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9・息子。

 ロブが来た。

薬を返すから金を返して欲しいという。

ソレはお袋さんのために必要だったハズだろう? 


「もう要らなくなったんだ、今朝死んだからな。

葬式は昼に神官に来てくれるように頼んだ。

遺言で亭主の隣じゃあない所を指定したからソコに埋めるよ。

オレの家の庭の隅だけどな」


そうか……死んだか……

死ねば少しは嬉しいかと思ったがそんなに嬉しくもないな。

ロブの親父が死んだときは結構嬉しいような気もしたんだが。


金は返せないと言ってやる。

コイツが憎い訳じゃあないがコイツは息子を苦しめた男の息子だ。

親身になってやる義理なんぞ無い! 

なんでコイツの親父は私の息子と同じ名前をコイツにつけたんだろう? 

女房とウチの息子のコトを知ってたハズなのに……


「そうか……返す気は無いか。

そういえばもうじき徴用の役人が来る頃だな。

アンタの所の孫もそろそろだっただろう?」


孫? 一体何の話なんだ? 


「徴用の役人は鑑定の出来るヤツを連れてくる。能力とか確認するために。

オレの家に有るお袋の飲み残しの薬を鑑定してもらったらどうなると思う?」


あ、あの薬はほとんど効き目の無い偽薬だった。

村で薬を扱ってるのは私だけだ……

役人に知れたら取り調べだけでは済まない! 済むはずがない! 

家族が犯罪者になったら徴用された孫がどんな扱いを受けるか……


「お袋は偽薬だって気付いてたって言ってたよ。

アンタの気持ちがソレで済むならって思ってたそうだ。

まあ、オレの気は済まないがな。

偽薬の代金を今までの分も合わせて返してくれれば役人にも言わずにおいてやる。

畑を譲って小作になるって話もチャラにさせてもらうぞ」


結局、金を全額返すことにした。

他にどうしようもないだろう。

しかしコイツはそんなに金をかき集めて何をしようとしてるんだろう? 


「薬の金のために森で拾ったアノ女を売った。

アイツを買い戻そうと思う。

買い戻して亭主の元に返してやりたいんだ。出来たらだがな」


亭主? 亭主の居る女だったのか?! 


「指輪をしてたんだ。

お袋が言うことには東の果ての国だと妻にする女に指輪を贈るそうだ。

アノ女がしてた指輪がそうだとは限らないけどな」


……ソレは私が小さかった息子のしてやった話だ。

コイツの母親がソノ話を知ってるってコトは息子が教えたということか? 


息子はコイツの母親に惚れ込んで別の男に孕まされたと知っても

さらって逃げようとした。

私や妻や村の全てを捨てて……

許せなかった……息子もコイツの母親も……コイツの親父など言うまでもない! 


捕まえて家に閉じ込めたが徴用の役人には逆らえなかった。

そうして息子は帰ってこなかった。

コイツの親父は帰ってきたのに! 


「葬式が済んだらオレはアノ女を取り戻しに出かける。

帰って来られないかも知れないがそうなったら畑は好きにしていい。

そうだな……3年戻らなかったら……でいいか」


な、なんでそんなことを……


「アンタの気は済んでないんだろ? 

畑が無いとコノ村じゃあ暮らして行けないが帰ってこられないなら誰かが畑の

面倒をみてくれると有り難いしな。

畑が欲しいんならやるさ。帰ってこられなかったらだがな」


そう言うと金を持って帰って行った。

女のために帰れないかも知れない旅に出るのか……

全てを捨ててアイツの母親と逃げようとした息子が後ろ姿に重なって見えた気がした。

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