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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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82話 御嶽(うたき) 2/14

「へぇ! マタラさん、すごい、すごいよ! ウマンチュ、アンマーの事を話してくれないから、初めて聞くさぁ! 」

ナギィがさっきの感情の無い表情から一転、目が輝きだした。


「ナギィ、お母さんの事あんまり知らないの? 」


「んーーー、もちろんアンマーの事は覚えているし、今でもいっぱい思い出すけど、清明としてのアンマーの事は知らないの。オバアもスーも、あまり話したがらなくて……。そうなんだぁ……アンマーは清めるのが得意だったんだぁ、すごいなぁ……。ねぇ、マタラさん、もっとアンマーの事を話してほしい! 」


「えーっと……」

あまりに反応がいいナギィに対して、急にマタラの歯切れが悪くなった。

「もっと聞きたい! ね、お願いっ! 」


「いいのかなぁ……。祝女ノロさまや海榮かいえいさまがお話になられていない事なのに……。」

「大丈夫さぁ! だって、もし話してダメだったら、アンマーの事を知っているマタラさんを紹介なんてしないはずさぁ! 」

「……んーーーー、それもそうですね……それに、お母さまの事、知りたいですもんね……」

「うんうん! 」


キラキラ光るナギィの瞳を見て、意を決したようにマタラが口を開いた。


「カガンさんは、歌がとてもお上手で、よく歌っておいででした。お洗濯する時やお掃除をする時。祭事の準備をする時なんかも歌ってしまって、祝女さまに叱られたりしている場面も、お見受けしたことがあります。……あ、お母さまが叱られる話なんて、聞きたくないですよね? ごめんなさい……」


「うんん、いいの! 何でも聞きたい。アンマー、どんな歌を歌っていたの? 」


「何でも歌っておいででしたよ。てぃんさぐぬ花や、安里屋あさどやゆんた。月ぬかいしゃ、いったーあんまーかいがー……」

「わぁー! ワーも歌うよ! アンマーに教えてもらったから! 」

「あー、あと……あの曲もありましたよね? あまり他で聞かないあの歌もよく歌っておいででした。」


「ん? そんな曲あったかな……どんな曲だっけ? 」


「確かこの歌……」


そういうと、マタラが歌いだした。


チチぬ 満ちティ ナダそうそう

イチミに この子 んまり落ち

あれもこれもは 言わねーん

たったティーチ 恵み クィミソーレー

かなさ かなかな かなさ かなかな

この子に 幸運カフーさ ありますよう


ティンが富んで ティンガーラ

ニヌファブシぬ ティーチシ 良いよ

あれもこれもは 言わねーん

たった一度 ティらし クィミソーレー

かなさ かなかな かなさ かなかな

この子に ミシユン ヨーカブシよ


太陽ティーダ隠れて マーカイガ

フシヌヤーブシぬ チャースガヤ

あれもこれもは 言わねーん

月ぬユーに シチ クィミソーレー

かなさ かなかな かなさ かなかな

この子に 月ぬ道 ウートートー


ミチブシ ユムン チィーチ タァチ

思産子ウミナシグヮ さぁ イェージスン

あれもこれもは 言わねーん

ずっと イービングワー 離すねーん

かなさ かなかな かなさ かなかな

この子に ウガムン ユーイリヨーヤ……」


途中からナギィも歌いだし、涙を流していた。


「どうしたの? ナギィ、」

驚いたメイシアが、ナギィの肩に触れた。


「ワー……ヌーンチ、この歌を忘れていたんだろう……」

そういうと関を切ったように、人目もくれずに泣き始めた。

立っている事もままならず、その場に膝をついてしまう。


「あぁっ、ナギィさん! 」

タマラが慌てて、泣き崩れるナギィを抱えた。


「ナギィ、大丈夫? 」

「ナギィさん、ごめんなさい! 私が、嫌なことを思い出させて…… 」

ナギィは、懸命に首を振るが、感情が抑えられずに言葉にならない。

感情の赴くまま、今は泣き崩れるしかなかった。


マタラが仕方なく、後の清明シーミー二人に、先に行くようにお願いをした。

二人は快く「ヨンナー来たらいーよー」と言って先に御嶽うたきへ歩き出した。


残されたメイシアとマタラは、ナギィが落ち着くまでしばらく無言だった。

マタラに抱きかかえられたまま、膝をつき泣きじゃくるナギィは、さっきまでのメイシアの知っている快活なナギィからは想像ができない。

メイシアは声をかけられないまま、ナギィの頭を何度も撫でた。

自分の母親が、メイシアが手が付けられないほど泣いた時にしてくれたように。




ナギィが落ち着いたころ、昼番だった清明シーミー達がぞろぞろと、御嶽うたきから戻ってきた。

みんなナギィを見ると、足を止めナギィの周りに集まり、ナギィの涙を拭いたり、カガンに似ていると頭を撫でたりして、家へ戻って行った。


「みんな、ナギィのお母さんの事知っているみたいだったね。」

ナギィが、小さく頷いた。

忘れていた母親の事を思い出し、まるでその忘れていた長い時間分、子供に戻ってしまったように見えた。

そんなナギィを見てメイシアは、母親がいなくなって、寂しさを押し殺して、元気に振舞ってきたのかもしれないと思った。


「そりゃそうですよ。カガンさんは、みんなに優しく、大変好かれていましたから。」

「立派なお母さんで良かったね、ナギィ。」


「……うん。ありがとう。もう落ち着いた、」

ナギィが立ち上がり、膝の土を払った。

背を伸ばし、前を向いたナギィは、もういつものナギィの顔に戻っていた。


「もう大丈夫! ワッサイビーン、びっくりさせて。……なんで忘れていたのか……ワーもその歌、たくさん歌ってもらったのに、忘れてしまっていたみたい。」


「思い出してもらえてよかったです。忘れてしまうのは……悲しいもの。」

マタラも、膝の土を払って立ち上がった。

「さぁ、御嶽へ急ごう! 」

ナギィが、二人の手を引っ張った。

ヌーンチ / どうして

ワッサイビーン / ごめんなさい



「カガンの歌」

月が満ちて 涙がぽろぽろと

この世に この子 生まれ落ち

あれもこれもは 言わないけれど

たった一つ 恵みをください

愛しい 愛しい かわいい子

この子に 幸せが ありますよう


天が富んで 天の川

北極星が 一つで良いよ

あれもこれもは 言わないけれど

たった一度 照らしてください

愛しい 愛しい かわいい子

この子に 見せる明けの明星よ


太陽 隠れて どこへゆく

流れ星が どうしよう

あれもこれもは 言わないけれど

月の夜に してください

愛しい 愛しい かわいい子

この子に 月の道 拝みます


オリオン 数えて 一つ 二つ

私が生んだ子よ 声をかける

あれもこれもは 言わないけれど

ずっと小指を 離さないで

愛しい 愛しい かわいい子

この子に 祈る 芯のある良い子

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