こっそり守る苦労人 短編
忙しくてストレス発散で書きました。
けど、やっぱ長い!
色々あったが、俺は一応主人公だ。作者の手抜き工事の所為で、途中退場する羽目になったが、俺は俺なりに泉零として世界──とまでは言わないが、所持する異能で守ってきたつもりだ。
中学時代にちょっとやり過ぎて幼馴染と喧嘩するわ、妹から怯えられるわ、友人? にブン殴られるわしたが、一応高校までやってこれたわけだ。
途中に仲良くなった慈愛の妹様の料理が世界を壊しそうになったが、何度も胃の中に抑え込んで守ってきた。……偶に俺以外の犠牲者も出たが。
気になる奴は前作を……と言いたいところだが、前作は作者的に黒歴史そのものらしい。たとえるなら小学校の頃の作文を、大人になって朗読されたような気分だから、その辺りのコメントもご勘弁だそうだ。傷口を広げないでくれると助かる。
だから、こうして紹介から始めることにしたというわけだ。それと前もって言うが、この物語は前作とは設定が変わってる。なぜ主人公が物語について語り出すのか、とかそういうツッコミはなしでよろしく。
というわけで本題に入る。長々と前置きをしてしまったが、実際それほどややこしいことはない。何処かのキャラ崩壊した存在チートな主人公の話よりはシンプルな筈だ。
複雑かつ大きな野望も抱いてないし、学校を適当に通ってるつもりはない。居候しているわけでもなく、一緒に暮らしてる最愛の妹の料理も食べてる(←ここ重要)。
今回の話についても連載モノを出す前の準備運動程度に考えてくれ。連載モノではできないことを短編だからやってしまおうというわけだ。
……ん? 何もおかしいところなんてないぞ? んなわけあるかって? 大丈夫大丈夫、最悪やらかしても短編だからどうにかなるって。
それに今回は幼馴染が協力者となって上手くやってくるって言ってた。いつになく協力的で少々気にはなったが、「任せなさい。君の幼馴染としてしっかり期待に応えてあげるから」って言ってくれたしな。凄い愉しげな笑みで何を上手くやるかもはぐらかされたが。
ちょっとばかりストーリーがメチャクチャになるかもしれないが、問題ないだろ。だから問題ない。……うん、問題ない筈。これ短編モノだから何やっても大丈夫なんだ。
やってやるぞ。やっちまうからな? 本当だぞ?
…………。
なんか急に不安になってきた。
長々と準備を進めたけど、やっぱやめようかn……。
『グダグダっ言っていないで、さっさと来いよ主人公』
……え?
パッパラッパパーー!!
はい?
“ランクSSの異世界人が召喚されました。《コラボミッション》スタートです”
なぬ?
“強制バトルが開始されました。《隠れミッション》スタートです”
うぇっつ?
“『苦労人』はこのバトルから逃げられません。異世界人が消えるか『苦労人』が惨殺なるまで《コラボミッション》、《隠れミッション》はクリアされません。ご理解ご協力の方をよろしくお願いします”
…………。
うん、色々と言いたいことがあるが、第一声にこれだけは言わせてもらいたい。あいつの声でミンチとか不吉な声が聞こえたけど。天に向かって俺は思いの丈をぶつけた。
「いったい何しやがったあの女っ!」
と、そこで長々と続いたモノローグが終わる。なんともアホらしい効果音と幼馴染の声がアナウンスのように耳に届いたと思えば、世界が大きく変化を遂げて銀の光が降り立った。
「え……ウソぉー」
場所は見慣れた学校の屋上だったが、俺の視界の先に何処か見たことあるような人がいらっしゃる。いかにもオカルトっぽいローブを身に付けて頭まで被るようにして着ているが、そこから見える銀色の髪に自然を頰が引き攣った。……え、まさか本物ですか? よく似たそっくりさんとかじゃなくて?
