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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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102話 楽園 8/33

確かに今思えば、カマディからキジムナーの話を聞いたのは昔のお伽噺のような事ばかりだった。

それも小さなころ、悪い事をすると「キジムナーが来るよ」と叱られたというもの。

幼いナギィはそれを聞くと半べそになり、片づけをしたり、夜更かしをしないで寝たものだった。


しかし、村の大人などから聞くキジムナーは恐ろしく、誰一人子供の躾なんかで名前を出すものは居なかった。

それもそのはず、キジムナーはトイフェルの手下なのだから。

清明が守っているとはいえ、脅威は陸続きのすぐ隣にあるのだ。

語り継がれる、御殿での事件などは、世代が違ったとしてもきちんと聞いていた。


しかも、ナギィはそのトイフェルに母親を奪われていたのだ。

そんな母親殺しの悪魔の手足となっているキジムナーと、なぜカマディが……と思うと、それ以上考える事を拒否してしまう。

何か受け入れたくない結果が待っていそうで……。



「……ナギィさん、大丈夫ですか? 」


マタラの問いに、気丈に「大丈夫」と言ってしまう。


マタラは、どこか戸惑いながらも話を続けた。


「私に見つかって、祝女ノロさまは……今思い返せば否定をされたのですが……その時の私に、それを受け入れる余裕はなく、振り切って戻ってきてしまったのです。

それで、私の様子がおかしかったので、その場にいた清明たちに聞かれるまま、話してしまい……、なので、今祝女さまが、このような状況に陥っているのは私のせいなんです! ごめんなさい、」


マタラは、また頭を下げた。

最後は声が震えていた。


「いや、それは、仕方ないよ……。とりあえず、顔をあげてください、マタラさん。」


マタラにここまで憔悴しているのを目の当たりにして、今のナギィの置かれている状況ではそう言うしかなかった。


「こんなことになるなんて思っていなくて……。私が話し終えると、清明たちは祝女さまが信じられないから、御嶽へは行かないと言い出して、」


「……。」

「そこで、私もやっと少し冷静になったのです。私は大変なことをしでかしてしまったと……。私の中で、この話は止めて置けばよかったのに、誰かに話すにしても、祝女さまの話をきちんと聞いてからにするべきだったのに、」


というと、マタラは我慢していたのが崩壊したのか、泣き崩れてしまった。


ナギィは、何も答えられなかった。



疑問?


いや、真実がどこにあるかよりも、母親を殺した悪魔とカマディがつながっているかもしれないという事実の方が、濃く心に浮かびあがり、心を締め付けた。

確かに、今までカマディは殆ど母親の話をしてくれなかった。

今まで、カマディも娘を亡くしたのだから悲しいのかもしれない、そうでなかったとしても、孫に不要な負の感情を抱かせないようにという配慮なのだろうと考えていた。

しかし見方を変えれば、避けていたと言われれば、そうなのかもしれないと思う。


昨日だってそうだ。

カガンの話に大きく舵を切りそうになった時、意識的に話を有耶無耶で終わらせた。

それは、ナギィが子供のころからそうだったのだ。

もしかしたら、母親が死んだことに、何かカマディが絡んでいて、それに負い目を感じて……? 今となっては、そんな疑問さえ抱いてしまう。


しかし、今まで母親を亡くした姉弟を、父親から離れて暮らしているのもあるが、慈しんで育ててくれたのも真実だった。そして、愛されているという確かな実感もあった。


「オバア」を信じたい気持ちと、信じてこれ以上傷つきたくない気持ちで、ナギィの心は今にも潰れてしまいそうだった。



「……泣かないで、マタラさん、ワーも辛くなるから、」


「……すみません、」

マタラは、涙を拭いた。

その時、部屋の外に一人、清明シーミーがやって来て、マタラを呼んだ。

マタラが立ち上がり、その清明が小声で話すことを耳元で聞いていた。


ナギィは自然と目線を外した。

気を使ったからではなく、辛かった。

ナギィは、メイシアの顔を見つめた。

相変わらず、熱がこもっているのか、それとも夢見が悪いのか……その両方なのか、魘されていた。

何をしてあげることも出来ず、無力な自分を感じずにはいられない。


「な、何てこと! そんなの反対です! やめてください! 」

突然、マタラが悲痛な声を上げた。


「どうしたの、マタラさん! 」

ナギィがびっくりして、マタラを見た。


マタラが、慌ててナギィに駆け寄り、手を取った。

マタラの手が氷のように冷たく、震えていた。


「ナギィさん……、どうしよう、祝女さまを今から拘束して牢に入れるって……、今、清明たちで話し合ったって…… 」

「そ、そんな……、」


その時、部屋の外に森榮しんえいの姿があった。

「オバア……? ネーネー、オバアがどうかしたさぁ……? 」

起きて来て、今の話をタイミング悪く聞いてしまったようだった。

「……森榮……、何でもないよばぁよ、早く顔を洗っといで。」

ナギィはいつものように答えたつもりが、涙が流れるのは止められなかった。


「ネーネーの嘘つき! オバアはどこやっさぁ?! 御嶽うたき?御嶽やっさぁ? 」

そういうと森榮は、衝動的に走り出した。


カマディを探して御嶽へ向かったことは明らかだ。

御嶽は男子禁制。

もし入ってしまったなら、どんなことが起こるか分からない。


「森榮!」

「ナギィさん、どうしましょう、」

色んな心労が重なって憔悴しきっているマタラがそこにいた。

そんなマタラを見て、ナギィは、自分が何とかしなくてはいけないと自身の頬を両手で叩いた。


「マタラさん、メイシアをお願い! ワー、森榮を追いかけて連れ戻してくる! オバアの事もワーに任せて!! 」

そういうと、マタラの返事も聞かずに、部屋を飛び出していった。

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