65話 魚釣島の清明 1/16
心が弱いとはどういう事だろう。
心が強いとは。
ただの断片。私はこう思う。
魂の大きさ。
自我を持つ生き物は、入れ物に見合った魂が用意されている。
しかし、稀に入れ物に見合わない、とてつもなく大きな魂を持って生まれてしまう者がいる。
窮屈な入れ物の中で、魂は抑圧され押し付けられ苦しみ、行き場を探す。
行き場を探し、暴れ、入れ物を傷つける。
逆も然り。
入れ物よりも小さな魂は、入れ物の中でぶつかり傷つき、何かに縋りたくても、縋るものもなく、ただ魂を傷つけ続ける。
魂の大小が価値ではない。
入れ物……器との調和・不調和が、生きやすさを決めるのだ。
そう。
私の器は魂に合っていなかったのだろう。
そんな事を考え続けてしまう私は……そんな事を考える自由はとっくに失ったのに、考え続けてしまう私は……。
自分の運命を呪い……いや、違う。
諦めたはずの私を諦められていなかった私を呪った。
だから世界に混沌が訪れ、私は「落ちた」。
ただそれだけの事。
私は気が付いていた。
そうだ。
とっくの昔に知っていた。
私は「そうなった」訳ではない。
もともと「そうだった」のだ。
私は「空っぽ」なのだ。
落とされたのに死ねない私は彷徨った。
私は自らを終わらせることも許されず、私を誰かに終わらせてもらう事も……こんなに自分勝手を貫いて落ちた私にも出来かねる。
自分以外の者に、そんな枷は嵌められぬ。
彷徨って彷徨ってどれくらいの年月が経っただろう。
辿り着いたこの南の島で、お前に出会ってしまった私を許しておくれ。
お前は私が何者かも知らず、自分の巣を守るために、生きるための刃を私に向けた。
私は死ねぬ身。
許しておくれ、小さなサソリよ。
私が呪われた身でなければ。
私が彷徨い疲れて、あんなところで倒れていなければ。
いや、私が私の運命を受け入れてさえいれば、お前は死ぬことは無かった。
私に出来ることはお前を忘れぬように、夜空の星にすることだけだった。
今でも、お前は私を責めながら見てくれているのか。
すまない、サソリよ。
星に見下ろされた私に残された道は、この罪を悔いて、身を焦がし人に尽くすことだった。
以前の私には出来なかった事を……自らの周りの世界だけでも正しくしようと。
しかし、今思う。
どうして私は、あの時、私の命をお前にくれてやらなかったのだろう。
あの時、私の魂よりも、お前の魂の方が輝いていたというのに。
すまない、サソリよ。
私はお前の死を、私の最大の罪として受け入れると誓ったのに、
私はまた、間違いを犯してしまっていた。
サソリよ。
お前ならどうするだろう。
守る事も出来なかった私が、守ってもらえるはずもないのに、ただのうのうと愛される事に甘え、私はここまで来てしまっていたのだ。
もう私の為に奪われる命は、欲しくない。
そうだ。サソリよ。
私もお前のように、赤く輝く命になろう。
もう何人も奪えなくしてしまおう。
こんな私を許してくれるか? サソリよ。
この身をお前に捧げる。
どうか私を、お前の魂の結晶にしてくれ……