名前:◼️◼️◼️
種族:人間(◼️◼️◼️、◼️◼️◼️)
職業:魔法使い、◼️◼️◼️
とある世界の超越者の中の超越神。世界最強の魔法使いであり常識知らずの魔法使い。運命さえも覆し世界を征服するほどのチカラを有した存在。種族が人間となっているが、間違いなく前世は魔神であろう、種族が間違えられた者である。
「……」
何やってもいいって言った俺が言うのもなんだけど。
やり過ぎでしょう。完全にバクってるよ。
それになんか見えるんですけど、いや、見えない部分もあるけど内容が異常だ。しかも、コメント欄がひどいなドン引きだぞ。他人のことだが、完全に人族であることを否定されてる。ていうか、こんな能力だったけ? 俺のって。
明らかにこの世界の住人ではない雰囲気を漂わせる男を見て、俺は内心本当に大丈夫なのかと、この舞台を用意した幼馴染に問いかけるが、当然返答なんて……。
“大丈夫大丈夫、もう作者とは話は付けといたから、思う存分暴れていいよー”
……あったよ。何あの娘は?
前もそうだが、なんでもない風に人の思考に入り込むとか、アイツも能力者だけど能力違うし。もう人間業じゃないよな。
“嗜好って……なんだか卑猥だね”
卑猥なのはお前のアタマだ! 久々の登場でテンションのネジがイカれたか!?
“まぁ、最悪死んでも短編だから大丈夫だけど、なるべく死なないように頑張って。ちなみに最悪のパターンの時はきちんと骨を拾っておくから安心して逝っていいから”
──人の話を聞けぇー! ……って!? なんも大丈夫じゃない!? 逝っていいってあの世か!? おい! 聞いてんのか!? 無視すんなっー!
急に人様の思考の中で言うだけ言って消えおったわ、あのドS娘ェ!
チクショッー! やっぱ任せんじゃなかった! なんであの時の俺はあんなに信頼してたんだ? 催眠暗示でも掛けられたか?
それ何度呼び掛けても返答はなく、俺は項垂れて頭を抱えた。
チートキャラの存在も忘れて。
『来ないなら……こっちから行くぞ!』
「っ! なんでやる気満々なんだよ!? 言うのも変だが、そんなキャラだったか!? 急な展開じゃ読者だって付いてこれないぞ!?」
痺れを切らしたか、向かい合っていた男がとうとう動いた。
体から透明なオーラのようなモノを放出して、人間の速度を超えた脚力で俺の懐に一瞬で入る。ギョっ!? と目を見開く俺の顔面に神速の拳を入れて、目元がチカチカして脳が揺れる俺の胸元へ、真っ直ぐと鋭い蹴りをお見舞いしてきた。
「がぁ!?」
吹き飛ばされた俺は屋上の設置してあるタンクへ。タンクや機器が粉々になって見事に下敷きにされた。
「……」
くそ、痛え……再開早々これかよ。重いし普通なら即死だぞ。
とりあえず、あとで凪には仕置(どうせ無理だけど)。
とにかく目の前の相手に集中だ。マジでやらないと本気でマズいか。
「……」
ありえない速さに驚きはしたが、俺の深層意識に存在する防衛機能はしっかり働いていた。身体中のチカラ『心力』を巡らせて、既に身体の強化スキル【武闘】を使用していたのだ。
『……強化していたか? 変わった能力だが、この世界のチカラか?』
「……」
『……?』
銀髪のローブは瓦礫から出てきた俺を目視し問いかけてくるが、黙り込む俺の様子に訝しげに首を傾げる。
「……」
その様子をぼんやりとした目で見た俺は、慌てていた表情が徐々に消えて思考が切り替わっていく。人格が切り替わったわけではない。ただ、人身の集中力を高めていき、戦闘方面のコンディションを整える。
『本気になったか』
意識が深く深く沈んでいく。
混乱していた思考が整理され、完全に本来の戦闘状態へと入る。
所持ている『心力』、『異能』、『技法』。これら手札を脳内で素早く並べて処理する。
『いいぞ、来い』
「……!」
俺の内にある『夜色の死神』が鎌を持ち、別世界の魔法使いの首に刃を滑らした。
***
魔法使いは突然別世界に連れて来られても動じなかった。召喚された肉体を見て不振に思ったが、何故か考える必要がないと納得して、目の前に立つ見たこともない制服を着た青年と向き合う。何故か青年が驚いて叫んでいたが、それもとくに気にせずさっさと片付けようと、魔法を使って肉体を強化する。
(まずは手始めだ)
無属性の身体強化で懐に入り、まずその惚けた顔に一発入れ、目元をぐらつかせているところに蹴りを打ち込む。
青年はボールが跳ねたように勢いよく、背後の巨大なドラム缶のような鉄の塊に激突。重ねていた別の物体も巻き込むように壊して、それらの下敷きとなった。
(やり過ぎたか? だが、敵であるなら問題は……)
あまりにも呆気ない結果に訝しげな顔をする。が、すぐに瓦礫の中から出てきた男の変化に気付き本気になったのだと悟った。焦っていた顔が一変し無感情なものとなったが、こちらを捉える黒き瞳からは、背筋が震える悪寒を感じさせた。
それどころか、今度は向こうから仕掛けてきた。しかも、挑発気味にこちらが言うと自分に負けない速度で地を蹴り、一瞬のうちに懐に入り込んで来た。
風圧を乗せて繰り出された拳を、顔を僅かに動かすだけで躱した男は不敵な笑みを浮かべ、伸びた青年の腕を掴んだ。
『面白い! この世界にも超人がいたか!』
力任せに振り上げる。
片手の一本背負い要領で地面へと叩き付けた。コンクリートの屋上の地面が砕けて青年の体がめり込むが……。
「……」
(眉ひとつ動かないか、痛覚を切っているのか?)
