2チュン目
ここから異世界です
目が覚めるとそこは芝の生えた小高い丘の上の木の下だった。
あぁ、世界はこんななりたて幼女に何させようというのだ。空は今日も青い。
鳥の鳴き声も聞こえる。朝チュンもとい昼チュン。
スク水サイハイパーカーにライフルと鞄ちゃんと持ってるけどそういう話じゃないんだよ!
大体、おもちゃだぞこれ!弾もガスも無いから!
ポロリ
「ん?」
もうヤダ、お家帰るぅ。気のせいじゃなきゃ何も持ってないはずの右手からなんか出た……コワい。
意を決して下を見ると1発の銃弾が転がっている。
溜息ひとつ。右手を差し出し、
「出ろ!銃弾!」
ポロリ
ちなみに台詞は不要です。その気になれば出るみたいです。ポロリポロリ。
いやいやいや。これね!おもちゃだからね!?
……試さなきゃダメだよね。
銃弾を込める穴から銃弾を1発差し込む。
レバーを操作するとカチャリと金属音が鳴り、開いたカバーから銃弾が送り込まれたのが見える。
レバーを戻し、しっかりと構える。もしこれが本当の銃弾だった場合、どれ程の衝撃か分らない。
実際の銃なんて撃った事無いけど動画やゲーム見る限りじゃこの小さな体じゃ制御できないだろう。
丘の下の木に狙いを定める。緊張で冷や汗が流れる。
トリガーを引く。
カチンとハンマーが落ちる。
パシンと乾いた音と反動の無さ。
いつもと同じトイガンの感覚。
今までの日常はここまで。ここから先は非日常でよろしく。
ドカンと一発、大爆発。
狙った木はそこそこ大きかったが木っ端微塵。
自分でやっといてなんだけど開いた口が塞がらない。
かつて開拓者達が新天地を切り開いた銃はここでは対物ライフルかと言う威力になってしまったらしい。
安全設計ぇ!
幸い弾はこの右手からしか出なさそうなので黙っていれば何とかなるだろう。
ライフルは専用のベルトで肩から掛けているのでそっと横に寝かせる。
次に鞄の中身を確認しようと開けるとそこには銀河?みたいな渦巻きが見えるんですがナニコレ?
スマホは?
ペィ
「うひゃ!?」
渦巻きからスマホが射出される。勢い!そしてアレか!四次元バック的なアレか!誰か説明して!心臓に悪い!
スマホの画面を見ると電源は入っている。キャリアの表示が消えているが何故かアンテナは4本。バッテリーも100%。
アプリは全て削除されていた。これは何しろと?通話できない電話って何?
異世界転生の定番と言えば、転生時に女神様からあーしろこーしろって説明入ったり?
おお勇者よ、よくぞ召喚に応じた的な展開だったり?
あ、これゲームの世界だ!ってなるやつだったり?
イントロあるよね?
スマホでそういうの有るのかな?と思ったんだけど無いらしい。
いいのかな?好き勝手やるけど?いいよね?
今まで流されるままに生きてきたのだから、別世界でぐらい好きに生きたっていいか。
この世界がどんな世界か分らないけど、最低限身は守れそうだし生きてさえいれば何とかなるだろう。
この小さな体じゃ身を守るのに精一杯だろうけど、
何となく生かされてきた今までよりはずっと生きてる感じは得られるんじゃないかな?
ピコン
「うん?」
スマホから音が鳴って画面を見ると手帳の様なアイコンが追加されていた。
タップするとメインクエストの下に「生きる」。
うん、なんだか要領は得ないけどとりあえず生きよう。
とりあえず木の上に登ってみた。木登りなんて随分久しぶりだったが何とかなったね。
丘の上の木の上なら遠くまで見えるだろうと安直に考えた結果である。
丘の下は木が疎らに生えた林が広がっている。鬱蒼としてはおらずどうも人の手が入っている様な印象がある。
となれば近くに人が居るはず。あの爆発音も有るし待っていれば人が来るのでは?
会ってどうするかは兎も角、まずは人が存在するかを確認しないと。
見える範囲では建物の様な人工物は無く動くには少々躊躇う。
本来サバイバルで探すべきは水。3日も飲まなければ死んでしまうらしい。
もっとも生水飲んだら当って余計に水分失ったりするのでそこは要注意で。
まぁ結局のところ見当たらなかったから人を探したのだけど。
最悪、自分の尿とか動物の血とか手が無い訳ではないけど遠慮したいところ。
動物と言えば近くに何か居ないのだろうか?
鳥らしき鳴き声は聞こえるから鳥はいるらしい。と言ってもこの銃の威力だと爆発四散だろうけど。
それじゃ食べられないじゃん!
それに刃物がなければさばけなし。
この右手は銃弾以外に何か出せないのだろうか?
「あー。うーん。こう?えいっ!とう!」
スルリ
「ひゃ!?」
手からナイフが滑り落ちて思わず避ける。地面に落ちたナイフは根本までズッポリと刺さってしまった。
「あー、何て事を……。」
名残惜しげに眺めていたら、刺さったナイフは刺さった跡を残し碧い光の粒子となって空気に溶けてしまった。
改めて右手にナイフを作り?出した。どうやら1回成功すると次から簡単になるらしい。
ナイフ、柄が一体のぺティナイフだね。碧い水晶で出来ていた。濁りも無く透通っていて綺麗。
とても軽く、近くの枝も簡単に切り払える程の切れ味だった。扱いには気をつけよう。
幹に刺してしばらくするとまた溶けて消えてしまった。どうやらそんな性質が有るみたい。
銃弾を出してみる。さっきは気がつかなかったがこれも水晶で出来ていた。
何だろう?魔力が固まった?的なもの?
そもそも魔法があるのかな?でも魔法が無いとこの能力の説明もつかないし。
ポトリと地面に落とす。やはりしばらくして溶けて無くなる。
ライフルのレバーを操作すると中にはまだ残っていた。一定時間したらまた入れ直すとかではないらしい。
あ、これトリガー引くと撃っちゃう……どうしよう。
結局、あれから待てども人どころか鳥一羽も見かけず大分日が傾いてきた。
戯れに木を1本爆散させた(無意味な自然破壊ダメぜったい)けどリアクション無し。
このまま夜になったらどうしよう。野営なんてしたことないから怖いんだけど。