表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
41/96

94話 御嶽(うたき) 14/14

「頭と……身体も冷やした方がよさそうですね。ナギィさん、メイシアさんを見ててください。私、冷やすものを取ってきます。」

「うん、マタラさん、お願い! 」


マタラが台所へと飛び出そうとした時、そこにカマディが立っていた。


「アイッ! ……祝女さま! 丁度いいところに。あの、メイシアさんが…… 」

「ああ。知っているよ、マタラ。」


そういうとカマディは、メイシアの枕元に座り、メイシアの額に手を当てた。


「ひどいニチさぁ……。この暑さに慣れないのに、無理をしたんだねぇ。」

「オバア、どうしよう……ワーの修行に突き合わせてしまったから、ワーの責任やさぁ…… 」


「違うよ、ナギィ。この子も自分の為に修行しなければいけなかったのさ。ワシも最初、そう言ったばぁよ。……そんな顔をしない。ワシはそこまで得意ではないが、治してみるさぁ。本当は村から呼んだら、この手の力が強いものが居るのだが、今はワシが頑張チバるしかないねぇ。」


「オバア、お願い、メイシアを治して! 」



カマディは、片手で胸の勾玉を握り、もう片方の手をメイシアの頭に手をかざすと目を瞑った。

すると、手とメイシアの間の何もない空間に、音もなく小さな光の球体が姿を現した。

柔らかい青い光。

それが徐々に大きくなり、手のひらほどの大きさになった時、カマディがメイシアの額に手をくっつけた。

光はメイシアの体に吸収され、メイシアの体全体を波のように駆け抜けたかと思うと、すぐに消えた。


見る見る、メイシアの顔からのぼさせたような赤さが引いてきた。


「わぁ! オバア、すごい! 」


「とりあえず、これである程度の熱は取り除けたが、ワシの力ではここまで。全快までは無理やっさぁ。まだ微熱シンクヮニチが残っているし、身体を冷やしながら安静にするさぁ。」


「うん、わかった…… 」


「私、手拭いと水桶を持ってきますね。」

マタラが部屋を飛び出していった。


「ナギィ、明日は御嶽うたきに行かなくてもいいから、メイシアの看病トゥンジャクをしてあげなさい。」


ナギィが泣きそうな顔で、頷いた。


「ワシは、そろそろ夜番の者と交代しないといけない。メイシアを頼んだよ。」

カマディはもう一度、メイシアの顔を見ながら、頭を撫で部屋を後にした。


入れ替わりで、水を汲んだ桶と手拭いを持ったマタラが入ってきた。

「祝女さま、もう御嶽へ行かれたんですね。」

「うん。交代だって。」

「そう……ですか…………。」

一瞬、何かを考えたマタラだったが、メイシアが目に入り、慌てて桶を下に置いた。


「あぁ、これを絞ってメイシアさんの額に当ててあげて下さいね。」

「ありがとう、マタラさん。……メイシアの看病はワーがするようにオバアに言われたから、マタラさんは、もう休んでね。もしかしたら、明日もワーらは御嶽へ行けないかも。」


「はい。それは大丈夫ですよ。もともと清明の数は足りていますから気にしないでくださいね。……でも、ナギィさんも、今日はかなりお疲れでしょう? 」

「ワーは、大丈夫! メイシアの様子を見ながら、大丈夫そうだったら、ちょっと寝させてもらうよ。だから、マタラさんは朝が早いから、もう寝てね。」


「……そうですか? じゃぁ、お言葉に甘えて。もし、急変したり何かあるようでしたら、私は離れにいますので、起こしてくださいね。遠慮は無用ですよ。」


「うん。ありがとう。」

それを聞くと、おやすみなさい、と言い残しマタラは部屋を出て行った。




それからナギィは、水桶に入った手拭いを絞り、メイシアの額に乗せ、部屋にあったクバの葉のうちわでメイシアを扇いだ。


メイシアが十三夜に現れた時、それはまだ2日前の事なのに、ずっと昔から友達のように思っている自分がいた。

あの夜には、こんな事、想像もできなかった。

ナギィはうちわを扇ぎながら、ぼんやりと、メイシアは不思議な子だと考えていた。


普通の子なのだが、何かが違う。

今まで知り合ってきた人たちと、どこか違っていた。


ふと、今日の自分が御嶽でトゥンチャーマを歌った後のメイシアの表情を思い出した。


自分の変化に驚き、ただそれを理解しようと思っているナギィと違い、その時のメイシアは、後悔しているような、ナギィを心配しているような、とても辛そうな顔をしていた。


引っかかっていたのは、きっと、それだった。

メイシアは、人や自分の悲しみを「人並み」に、というと少し語弊がある。「人並み」に関心があり、感じたり考えたりしているように見せている節がある。普通を心掛けているのだ。

しかし実のところ、誰よりもその苦しみや悲しみに共感する力がある。


森榮の夕飯を一緒に食べたがった時もそうだった。


倒れてしまう位、身体は限界だったはずなのに、待っていた森榮の気持ちに同調して、温かいそばを食べてこうなっている。

それを、メイシアは無意識でやっている。

相手の感情や事情のあれこれを想像して同調して共感し、行動を起こしているにも関わらず、それに気が付いていないフリをしている。


そして、カマディに言い当てられて泣いたように、自分の苦しみや悲しみに対しては、もっと鈍感であろうとしている。

それはきっと、自分を守っているというよも、ナギィから見れば、周りの人の為なんだろう。


周りに心配をかける方が、メイシアにとっては苦痛なのだろうと思った。


「……メイシアの馬鹿フリムン! 早く元気になれっ 」







外の空気は太陽が沈んだものの、まだ生暖かい。

しかし、海風が吹くここは、それなりに涼しいのだ。

カマディは一人、たたずんでいた。

今宵は満月。


ここは御嶽へ向かうけもの道から、少し外れ海へ降りた場所だった。

今は満ち潮。

アダンが生えているギリギリまで海面は迫っていた。


「遅くなってすまないな、」

上を向いたカマディが、月の光に照らされぬようにアダンの葉に隠れた何かに声をかけた。

影が、ニィっと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