無表情のまま顔色が変わらない相手を見て脳裏に疑問符が浮かぶ。
ならばもっと試してみようと続けざまに拳を打ち込もうとするが、拳を構えたところで男は掴んでいた手を離し、投げて落としたことでしゃがんでいた体勢を起こす。
頭部を狙って蹴りを寸前で躱した。
が、相手は蹴り上げた脚の力を利用してバク転しながら起き上がる。すぐに仕掛けてくるかと身構えたが、青年は起き上がったままこちらから後ろを向いて止まる。
まるで人形の直立不動の姿勢。
いよいよ男はきみ悪そうに目で青年を見る。だが、さっきのやり取りで接近戦は危険だと感じたか、遠距離から魔法攻撃に転じることにした。
『“零の透矢・一斉射”』
男の周囲から無数に発射された無色の矢が青年を襲う。
迫ってくる無色の矢はおよそ百本。青年は無表情のままだったが、螺旋状に囲って迫ってくる矢の気配を感じたか、包囲される前にその場から跳躍した。遅れて矢が彼がいた位置に飛来するが、地面に無数の風穴を開けるだけで終わる。
『逃すか、“緋火の灼光線”』
空中に逃れたを待っていたように次の魔法を繰り出す。
両手の手のひらから放たれた灼熱のレーザー。空中で動けない青年に一直線へと伸びていく。
空中移動ができなければ、回避不能な一撃。
男の攻撃は青年を確実に捉えていた。
しかし。
『な……?』
そこから青年が取った対応を目にした男が、逆に意表を突かれたように驚きの顔をする。
未だに表情を一切変えない青年に向けて、異様なものを見るような目で見上げていた。
(避けたのならまだ分かる。だがまさか、鉄すら溶かして貫く高熱の光線を片腕だけで止めるだと?)
人間の体はそんなに丈夫だったか。
思わずそう考えた男の視線の先では、“緋火の灼光線”を片腕で止めた青年が、灼熱で赤く染まった制服の袖を払う。本来なら制服も跡形もなく焼けてしまうが、ホコリでも払うように片手で叩くと、火の粉が散り黒色の袖が見え……。
(? なんだアレは)
違和感を感じて魔眼を使用した男の瞳に黒色の制服とは別の色が見えた。同じ黒色であるが、その部分は“緋火の灼光線”を受け止めた場所だ。
(魔力を感じない。異能系か?)
