何て出来るのか、考えただけで気が問えくなりそうだ。
しかし、すぐに答えは出た。
ユウナが、先導する。
「……ヤサヤ……。ヤシガ、カマディが、このネーネーの命は特別アンスクトゥ……。とりあえず、時間ぬ勿体ないからよ、今すぐ、マブイグミ ウガン、始めるぱぁよ! 」
それに賛同したチルーが声をあげた。
「そうですよ。とにかく、みんなで手分けをしてメイシアさまを、目覚めさせましょう! 」
まず、ユウナが指示したのは、手洗いの掃除だった。
担当したのは、チルーとストロー。元々きれいなので、そんなに時間はかからなかった。
マブイを落としたところで、石を拾ってこないといけなかったが、とは言っても、心当たりは御嶽なのだが、今、御嶽へ近寄ることは、清明たちが集団で押しかけている事もあり、憚られたので家の周りの石を七つ拾った。
これは、チャルカが担当した。
次にユウナが担当して、この家のビンシーを用意した。
ビンシーとは、御願をする時に必要なものを一揃えを詰め込んだ入れ物の事。
ユウナがビンシーに、酒・水・塩・洗米・花米を揃えた。
サンというススキを束ねたものと、線香は、納屋からウッジか持ってきた。
寝間着代わりの、着物も、メイシアが寝ていた部屋のタンスから一枚貸してもらった。
マタラは、一口サイズのおにぎり七個と、魚のお味噌汁を作った。
最後に、用意された石とサンは、ユウナが塩で清めた。
集まったウガンの道具を前にユウナが、誰ともなしに聞いた。
「ネーネーの名前はなんだったさぁ? あと、生年月日を教えてほしいさぁ。」
ストローが答える。
「メイシア・フーリーです。生年月日は……ごめんなさい、知らないんです。ウッジ知ってる? 」
ウッジが首を振った。
「うーん……困ったさぁ……、生年月日が分からないと神さまにこのネーネーのマブイを特定してもらえないかもしれないばぁよ……、」
行き詰ったかと一瞬全員が思ったが、一人、ウッジが閃いたような顔をした。
「あ、ちょっといいですか? あのー……ウチら、神さまに知り合いがいるんですけど、その神さまにお願いしたら、なんとかなりませんか? 」
「ハンマヨー! ……ンチャ、カマディが目を掛けているだけのネーネーやっさぁ。じゃぁ、いつもは便所の神さまにお願いをするヤシガ、今回は、便所の神さまに、その知り合いの神さまに取り次いでもらう事にするさぁ。」
「そんなことできるんですか? 」
「んーー、ワーもやったことが無いから、やってみないとわからんねぇ。まぁ、ナンクルナイサァ、あはははは。」
あまりの軽いノリに一抹の不安が過ったが、ここはユウナに任せるしかなかった。
「では、ユウナさんに全てお任せしましょう。」
「え? マタラさんは? 」
「私も一応清明ですが、ほとんどの時間をこの島の御嶽で過ごしてきましたので、マブイグミ ウガンのやり方は知っていても、やったことが無いんですよ……お恥ずかしい話ですが。なのでここは、ベテランのユウナさんにお任せをしましょう。」
「ヤサ。大丈夫。ワーに任せるばぁよ。じゃ、まず、ネーネーを便所の前に運んで……。じゃ、高サンネーネーが、メイシア嬢を運んで、他の皆は東西南北に、線香を立ててくるばぁよ。」
ユウナが指示を出した。
ストローはメイシアを抱きかかえ、ユウナと一緒に手洗いの前まで移動。
ウッジ、チャルカ、チルーで、線香に火を点けて敷地内に線香を置きに回った。
ユウナは、台所へとお味噌汁をよそいに。
手洗いの前は、寝かされたメイシアとビンシーと寝間着。こちらの線香にも火を入れ立てた。
そして、サンを持ったユウナ。
マタラは、いつメイシアが目覚めてもいいように、黒塗りのお膳の上におにぎりとお味噌汁を用意していた。
全員が戻って来たことをユウナが確認すると、ビンシーを前に座った。
「では、始めるばぁよ。」
マブイグミ / 体から離れた魂を呼び戻す儀式
ヤシガ / しかし、だけども
アンスクトゥ / だから
御願 / 神に対してお願いをする儀礼
ハンマヨー / 何て事だ
ンチャ / なるほど
ナンクルナイサ / なんとかなるよ