薄氷が砕けた朝
僕は今朝釣りに出かけていた。冬の時期、只でさえ寒い地域の僕の故郷は吹雪に包まれて外をなかなか出歩けない日々が続く。僕は久しぶりに新鮮な魚を家族に御馳走しようと朝から湖で釣りをしようと出かけていたのだ。僕は魔法で吹雪を防げるから特別に外出許可を得て、一人魚が食いつくのを待っていた。
「今日はなかなか釣れないなぁ....。」
「あら、貴方こんな吹雪が酷い日に何をやっているのかしら?」
ふと後ろから凛とした声が聞こえた。振り返ると、銀色の絹糸のような美しい髪を靡かせた愛らしい少女だった。
こんな吹雪の酷い日になんで僕以外の人間が外出してるんだ?ここら辺で僕と同じくらい魔法を使いこなせる子はいないのに。
彼女の背後を見ればとても立派な車があった。こんな辺鄙なところではお目にかかることはないであろう一級品だ。
「釣りさ。君こそどうしてここにいるんだ?村の方向ならあっちだよ。」
ここらで泊まれるところは生憎僕の村以外はない。こんなお嬢様には狭いかもしれないが、この吹雪の中放り出すほうが可哀想だ。
「釣り?この吹雪の中正気じゃないわね。こんな吹雪、氷臓病の者以外には厳しすぎるわよ。」
僕の病気は魔法界では最高峰になるための条件になるほど世の中では素晴らしいと持て囃される。才能と同じ扱いすらされている。それほどまで強力な力なのだ。だが、僕は一度もこの病気を才能と認識することはできなかった。
「そうだよ。だから僕はここにいる。」
「......貴方、氷臓病なの?」
ぴたりと背後にいる少女の気配が固まった。ああ、うんざりする。きっと僕のことを才能に溢れた未来ある天才だと讃えるのだろう。短い未来なんてないに等しいのに。
「そう....貴方、今何歳なの?」
今までの反応と少し違う気がした。どこか落ち着いた、温度が少し下がったようなそんな気が。
「15歳だ。」
「同い年ね。貴方、私のとこに来なさい。」
え?と思ったのは一瞬だった。運転手によって開かれた扉の中に僕は引きずりこまれた。華奢な見た目に反して力があったことに驚いたが、そんなことよりもさっさと車をだされたことが問題だ。
「何をするんだ!」
彼女に怒鳴っとみたが、彼女は僕の声なんて聞こえていないかのように僕の目を見た。薄い氷が張った湖のような色が彼女の瞳の奥底に見えたがした。
「私も貴方と同じ病に犯されてるの。でもね、私18歳以上生きてるの。貴方も生きたいと思わない?」
そんな瞳とは反対に甘く僕の心臓を高鳴らせる質問を彼女はしてきたのだ。