こちらの魔法を防ぐほどの能力。男は一層警戒を強める中、高く跳躍していた青年が降り立つ。
「……」
そして無言でジッと防いだ自身の腕を見つめる。何を考えているのか読み取れない顔で腕を見回して、見終えたかこちらを一瞥すると。
「……解析完了。これなら俺の能力も通じるか」
『なに?』
ボソリと呟いた微かな声だったが、魔眼を使用していた男はその口の動きだけで読み取れた。
『っ! いつ取り出した?』
刹那、青年の手元には黒き槍が握られていた。
警戒を解いていたわけではないのに、男はいつ出したかも分からず、鋭い刃先を向ける相手に注意を向けるしかなかった。
***
俺が持つ異能は【黒夜】。
名の通り黒き夜の如き色をした特殊な物質。
この世に存在するあらゆる物質に対し、いかなる殺傷も行うことが出来ないが、『心力』や『瘴気』といった異質なチカラに対してのみ牙を剥く。それらの存在そのものを消して無へと帰す能力──“異界削除効果”を持っていた。
初めに確かめたかったのは、相手が利用するチカラに異能が通じるかどうか。
それを判断するのは非常に難しかったが、結果としてあの男の攻撃を異能の【黒夜】で防ぐことが出来た。少々危うかったが、肉体を強化した上で【黒夜】を服の袖に纏わせた。仮に異能を効かなくても、最悪肉体強化のみで防ぐ予定だったのだ。
しかし、効いた。
心力や瘴気とも別であるが、男のチカラにも通じる。
普段の何倍も回転する脳内処理で、【黒夜】の消費した状態から相手のチカラを分析した。仮定も含まれるが、ある程度の余裕を見て対応すればチカラを弾くことが出来ると理解した。
なら取る選択は一つだった。
【黒夜】で創り出した槍を構える。
距離を取って相手は警戒していたが、今の俺には相手の呼吸も気配と共に読めていた。周囲の余計な音が消えて敵を掌握しようと意識が動く。知り合いに未来視がいるが、見なくてももう俺には分かっていた。
瞬きするのが分かった俺は。
瞼を閉じた瞬間、音もなく僅か数歩のみで疾風の如く、槍の射程圏まで持ち込んだ。
ゆっくりと開く片方の瞼の奥。眼球へ鋭い突きを放つ。
『──!?』
驚いた男からしたら、まるで瞬間移動したようだろう。
だが、瞳を狙う“黒き一槍”にはしっかり反応しており、直前で横に躱して顔の横を掠める程度に留めた。その際、掠めた筈の顔に傷が付かなかったことに疑問の顔をしたが、それも一瞬のうちに消える。
『“零の籠手”』
これで接近戦は避けられないと覚悟したか、槍で突いた俺に向けて拳を打ち込む。が、今度の拳には無色のオーラが凝縮されて、さっきのものよりも明らかに危険だと感じ取れた。
迫ってきた拳を体を捻らせて躱す。勢いを殺さず回転するようにして蹴りを放つ。狙いは首元。
男は振り上げた蹴りをオーラが凝縮された腕でガード。払うように脚を弾いて、もう片方の腕から炎が噴き出す。轟音の所為で聴こえにくかったが、『“緋火の炎拳”』と呟き燃える拳を胸元へ振り下ろす。
しかし、その動きも読んでいた俺は片足のみで後退。さらに黒く染まった片手で迫っていた炎の拳を後退と同時に受け止めた。本来なら手が焼けて吹き飛ばされてしまうが、異能によって熱は相殺され、拳に回っていた威力も後退したことで後ろを流し抑えて込んだ。
そこから睨み合う。
至近距離で銀の瞳と黒の瞳が衝突する。
そこで微かに相手の瞳に何かチカラが巡ったのを確かに感じた。
どちらが共なく手を引く。
嫌な予感を感じた俺は、危険だと分かっても安全を抜けて、敵の領域に一歩踏み込むことに決めた。
『“緋火の破鞭”!』
「……ッ!」
男は素早く後退して一瞬のうちに、火の鞭を燃える拳から生み出して放つ。
俺は前へ踏み込みその要領で“黒き槍”を振り投げる。鋭い投槍が真っ赤に蠢く蛇のようなソレを見事に潜り抜けた。
が、同時に男が振るった真っ赤なソレは、槍を通過して投げた体勢だった俺に迫っていた。
『ウッ』
「ッ……」
互いの飛び道具が直撃。僅かに呻き声が溢れて二人共に倒れた。
男の肩に槍が深々と貫通して、俺の左脇に鞭が届くと爆発した。
一応【黒夜】と【武闘】の二重層で防いだが、衝撃を押さえ切れず体勢が崩れてしまった。
***
(なんだこの槍は!? 魔力がごっそり削れたぞ!?)
異常な事態に肩を貫いた異物に対する痛覚も忘れてしまう。
痛みがあるのに傷がないことにも驚きだが、それ以上に宿していた魔力だ。躱し切れず槍が貫いた部分に巡っていた魔力が蒸発するように消えたのだ。咄嗟に組み合わせていた魔眼の魔法で敵の動きを読み鞭を放ったが、その代償で相手の攻撃を避けるのが難しくなった。
(まさか、対魔力無効化の粒子か? 俺の魔力にも影響を与えるほどの?)
