70話 魚釣島の清明 6/16
「ハイタイ。スグーヨー、チュー、ウガマビラ。腰が痛いっていうネエネエがいるっていうのは、ここヤイビーガ? 」
声の方を見ると、歳は40代後半だろうか。ぽっちゃりとした体形の背の低い、優しそうな女性だった。
「はい。そうです。……彼女なんですけど、、」
チルーが、女性を招き入れるようなしぐさをした。
「はいはい。起き上がれないのね。お嬢グヮー、ちょっと、のいててね。」
泣くタイミングを逃してしまったチャルカの頭を、女性が優しくポンポンとして、横に逸れさせた。
「アハー、かなり辛そうねぇ。……しかし、この部屋はにぎやかだ事。」
というと、女性はフフフと、優しい笑みを浮かべた。
「ウジャ……? すみません……うるさかったですよね。」
ストローが申し訳なさそうに頭を下げた。
確かに戸も窓も開けっ放し、というより無いようなもので、だからこそ外の涼しい風が入ってくるのだけれど、その分騒いでいた声は全て周りに筒抜けなのだった。
「イーサァー。そんな事で怒る者はいないよ。そこはテーゲー、テーゲー。さぁさ、ネエネエ、横向けに寝られる? 」
そういうと女性は、座布団を二枚持ってウッジの横に座り、座布団を折り曲げて一枚はウッジの頭に、もう一枚は横向けになった上の足を折り曲げて座布団の上に乗せた。
「ワーはユウナと言います。病気とか怪我を治すのが、他よりちょっと得意でね。ワーに任せてね。ネエネエも、すぐに良くなるさぁ。」
そう言いながら、ユウナと名乗った女性は、手をウッジの腰にかざし始めた。
「あ……すごい。温かい。」
ウッジがあまりの変化に驚いて声をあげた。
それを聞いたストローが、興味津々で身を乗り出し、ユウナの手を凝視した。
「へぇ~、見た感じは何もないんだけどなぁ。すごい。……やっぱり、ユウナさんは清明なんですか? 」
「ヤサヤサ。あぁ、ネエサン方はこっちの言葉は、わからないんだよね。ちょっと気を付けないとすぐに出てしまうから、ヤナーだねぇ」
ユウナはどうしても十六夜の言葉が出るようで、チルーがフフっと笑った。
「そっちのネエサンは十六夜人だね。もしワーが、ちゃんと喋れていなかったら通訳してよ。」
「はい。承知いたしました、ですが……きっと大丈夫ですよ。」
「そうかい? ……それで、さっきの話。ワーは一応清明だけど、あんまり結界を作るのは得意じゃなくてね。大体はこっちに居るんだよ。こっちにいて、医者みたいなことをしているさぁ。」
「あっちとは……魚釣島のことですか? 」
「ヤサヤサ。」
「そういえば、さっき、チルーも結界がこの島の要とかって話していたけど、魚釣島と結界と何か関係があるの? 」
「まだお話していませんでしたね。まず、海榮さまのお義母さまの事は……」
「うん。確か、ユタの頭をやっていて、魚釣島にいるっていうのは言っていたね。」
ストローが海榮の話を思い出していた。
「お、ネエサン方はカマディーに会いに来たのぉ? 」
「そうなんです。オラたちの仲間の事で、聞きたいことがあって……」
「ンチャ。カマディーなら、きっと力になってくれるさぁ。……ところで、十六夜人のネエネエ、ンチャってなんて言うんかな? 」
「なるほど……ですね。」
「ンチャー! あぁ、なるほどぉ……あはははは、やっぱり、ムチカサン! 」
「ムチカサン? 」
「難しいってことですね。」
「あー、それはオラにもムチカサンだなぁ」
「ネエネエ、うまい事言うねぇ」
これが清明の力なのか、ユウナの人柄なのか、時間が和やかに流れていた。