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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~2  作者: メラニー
第五章 夜の国
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66話 魚釣島の清明 2/16

御主加那志うしゅがなし! ……ユイ加那志がなし! お逃げ下さい、ここにもすぐに火の手が! 」

「おぉ……、カガンか。良いところへやって来てくれた。」

「さぁ、早くこちらへ! 」

「カガンよ。私はもう決めたのだよ。私はこれからサソリになろう。サソリとなって眠りにつく。」

「何を、おっしゃっているのですか! 早くお逃げ下さい。」

「すまない、カガン。私は落ちただけでは飽き足らず……根っからの脱落者なのだ。こんなことでしか私は……。」

そういうと、ユイは出来る限りの笑顔を作った。

「お前は私にいつも良くしてくれた。ありがとう。さぁ、私を置いて、お前はお逃げ……」


カガンには一瞬、外で聞こえる怒号が静まり返ったように感じた。

刹那、ユイの体が、光に包まれた。

白く白くサンゴが降り積もった真夏の砂浜よりも白い光だった。


光が消えた後、残されていたのは、ユイが被っていた王冠ただ一つ。

しかし、先ほどまでの王冠とは違う。

王冠には大きな赤い石がはめ込まれていた。


御主加那志うしゅがなし? ……御主加那志! 」

カガンには、何が起こったのか見当がつかない。

混乱のまま、カガンは残された王冠を抱きしめ、ユイの名を呼ぶことしかできないでいた。


「カガン! 何をしているんだい! ユイ加那志はどこに居られる? 」

母様アンマー……御主加那志が……」

母親アンマーと呼ばれた老女が、カガンが抱えている王冠を手に取った。

「これは……」

「どうしよう、母様……」

「カガン。このことは、とりあえず、ワーとおヤーの秘密だよ。今はこの御主加那志をお守りするんじゃ。」

「でも母様アンマー……御主加那志がどこにも……」

「スイの国一番のユタ、カマディのミヤラビが寝ぼけてるんじゃないよ! 御主加那志はこの赤い石になられたのだ。この石さえお守りすれば、スイの国は難を逃れる道がある。さぁ、御主加那志をお持ちして早く逃げるんだよ! 行け、カガン! 」


カガンはカマディに促され狼狽しながらも、渡された王冠を手に正殿から脱出しようとした。

その時、黒い影は現れた。

そこに何も実体はないはずなのに、壁に大きな影がゆらりとしたかと思うと、瞬く間に大きな人型に形を変え、その影から逃げようと振り向く間もなく実体化した影は、カガンに大きな刀を突き刺した。

声を上げる事も出来ないまま、カガンはその場に倒れ込んだ。


「カガン! 」

刀はカガンの心臓を貫いていた。

影の表情は伺えないが、フンっと短い鼻息を吐き出すと、刀を抜いた。

同時にカガンの血が飛び散り、辺りを赤く染めた。影の持っている刀からカガンの血がドクドクと滴っている。

カガンは力なくその場に倒れ込み、駆け寄ったカマディがカガンを抱き上げた。カガンの体に、もう力はない。


しなだれたカガンの手から零れ落ちた王冠を、影が拾い上げた。


「くくく……、聞いたぞ。シュテフィはこの石になり果てたのだな。はははは……! 馬鹿よのぉ! そんなにこの国が要らないのなら、わしがもらってやろう。」

「おのれ……トイフェル……」

「おぉ。お前はユタのカマディではないか。老いぼれて、もう死んだかと思っておったわ。」

「よくも、ミヤラビを……」

トイフェルが影の顔を邪悪にゆがめてニタニタしているのが分かった。

「ひひひ、その女中、お前の娘だったとはなぁ。それはそれは。気の毒なことをしたなぁ。もうすぐ、このスイもワシの国になるのだ。わしの国で生きられぬなんて、本当にかわいそうなことをした……くくくく……」

貴様ヤーの国になど、絶対させぬ! 」


「カガン! カマディ! 何をしている! 早く御主加那志をお連れして……! 」

傷ついた甲冑を纏った男が、正殿へ駆け込んできた。

「おっと。長居は無用じゃ。……もうワシはここには用が無いのだ。無駄な戦いはしない主義でな。」

「トイフェル……! 」

「おぉ、海榮か! 遅かったではないか。もうわしの用事は済んでしまったぞ。ひひ、主君を失って可哀想にのぉ。……次はワシの国で雇ってやってもいいぞ……」

というと、トイフェルはまた霧のように影となり、消えてしまった。

海榮が反射的に、トイフェルに切りかかったが、トイフェルの方が刹那早く、霧は跡形もなくなくなった。


「カガン……! カマディ、これは一体……」

「……トイフェルにやられた。一太刀じゃった……」

「そんな……カガン、、カガン! 」

海榮がまだぬくもりのあるカガンの亡骸を抱きしめた。

力なくカガンの手は下にたれ、海榮を抱き返すことは無かった。



「く……! トイフェルめ……。おい! おるのじゃろ? 」

カマディが小さな声で、誰かに話しかけた。

話しかけられた何かは、小さな毬のように弾んで正殿から飛び出していった。





  *** *** ***


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