無属性の纏わせた手で槍を抜いたが、やはり傷どころか服すら無傷だった。
物質ではなく生命エネルギー体にも見えるが、掴めたことを考えると魔力では触れることが可能なようだ。ただ、触れている部分の魔力が煙を上げて蒸発しているので長時間触れているわけにはいかないようだが、消耗していく魔力量を分析して男は頭の中で相手の能力を整理してみた。
(どうやらこの黒いのが消せる容量は、精々槍一本でBランク程。それ以外の物質への干渉はほぼ不可能。ただし人体に対しては魔力以外に痛覚も与えれる為、直接受けるのは避けるべきだ。黒いのに触れなければ問題はないが、身体能力も非常に高く仮に接近戦になった場合でも長く組み合うのは危険があるか)
無属性の身体強化を切る。
瞬時に魔力を練ってこの肉体で可能な速さに特化した魔法を選択する。
『思ったより強いな。お前』
特に時間を稼ぐ意図はないが、立ち上がっても攻めて来ない相手に声をかけてみる。相手の方は未だに黙ったまま静かにこちらを見ていたが、彼の声に反応したか僅かに目元がピクリと動いた。それが面白かったか、男は笑みを浮かべて話す。
『急に呼び出されて驚いたけど、なんだが楽しくなってきたわ。こんな肉体だから本気は出せないが、それでも珍しい相手と戦えて楽しめた』
「……粒子の塊。こちら側とは違う……チカラで構成された肉体」
『──! 凄いな。喋ったこともそうだが、この肉体にも気付いてたのか?』
今まで無回答だった相手の突然答えたことに驚きの顔をするが、青年は淡々とした様子で男の疑問に答える。これも気まぐれか時間稼ぎか知らないが、青年もそろそろ決着を付けるべきだと確信したのだろう。最後の会話を楽しむことにしたようだ。
「チカラその物の正体は不明だが、ある程度の計算は出来る。多少の誤差は出てしまうが、修正できるレベルだ。そしてお前の肉体そのものにも同じチカラが含まれるが、それは肉体内部ではなく肉体そのものだ。これは槍が手応えで分かった。だから次に直撃すれば倒せれる自信が俺にはある」
『自信家か、自分の力に過剰評価するのは危険だと思うが』
「違うこれは必然だ。自信など必要ない。俺はただ敵を倒すだけの存在だ。昔からそうしてきた」
『まるで傀儡だな。寂しくないか? そうやって戦うのは』
「戦いに寂しさなんているか? 寂しさで何かが変わるのか? 感情一つで戦いが流れたらそれは敗北の道だ。戦いの中に私情を持ち込むなと言わないが、最低限の覚悟を持って行うことだ。俺は自分をヒーローとは思わないし、勇者にも英雄にもなりたいとは思わない」
『口が回るようになったが、どれも辛辣だな。これは好奇心から出る質問だが、お前をそこまでしたのはそのチカラが原因か?』
「……だとしら?」
少し、ほんの少しだけ、青年から冷たい何かが男の心臓を激しく鳴らした。
それで地雷だと感じたか男はあえて挑発気味に肩をすくめる。この肉体でどこまで戦えるか分からないが、この男の本気を見ずに終われない。「簡単に壊れるなよ」と内心で呟くと練り込まれた魔力を巡らせる。
『いや、何処か俺に似てるなと思って……さ!』
言い切ると魔力を爆発させた。衝撃波が周囲の地盤を削ると彼の中から二色の魔力が出て、混ざり合い新たな色を示す。
赤色の火。
黄色の雷。
二色が絡み合い遺伝子の螺旋状のように結合する。
それは『融合』だ。
魔法使いが扱う技法の中でも最上位の技法の一つ。
『どうやら……このレベルなら問題なさそうだ』
混ざり合ったそれは緋色の雷光となる。
男の体に纏うと緋色の雷が雷鳴を鳴らして、暴れたそうに地面を駆け回る。
青年にまで届くことはないが、新たな敵の変化に青年のが初めて難しそうに歪んでいた。
『“緋天の皇蕾衣”……ちょっと痺れるが、構わないな』
絶対痺れる程度では済まないと思うが、冗談気味に言うと男に青年は歪めた顔を引っ込めて、再び冷たく感情が乏しい無のモノへと変える。
「……」
そして手に黒きモノを出現させる。
何をするか男が注意していると、天高く抱えげて身体中から何か目に見えない大きな力を放出させた。
