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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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104話 楽園 10/33

まるで結界でも張られたように、身体が御嶽うたきの中に入るのを拒否していた。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

いくら体が拒否しようとも、すぐそこに大切なものがあるのに、今ここから逃げ出すわけにはいかない。

泣き叫びながら、御嶽へ飛び込んだ。




── パァァァァァァァーーン!



ナギィの体が、御嶽の中に入った瞬間、空が鳴った。

何かが弾けたような、何かが割れたような。

乾いた音だった。



そして同時に、今まで身体を押し返しているように感じていた何かが、一瞬にしてなくなった。

反動を受けなくなったナギィの体は支えを失い、御嶽の地面にたたきつけられた。


「……つぅ、痛い、」

地面に擦れ、膝や顎を擦りむいた。

幸い、気を失う事もなく、両手をついて起き上がり、無我夢中でカマディのところへ駆け寄る。


「オバア! ……オバア! どうしたの、死なないで!目を覚まして! 」


カマディは、うつぶせの状態で倒れていた。それをナギィが上半身を抱き上げ、顔を上に向けた。

カマディの身体をゆすった。


「……ん……、んん、」

小さくだが、カマディが苦しそうに息をするのを確認できた。


(生きてる……! )

一安心したナギィは、カマディをゆっくりと降ろし、地面に寝かせた。

そして次に、御嶽へやってきても、目の前でカマディをゆり動かしても放心状態の森榮に声をかけた。


森榮しんえい! 一体何があったの?! 森榮、しっかりしなさい! 」

今度は森榮の肩をゆすった。

しかし、森榮の様子に変化はない。

地面に座り、青い顔をして、焦点もどこにあっているのかわからない状態で、放心している。


「森榮!」


ナギィが、森榮の両頬を手で挟むように叩いた。

すると森榮は、いきなり咳き込みだした。

焦ったナギィは、森榮の背中をさすった。


「森榮どうしたの……? 大丈夫? 」


まるで溺れて、陸に上がったかのようだった。

咳き込む森榮の顔を心配そうにのぞき込んだ。すると、森榮の吐く息が青い事に気が付いた。

修行をしていなかったら、見えていなかったもしれないが、今のナギィは力の色が見える。ましてや、ここは御嶽。力が可視化しやすい場所なのだ。


「森榮、あんた、力を吸い込んで……? 苦しいの? 早く出して……! 」


ナギィが背中をさすり続けた。

咳をして粗方吸い込んだ力は外に出たのだろう。森榮が、苦しそうにナギィの名を呼ぶと、いきなり、ナギィに抱き付いて泣き出した。

「ネーネー! ネーネー……! 」


ナギィも森榮を抱きしめた。


「森榮、泣いてる場合じゃないばぁよ! オバアはどうしたの? なんで、こんなことになったの?! 」

「わぁぁぁぁぁぁ! 」

「ほら、泣かないで! 泣いてちゃ何もわからないさぁ! 」

抱きしめ、森榮の肩をさすりながら、出来るだけ優しい声で。


「……ワンもわからない。……オバアが心配で、御嶽に入ったらオバアが慌てだして……、そうして、すぐにオバアが苦しんで倒れてしまったからよ、ワンが駆け寄ったけど、そこから覚えてない…… 」


「……わかった。」

そういうとナギィは、自分から森榮を引きはがして座らせた。


実際、そんな説明では全く分からない。

でも、森榮が言っている事も嘘ではなく、森榮自身も何もわかないのだろう。

とにかく、ナギィは自分がするべきことを考える。

まず、カマディを信じる事。そして、自分を信じる事……


こんな時、カマディならどうしただろう、と考える。


昨晩の、カマディがメイシアにしたアレを思い出した。

(ワーにもアレ、出来るかなぁ……、違う。やるしかないんだ。)

マタラは、自分は母親に似ていると言った。そして、本当に似ているんだと、証明して見せてくれた。


ナギィは、手のひらをカマディにかざすと、集中した。

マタラの言葉を思い出す。カガンは、自分の力で奇跡を起こせると言っていた。

目を瞑り、神経を研ぎ澄ます。

すると、目を瞑っているその瞼に、横になっているカマディが浮かび上がった。

カマディの周りに、青黒いもやのようなものがまとわりついていた。

禍々しいその靄が、カマディを苦しめている事は明らかだ。


(靄、どっか行け! オバアに悪さをするな……! )


心の中で叫んだ。

すると、カマディにかざしていた手のひらから、白い光が放たれその青黒い靄を、カマディの体から押しのけた。

空中に追いやられた黒い靄は、寄生する媒体を失って、風に吹き消させるようになくなった。


するとカマディが、咳き込み目を覚ました。


「「オバア!」」


ナギィも森榮もカマディに抱き付いた。


「よかった、オバア! 」

「ごめん、ごめんなさい、オバア! 」


「……ナギィ、森榮。ありがとね。」

カマディは、まだ少し青い顔をしていたが、どうにか口が利けるようになったのか、二人に礼を言うと体を起こした。


「オバア、今、清明たちが、オバアがキジムナーと会っていたって! それで、オバアを牢に監禁するって……! 」

「オバアやだよ! ワンと逃げよ! 」


オバアは、二人顔をまじまじと見ると、目線を外し、あたりを見渡した。


「……大変なことになってしまった、」


「そうやっさぁ! だから、とにかく森榮が言うように、逃げよう! 」

「……ナギィ、違うよ。ワシが監禁されることくらいは、大したことではない。もっと、大変なことになってしまった。」


「? 」


「ナギィ、今、頭痛はしているかい? 眩しさは? 」


そう言われてやっと気が付いた。自分の体がさっきまで……いや、ここまで走ってきたという疲労はあるが、それとは別で御嶽へ入る時のあの眩しさも頭痛も無かった。

「あれ? 眩しくないし、頭も痛くない……。いつからだろう? 」


「やはり…… 」

「オバア、どういう事? 」

「……御嶽の力が無くなってしまった……」


「え? どういう事? 」


ナギィがカマディの話についていけなくて、混乱しだしたその時、


「オバア、あれ見て! 」

森榮が海側の空を指さした。


空の左側……北方面の空が、まだ朝だというのに、不気味に暗くなってきていた。


「わっ!あれ、何?!」


「……トイフェルだよ………… 」

カマディが、確かな声でそう言った。


北の空は紫に染まり、見る見るうちにその濃さを増していた。

その侵食は不気味なほどゆっくりと、じわりじわりと、こちらへその勢力を伸ばしている。

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