見える世界
私は咲良結衣。
今年で18歳になる高校生だ。
ううん、高校生って言うのは少し違うのかな?
盲学校高等部。
そう、私は生まれつき目が見えないため普通の学校には通っていない。
今はその盲学校にすら行ってないんだけどね。
分かってくれるかな。
この一生を暗闇の中で生きなければならない苦しみ。
何も見えない。
それだけのことで私は嫌になってしまった。
この世界に生きることが嫌になってしまった。
一人で歩きたい。
外の景色を見たい。
光がほしい…。
「入るぞー。」 部屋の戸が急に開かれたと思ったら聞き慣れた声が聞こえた。
「勝手に入らないで。」
「何だ何だ。 今日も絶賛クールダウンだなおい。」
結衣の兄である咲良洋。
三つ年上の大学生である兄はいつも陰気に引きこもる結衣にしつこく絡んでくる。
正直結衣にとってうっとおしいとしか思わない存在。
「こんな昼間にカーテンも開けずに…まったく。」
「私には関係ない。」
「暖かい陽気を部屋に入れろってんだ。 また学校サボって部屋に引きこもりやがって。」
また説教。 そんなのもう聞き飽きたと結衣は無言で膝を抱えた。
「…。」
「返事くれないとお兄ちゃん寂しいだろう。 っとここに置いていいかな。」
もはや独り言を呟きながら洋が何かをしている。 たぶん声の方向的に机の上であろうか? そこに何かを置いたような音が聞こえた。
「結衣。 これから目が見えるようにしてやるからな。」
「えっ?」
何か作業をしながら急に発した洋の言葉に、無視を決め込んでいた結衣は思わず反応してしまった。
「どういうこと?」
「はっ。 急に声色変えちゃって。 ちょっと待ってろ。」
「…。」
「よし、動くなよ。」 そう言うと洋は結衣の頭に何かを被せた。
少し重いけど、内側がクッションになるような素材のためあまり辛くはない。
「じゃあ、最初時間かかるだろうから先に行って待ってるからな。」
「…。」
黙ってされるがままにされてるが、結衣には未だに何を言ってるのか全然分からない。 急にそんなこと言われても意味不明なのは当たり前だ。
どうせからかってるだけなのだろうと、考えるのも面倒になってきた。 そんな魔法みたいに急に目が見えるようになるはずなんてないのだ。 結衣の目は不治の病なのだから。
すると洋が操作したのか、静寂に包まれた部屋に機械音が鳴り始める。
それに呼応するように結衣の頭に被せられた何かも機動音を発し始める。
そこで初めて恐怖が押し寄せてきた。
「何? 何するの?」
「それ取るなよ? あと少しだから黙って待ってろ。」
思わず頭に触ろうとした手を引っ込める。
一体何だって言うのだろう。
まあ、どうでもいいや。
好きにし………。 と結衣の思考は一瞬途絶えたのだった。
Open The Dears World。