『──っ!? なんて威圧感だ』
瞬間、存在感が異様に増したのを感じて、男の体に緊張が走る。
あちらも全開を出したか、警戒を最大まで引き上げると青年は黒く染まった手を掲げた状態でこちらを一瞥し、そして。
「【異能術式】起動。身に纏え【黒雷迅鎧】」
緋色の雷と対立するように“黒き雷”を呼び出してその身に纏わせた。
さらに左右から先程よりやや短な槍を生み出す。先が鋭利なものとなって黒き雷を帯びていた槍を構える。冷たい瞳を男へ向けて合わせるように、これまでで最大の威圧を浴びせた。
『……いい殺気だ。本当に久々だ』
しかし、男からは発せられる声に恐怖の色はない。
寧ろ歓喜に近い。普通の試合や殺し合いとも違う。純粋な戦いの中でここまで楽しめたが嬉しくてしょうがない。
『さてと……そろそろやるか?』
だから動くのは思ったよりも早かった。
今度は相手の返答も待たず、雷鳴と共に緋色の雷となって駆ける。
あっという間に青年の真正面まで駆けると、反応が全くない彼の頭部めがけて雷を込めた踵落とし繰り出す。速過ぎて認識すら出来てないのか、青年は身動き一つ取らず振り下ろされた雷の鉄槌をもろに受け……。
『──ッ!?』
が、直撃しそうになったところで、“黒き雷”が男を襲いかかる。まったく動こうとしなかった青年だが、寸前で頭を横に動かして紙一重で躱したと思えばそのまま跳躍する。
「……!」
男めがけて二槍を振るいその体躯を斬り刻む。
男に負けないほどの速さで。
『──なんてな、そいつは分身体だ』
しかし、青年が振るった二槍の刃は男を斬っても手応えを感じさせなかった。違和感を感じてすぐに動こうとしたが、そんな彼も速く男が背後から現れて斬り刻んだ方は緋色の雷となって消える。
『シッ!!』
男から手から出た緋色の魔剣“雷轟く緋天王の一振り”が背中から青年を貫く。急所は外れているが、確実に決め手となる一撃。
……だった。
「ああ、だろうと思った」
『なっ!?』
バキバキッと金属が砕ける音と共に剣先から砕けた魔剣を見て、男は目を見開いて驚いた。同時に脇腹に突き刺さったもう一本の槍の痛みと、駆け巡る電撃の痺れが“緋天”を纏った彼を襲う。
なんと青年は振り向きもせず、握っていた一槍を逆さにして脇の下から背後に付いた男の脇腹を貫く。さらにもう一槍で体を貫いた魔剣を逆に貫いていた。
いや、正確には魔剣が貫くよりも前にだ。魔剣が貫いたように見えたが、実は彼の槍の方が先に彼を貫いて魔剣の突きを返していた。
殺傷能力がない槍だった為、怪我はないが、砕けた魔剣から出てきた槍は突き刺した部分から煙を出している。どうやら彼自身、体内から異能の効果を受けると同じようにチカラを削られるらしい。
苦悶顔こそ出てはないが、脇腹を込められた力は槍を深々と貫こうとする。砕けた魔剣を捨てて退がろうとしたが、待っていたように“黒き雷”が体全体に駆け巡る。“緋天”の魔力でガードしたが、それでも消耗が激しく身体の至る所から煙が上がり目眩すら起こった。
「【ー始槍ー黑槍貫通】」
だから次の相手の攻撃に対し対応が遅れてしまった。
突如出現した無数の槍の投槍と二槍から繰り出された突きの連撃が男の体に深々と突き刺さった。
『がぁああああああ!?』
貫通する度に煙上げて消えていく槍。
青年の槍は雷を帯びていたから消滅しなかったのか、何度も何度も突きを浴びせていく。
血飛沫どころか服すら傷付かない。突き刺さった箇所から煙が上がるのみだが、突かれる度に男の魔力と精神が消耗していく。痛覚も増していくが、意識が闇に落ちそうになる感覚に男は堪えるのに必死だった。
『うッ……“緋蕾降臨”!!』
もはや無理矢理魔力を解放する以外に方法がなかった。
意識が飛ぶ前に“緋天”の魔力を爆発させて、飛んでくる槍を払って向かって連撃を繰り出し続ける青年を追い出す。
魔力爆発の反動で接近していた青年の体が吹き飛ぶ。
が、纏っていた“黒き雷”の影響か、雷の如く速さと動きで着地してすぐさま槍を構えようとしたが。
