表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
14/96

67話 魚釣島の清明 3/16

「わぁ! すごいな! 海だ! 青いーーー! 」

小さな丘を越えると、姿を現した一面の海原にストローが目を輝かせた。

「チャー、海で遊びたい! 」

「またそんな事言って……。オズでも充分遊んだだろ? 」

ウッジが、またか……とため息をついた。

「アレはアレ。コレはコレだもんっ」

「え……チャルカ、どこでそんな言葉を覚えたの……」


「皆さん、あと一息ですよ。この半島の先端に見える、山がポッコリしているあの島が、魚釣ユイチャー島です。」

そう言ったのは、チルーだ。


チルーとストロー、ウッジ、チャルカ、メリーは馬に乗っていた。

馬は三頭。

出発が決まり大急ぎで準備を整え、あわただしく一行は出発したのだった。

そして、こうして、なんとか一日で魚釣島が見える地までやってきた。


「チルー、本当にこのスイの国は海がきれいだね。前にも海のある街に少しの間暮らしたけれど、海はいつ見ても気持ちがいい。」

心地いい潮風を受けながら、海に向かって馬を進める。

「はい。赤星あかぶし島は海に囲まれた島国です。特に、南に位置するスイの国は海の色が美しく、私もこの海が大好きです。本当は御殿からも場所によっては海が臨めたのですよ。」

「それはいい。帰ったら、教えて。」

「もちろん。しかしながら、ストローさまも、ウッジさまも、乗馬が様になってきましたね。」

「チルー、チャーも一人で乗りたいっ! 」

チルーの前にちょこんと乗せられたチャルカが、振り向きながら不満の声をあげた。


「チャルカさまはあぶみに足が届かないので……申し訳ございません。もう少し大きくなられたら、また乗りにいらしてくださいね。」

もうこの会話を何回もしたのだろう。チルーが困り顔で、チャルカに言い聞かせた。

「チャルカーーー、わがままばっかり言わないの。その話は終わっただろ。」

「ぶぅーーーーーー」

「きゃりっ」

頬を膨らませるチャルカにメリーが頬ずりをする。


「オラは国でトナカイのソリには乗っていたけど、馬は初めてだもんなぁ。そんなに早く上達なんてできないし、オラたちが上手くなったんじゃなくて、この馬が賢いんだよ。」

「そうそう! ウチも、こういうの苦手な方だと思うから、馬のおかげだな。」


「百戦錬磨の海榮かいえいさまが所有していらっしゃる馬ですから。少しの事では動揺しない度胸があり、乗り手の意志を感じ取ることに長けた良い馬です。」

「……はぁ。その海榮さんが来られないなんてなぁ。」

「仕方がないですよ。海榮さまは、唯一、スイ天加那志てぃんじゃなしとお目通りができるお方。戦でもない限り御殿から離れることは許されませぬ。……ご本人は、とても来たがっていらっしゃいましたが……」

というと、海榮の出発までの一連の実らない根回しと、残念そうな顔や口ぶりを思い出し、チルーの表情が少女のように柔らかくなった。


それを目敏くウッジが見逃さなかった。

顔をニタニタさせたて、チルーの馬に近寄ってきた。

「あれぇ? もしかして、チルーって海榮さんのこと……」

「な、何をおっしゃっているのですか! そんな事あるはずがございません。」

「またまたぁ。そんなに否定するなんて、ますます怪しいなぁ」

「もぉ。ウッジさま、その様にだらしの無い顔で馬に乗って、舌を噛んでも知りませんよ! 」

「ええっ? ウチ、だらしの無い顔してた? 」

「知りませんっ! 」

チルーは、ぷいっと顔が見えないように馬を頭一つ前へ進ませた。

「えーーー、ごめん、チルー。許してっ」


「え、何々? どうしたの? チルー、海榮さんに何かされたの? 」

海の眺めに心を奪われていたストローが、チルーの様子がおかしい事に気が付いて、話に寄ってきた。

「はぁぁぁぁ。ほんと、ストローってそういうの疎そうだよねぇ」

ウッジが憐れむような顔をストローに向けた。

「えーーーーー、なに? ちゃんと説明してよ。オラにもわかるように! 」

「だからぁ、チルーは、海榮さんの事をーーーー……」


「もぉ! おしゃべりはおしまいです! 急ぐ旅なんですよ! 陽が傾くまでには船着き場のある集落までは行かないと。少し速度を上げて駆け足で参りますよ。ハイッ」

チルーは慌てて振り向き声を上げると、鐙で馬の胴を蹴りスピードを上げた。

慌てたのは二人だった。なぜなら、そんな速さをまだ経験していないのだ。

しかし、チルーの馬が駆け出すと、それに合わせて、二人の馬も有無も言わせず駆け出した。

「えーーーー! まだウチらには、その速さは無理だよーー! 」

「ちょっと、オラにも説明! 」

二人はもんもんとしながらも振り落とされないように必死でチルーを追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