106話 楽園 12/33
「いたたたた…… 」
船から放りだされた面々が、砂浜でのたうち回っていた。
「きゃりっ」
さっさと小さな姿に戻ったメリーが、かわいこぶって、チャルカに頬ずり。
言われたことが出来ましたよ、褒めて♪と言わんばかりだ。
「メリーちゃん、くすぐったいっ 」
のん気なチャルカは、くすぐったくて転げまわって笑った。
「メリーーーー! どうして加減ができないの! 」
ストローが吠えた。メリーの、失敗を手柄で上書きするかのごとく、チャルカに媚びを売っている姿が視界に入りムカついたのだ。
「……ウチ、死ぬかと思った、」
ウッジは、転がったまま両肩を抱きしめて震えていた。
「皆さん、こんなことをしている暇はありませんよ。早く、カマディさまのところ行かないと……! 」
「あぁ、そうだった…… 」
チルーの掛け声に、ストローが立ち上がって、砂を払った。
空を見ると、本当にゆっくりではあるが、暗い空がこちらを侵食しているのは明らかだ。
ストローは内心、自分たちが抱えきれない事態に陥っているのかもしれないと、焦りがあった。
元々は、メイシアの事を聞きに人を訪ねてやって来ただけだというのに。
ウッジはおずおずと立ち上がり、傍にいたユウナに手を差し伸べた。
「大丈夫ですか? 」
「あぁ、ありがとねぇ。この歳でこんな怖い乗り物に乗るとはねぇ。ははは……怖かったさぁ、」
みんな立ち上がったものの、一人だけまだ座ったままうなだれているものがいた。
サバニの持ち主の朝清だ。
みんな、かける言葉も見つからない……
ウッジが、ストローを肘でこついた。
お前がどうにかフォローしろという事だ。
「また、オラばっかりにこーゆーことを…… 」
「だって、こういう事担当でしょ? 」
「いつから、オラが担当になったんだよー! 」
「ワンの船が…… 」
ウッジが次は顎で、行け、とするので、ストローが渋々朝清に話しかける。
「……朝清さん、だ、大丈夫……じゃ無いですよね、」
「……くぅ…………、大丈夫やっさぁ…… 海人、朝清! こんな事ではへこたれない! ワンは、どうにか海に船を戻す算段をするからよ、皆、早く行ってくれ、」
「でも…… 」
「今は一大事やっさぁ、それはワンにだってわかる! 」
朝清の口ぶりから、涙をこらえてやせ我慢をしているのがありありと伝わってきた。
このままこの場を立ち去るのが、あまりにも心苦しい。
しかし、今一刻を争うのも事実だ。
「わかりました! じゃ、メリーを置いていきます。ちょっと頭は弱いですが、力はあります。空だって飛びます。メリーを使って、どうにか船を海に戻してください。」
ストローがそういうと、メリーが「嫌だー! 」と言わんばかりに抗議の声を上げた。
「メリー、わかってんの? これ、あんたのせいでもあるんだからね。……そうだ、もしこれがうまく行ったら、さっきウッジが言っていたノニもゴーヤも無しにしてあげる。」
「ちょっと、ストロー、何勝手なことを言っているの! ウチは、そんな事…… はぁーーーーー、しょうがない。分かった。メリー、でも、もしできていなかったら、これから当分、そのノニとゴーヤしか食べさせないからな! 」
「きゅいぃぃぃぃぃぃ! 」
まるで、ご無体なーーーー! と言わんばかりのメリーの残響を残して、一行はユウナの案内で、清明たちの家へ急いだ。
家とは言われてはいたが、実際にその場所へ到着してみると、要塞のおもむきだった。
白い石垣がうず高く積み上げられ、角の整ったその壁が城壁のように感じられたからだ。
まるでおのぼりさんの様に、ストロー・ウッジ・チャルカの三人はキョロキョロしながら城壁内部へと入って行った。
怖いところかと、びくびくしていたものの、城壁の中に入ると一転。
地面も白い石灰岩で作られているせいでもあるのか、明るく開放的な空間だった。
「ハイタイ! カマディに呼ばれてきたばぁよ! ……誰か、おらんのぉ? 」
ユウナが、外から居間へ直行し、草履を脱いで居間へ上がった。
いつも誰かは居間にいるというのに、今は誰もない。大抵は、カマディが火の番をしているのが常だった。
「あれ? おかしいさぁ…… 」
「カマディさん、いらっしゃらないんですか? 」
チルーも居間に上がり、周りを見渡した。
「そうだねぇ、おかしいねぇ。いつもは誰かいるのに…… 」
三人も上がって、またおのぼりさんの様にキョロキョロと周りを見回した。
すると奥の部屋から、声がした。
「どなたですか……? あぁ、お久しぶりです、ユウナさん! 」
声の方を向くと、それはマタラだった。
「マタラ! ヌーガ アンシ ミードゥサヌ! チャー ガンジュー ヤミセーミ? ……あい? ウヒ疲れてるさぁ? 」
「……はい、ちょっと色々ありまして……。まぁとにかく、イミソーレー。あぁ、お上がりくださいね。……すみません、ユウナさんにつられてしまって…… 」
ユウナの後ろにいたストローたちに、マタラが会釈をした。
ハイタイ / こんにちは
ヌーガ アンシ ミードゥサヌ / 久しぶりだね
チャー ガンジュー ヤミセーミ / お元気ですか
ウヒ / 少し
イミソーレー / お入りください