「……!」
こちらの変化に見極めたか、顔色が変わる。踏み込もうとした脚を止めて、また厳しい表情で見つめると、息を吐いて持っていた二つ槍を消した。距離を取った状態から右手を構えて体内の『心力』を絞り出し“黒き雷”を集め出す。
そうだ、もうただの槍程度では貫けない。纏っているチカラの大きさがこれまでと明らかに違っていた。
魔力が限界まで引き出された状態でいる男の肉体まで、槍が届かないと気付いた青年は、いよいよ決着を付けようと最大の遠距離技を繰り出そうとしていた。
『付き合ってくれるのか? いいのか? これを受けたらさすがに死ぬぞ』
しかしそれは相手も同じこと。
忠告する男の手のひらに纏う緋色よりもさらに濃い、莫大な魔力が込められた魔力球が出現する。人を消し去ってしまうレベルではなく、下手しら学校が消し飛んでしまうレベルの球だ。
極小サイズにまで込められたソレを構えた男が言うと、それに対して青年はさらに濃い“黒き雷”を右腕に纏わせて答える。
──受けて立つ。
言葉こそなかったが、そう受け取れる対応に男は嬉しげに微かに笑う。
もうこれ以上、この場に存在して居られないことを内部から崩壊が始まっている肉体から感じ取りながら、両手のひらを前に突き出すと。
高まっていく緋色の魔力中で雷光を共に叫んだ。
『“緋天王の炎蕾砲射”ッッ!!』
両手の中心に浮かぶ“緋天”の魔力球を前方へ放つ。
放たれた魔力球は雷光の粒子となって巨大となる。大きな放射線に変わって校舎ごと青年を飲み込もうとした。
そして雷鳴を轟かせながら巨大な破壊のエネルギーは、彼が繰り出した同じくらい巨大な“黒き雷”の放射線と衝突した。
***
これが最後だ。構えられた緋色の砲撃を前に俺はそう確信して迎え撃つ。すぐに発射されるであろうが、俺の思考は一切止まっておらず、あの攻撃に対して有効な手段を割り出して。
既に終えていた。
脳内の演算能力で異能に術式を加える【異能術式】を起動させた。
すると右腕全体にさらに濃い黒き雷が込められた。
莫大な『心力』が込められたものが。
そして相手が放った緋色の雷が巨大な放射線なって向かってくる。
脳裏の浮かぶ計算では間に合う筈だが、掠っただけでも間違いなく致命傷になってしまう。纏っている【黒雷迅鎧】なら受け切れるかもしれないが、それでもリスクが大きい。防御に『心力』を注げば可能かもしれないが、不思議なことにここでその選択を取らない俺がいた。
やはり俺も戦いを求める異能者で男か。
一騎打ちのようなこの局面でその選択だけは取りたいと思えなかった。
さっきまで辛辣なセリフを吐いていた者とは思えない心境だが、どのみち今更退ける状態でもなくなかった。壊れても大丈夫だろうが、校舎の被害も一応隅に入れつつ放たれた攻撃に向かって俺も雷を帯びた拳を打て解放させた。
【ー始雷ー黒鳴】
放出された莫大な量の“黒き雷”が緋色の雷と激突。
その反動で両者共に吹き飛びそうになるが堪える。さらに威力を上げて相手を押し出そうとチカラを注ぎ続ける。
激しくぶつかり合う二つの雷。
塊だった互いの雷が火花のように散っていく。
その度に俺と男が押し出されそうなるが、懸命に堪えて尚もチカラを注ぐ。
「……なに?」
しかし、均衡が続く。時間にしても数秒の間だが、だった数秒で辺りに拡散した互いの雷が膨張して周囲を破壊していた。
厳密には相手の雷のみだが、俺にとって想定外の現象だった。
均衡が続くのであれば互いの力は相殺されていく筈だったからだ。
が、チカラも膨大となってとうとう校舎全体が半壊する程にまで達してしまった。このままでは間違いなく校舎が消えてしまう。
原因は言うまでもない。
相手のチカラが最初の時よりも格段に上がって、俺の異能で消し切れなくなっているのだ。だから消し切れない端からエネルギーが溢れ落ちて校舎を破壊し始めた。
「っ」
……だとしたらこれ以上は危険か。素の放出を止めさせないとさらに拡散して俺の異能でも止められなくなる。というか、その前に俺が消し炭になる可能性が高い。
