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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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99話 楽園 5/33

船はサバニ。

帆に風をいっぱい浴びて、なかなかのスピードだった。

朝清ちょうしんが、上手に帆に繋がる手綱を繰って風を捕えていた。



「わぁ! 船ってすごく早いんですね! 」

快調に進む船。

心地いい風を受けて、ストローが声を上げた。

「ヤサヤー! ワンは子供ワラビん頃から乗っているからフニなら任せろ! 」


チャルカもメリーもこの滅多にないアトラクションを楽しんでいるようだった。……が、その横で、青い顔をしているものがいた。

案の定、光の速さで船酔いをしたウッジが、今にもさっき食べた味噌汁を逆流してしまいそうな顔をしていた。


「ところで、さっきの話なんですけど、カマディさんからの使いって、夜に海を渡って来たんですか? それとも、何か清明シーミーの術的な? 」

チルーがユウナに話しかけた。

「……んー、まぁ、そんなところやっさぁ。」

と、ユウナにしては歯切れの悪い返事だったが、清明には清明の何か都合があるのかもしないと、そこはあまり気に留めなかった。


「ワーとカマディは、御殿に上がっていた時からの仲で、まぁ、戦友みたいなものばぁよ。」

ユウナが誰に言うでもなく呟いた。


「……ウッジ、大丈夫? ほんと、ウッジは乗り物に弱いよね。」

ストローが船から顔を出し海面を見続けるウッジの背中をさすった。


「ウッジさま、出来るだけ遠くを見た方がいいですよ。」

とチルー。

しかしウッジには、遠くを見ようと顔をあげるだけの気力がもう無かった。


「あはー、船酔いしたんか? 船酔いしたら、股間を急激に冷やしたら治るんだけど……さすがに、ミヤラビにはちょっとできないさぁ。あははは! 」


「股間……ですか? 」

「そう。まぁ、背中でも効果はあるみたいやっさぁ。ワンは船酔いはしたことが無いから、わからんけどやー。」

「はぁ。」

「でも、そう言っている間に着くさぁ。もうほら、すぐそこやっさぁ。」

風で運ばれるサバニは思いのほかスピードが速く、船首の方向を見るともう魚釣ユイチャーの湾の入り口が見えていた。


その時だった。朝清が大きな声を上げた。


「ヌーヤルバーガ……! 」


進行方向右側の空が急に紫色になり、あっという間に暗くなってしまった。

そして、その、夜のように暗い空が徐々にこちら側の青空を侵食し始めていた。


「朝清さん、あれ何? 」

ストローが朝清に問う。

朝清は、視線を黒い空から外さないまま首を振った。

「アッゲ! あんなの、見たことないばぁよ! 」


「ちょっ、朝清さん、海見て! 」

今まで伸びていたウッジが、悲鳴に近い声を上げた。

見ると、空と同じように海も向こうが漆黒に色を変え、ゆっくりと、こちらへその闇を広げようとしているように感じられた。

「ウッジーーーー! 」

チャルカが怯えて、ウッジに抱き付いた。そのチャルカにメリーが震えながらしがみついている。


「アッゲ! 」

「これは……。朝清さん、ここからだと、行くのと戻るの、どっちが早いですか? 」

チルーが何かを察知して、慌てている。


「……そりゃ、もうここまで来たら魚釣ユイチャーやっさぁ! 」

「では、魚釣まで急ぎましょう。」


そういうと、目線をユウナに移した。

ユウナは、何か信じられない物を見てしまったかのように、目を見開き固まっていた。

「……ユウナさん! ユウナさん!! 」


「……ハーヤー、」

「何か、心当たりがあるんですか? これは一体…… 」


ユウナが目を閉じ首を振った。


「ユウナさん、これはもしかして、五年前の…… 」

そこまで口にしたチルーをユウナが止めた。

「話は後やさ。とにかく、魚釣に急ぐさぁ。」

「……はい。」


「風があれば、早く進めるんですよね? 」

ストローが、チャルカからメリーは引きはがした。

「そうやさ…… 」

「じゃ、コイツを使おう。」

引きはがされたメリーは、必死にチャルカの首元に戻ろうとジタバタした。

「ちょっと、メリー! こんな時ぐらい働きなさい! あんた、一応聖獣なんでしょ? 」


「ビィーーーー!ビィィィーーーー!……グゥ、グゥ! 」

「メリーちゃん、嫌がっているよぉ、ストロー! 」

「でも、メリーが協力したら、早く岸に着けるから……。メリー、がんばってよ。」

ストローがそういうと、しぶしぶというか、もうヤケッパチの心境で、ぐぃぐぃっとストローの手から逃れたメリーは、空中で、一回転すると元の巨躯に戻った。


ライオンの一吠え。


ビリビリと空気がその声で振動する。


「アッゲ! 何だ、そのウトゥルサンけものは! 」

驚いた朝清が腰を抜かした。

「大丈夫ですよ、朝清さん! メリーはグリフォンという聖獣です。メリーがこの帆に風を送りますから、どうか、船をお願いします! 」


「……トー!わかった! ワンも海人ウミンチュ、任せろ! 」

そういうと、朝清が手綱をぎゅっと握った。


「メリー、船の後ろから、風を送って! 」

メリーは返事に咆哮をすると、巨躯から生える大きな翼を、ブンっ!と一振りした。

すると船がグン!と先ほどの早さよりも格段に速く前に進みだした。

「アキサミヨー! よし、ワンも船がひっくり返らないように、船を支えてくれる者を探してお願いするさぁ! 」


「お願いします、ユウナさん! 」


ユウナは、正座に座りなおし、目を瞑り祈り始めた。

その間にも、メリーが休みなく風を送り、船は水しぶきを撒き散らして、ぐんぐん速度を上げる。

あまりのスピードに船首が持ち上がり始めた。


「わ! 危ない……! メリー、危ない! ちょっと弱めて! 」

とストローがメリーに言うが早いか、船首が何かが下で引っ張っているかのように、安全な高さまで落ち着いた。

「……ユウナさんが、精霊にお願いをしてくれたんですね、きっと。」

チルーが安堵の声を上げた。


清明シーミーってすごい…… 」

もうこの事態に船酔いなんてどこかへ行ってしまったウッジが、清明に深く関心をした。



船はまるで急流を滑り落ちるような勢いで進み、減速できないまま、男女六人の悲鳴? 絶叫? と共に魚釣島ユイチャージマの砂浜に乗り上げた。


ヌーヤルバーガ / なんてこった

ハーヤー / まさか

ウトゥルサン / 怖い

トー / よし

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