出し惜しみのつもりはなかったが、被害が拡散していく世界を見て、俺は奥手の切ることにした。少々強引なやり方だが、相手の雷を抑えるにはこの手しかない。
「【術式融……」
脳内で再び演算処理を行うとしたその時。
『流石にこれ以上は見てられないな。──消し去れ……“魔無”』
天から届いたような男の声。
不思議なことに男も驚いたように視線を左右に送っている。
しかも聞こえた声は大きくないのに、透き通るように耳元に響いた。
すると音もなく衝突し合う二色の雷の中心に無色の渦が生まれて、霧のように二色の雷を消しさて広がっていく。
何が起こっているのかと訝しげた俺だが、異能さえも消し去っていく現象に異常事態だと感じるも驚く暇もなかった。
「……!!」
その渦はやがて男をそして俺をも飲み込でしまう。
逃れようと雷を放つのをやめて跳躍しようとしたが、不思議なことに動けない。
「っ……鎖?」
否、目に見えない無色の鎖がいつの間にか俺を拘束しており、行動そのものを阻害させて……。
「──っ! くそ……」
とそこまで思考を巡らせるのが限界だった。
無色の渦が俺を飲み込んだ途端、意識が遠退いていくのが分かる。
咄嗟に意識を覚醒させようとしたが、それすらも許さない絶対的なチカラ。さっきの男など比べものにならないほどの圧倒的な支配のチカラが、俺の異能を完全に封じて意識まで奪っていった。
そして視界が真っ白に染まる。
遠退く意識の先で対立した男が消えていくのを微かに感じ取ったが。
『なかなか面白い見世物だった。噂に聞いた【エレメント】と【王殺し】のシンクロはまだまだのようだが、いつか俺の領域に立ったら、その時は俺自身が相手してやるよ』
最後の最後の男と同じ声。
しかし、男とはまったく異なる静かな気配が軽い調子で声をかけてきた。
もう意識はほぼない状態だったが、それでも反射的に「なんで最後にネタバレみたいなことするかな?」とか「領域ってなに? 神的な何かですか?」とかツッコミたくなったが、そんな気力など消えかけた意識の中にいる俺には不可能な訳で……。
『また会おう。他所の世界の『苦労人』』
俺の夢はそこで終わった。
***
……。
…………。
…………パチリ。
「……」むくり
ようやくそこで俺の目が覚める。
無意識に起き上がるとやかましく鳴り響く目覚まし時計をゴミ箱へ豪速球で投げ付ける。何故か分からないが、非常に理不尽な夢を見させられた気がしたからだ。
ブー! ブー!
そして呆然とする中、傍に置いていたスマホが震える。
画面からメッセージが届いたのだと知ったが、送ってきた人物が幼馴染だと分かるや無意識に頰がピクリと動いた気がした。
いや、気がしたというか明らかにヒクついていた。
*
差出人:九条凪(ドS)
宛先:泉零
件名:モーニングコール☆
やぁ、おはよう。起きてるかなぁ?
幼馴染からのラブコールだよ♫
追伸:良い夢見られたかなd( ̄  ̄)?
*
「……」
内容が読み取った途端、思わずスマホを置いて窓を開けた。
眩い朝日を見上げながら「天気良いなぁ」など現実逃避しつつ、下の階で身支度をしてるであろう愛しの妹へ、朝のおはようをするのだった。
ついでに幼馴染の危険度が数段増したが。あの女いよいよ神に近付いたんじゃないか?
えろげーで幼馴染が最強パターンなこと多いが、アレは絶対バクだと俺は最後の締めとして述べたいね。グダグダと続いてしまったが、俺の泉零の何気ない話はこうして夢オチとして幕を閉じたのだった。
これ本当に必要な物語だったか?
ていうか、夢オチかよ! どうせなら義妹とのラブコメにしてくれぇ!!
酷いオチですね。書いた本人が言うセリフじゃありませんが。
お知らせですが、まだちょっと忙しいので『オリマス』は更新はまだちょっと掛かりそうです。
あと最終章後におまけ編として現代編『神の魔法使いの弟子』をやる予定です。まだ確定してませんが、一応予定として入れました。どれもまだまだ先のことになりますが、どうかよろしくお願いします。